第160話「素直になれない牛頭丸」

「――お前達が夏目の知り合いなのはわかった。……で、結局何しに来たんだ?」
「だ〜か〜ら〜!私等は彩乃に用があるのであって、あんた等にはないんだよ!さっ、行くよ彩乃!」
「え?どこに?」
「これから『夏目様を偲ぶ会』を開くのです!!」
「……え?何それ?」
「夏目様のしょうもない悩みやお節介に付き合って、呼び出し有らば犬の如く馳せ参じようという妖が集まった飲み会。言わば夏目組、犬の会です!!」
「ええーっ!!」

中級達の思わぬ発言に驚いていると、彩乃は無理やり中級達に胴上げされてしまう。
そのまま彩乃を連れて何処かへ向かおうとする中級達をリクオと氷麗が慌てて止めた。

「さあさあ、おいでませ夏目様ー!」
「わー!下ろしてーー!!」
「ちょっ!ちょっと待ってよ!!」
「そうよ!いきなり奴良組に侵入して何なのよあんた達!」
「なんだい?うるさい小娘だねぇ。」
「なんですってぇ!あなた捩眼山の時にも居たわね。彩乃さんの何なのよ!」
「私は彩乃の友人だよ。」
「私だってそうよ!」
「あ、あの〜、氷麗ちゃん?ヒノエ?喧嘩はやめて……」

何故か喧嘩を始めてしまった氷麗とヒノエ。
彩乃は二人の恐ろしい程の険悪な空気にビクつきながらも喧嘩をやめるように言った。

「彩乃さんがそう言うなら……」
「仕方ないねぇ……」

渋々といった感じだが、何とか喧嘩をやめてくれた二人にホッと胸を撫で下ろす彩乃。
すると今度は今まで様子を傍観していた牛頭丸がしゃしゃり出てきた。

「おいお前等。いつまでも奴良組の敷地にいるんじゃねーよ。その女は今は奴良組に用があるんだ。話があるならお前等が後にしろ!」
「ちょっと牛頭丸。」
「ああん?なんだいこのクソガキは。」
「ガキだあ?もういっぺん言ってみろ。殺すぞ!」
「上等だよ!!」
「やめてヒノエ!」
「駄目だよ牛頭丸!どうしてそんな喧嘩腰なの!」

漸く収拾がついたと思ったのに、今度は牛頭丸がヒノエを挑発してくるもんだから、またもや険悪な空気になってしまう。
彩乃とリクオがそれぞれ止めるが、牛頭丸は機嫌が悪いのか舌打ちした。

「……ちっ、本家のくせに情けねーな。こんな奴等さっさと追い出せばいいだろ!」
「やめろ牛頭。無駄な争いはするな。」
「ですが牛鬼様!」
「二度も言わせるな。」
「っ。」

慕っている牛鬼から咎めれ、牛頭丸は渋々黙る。
そんな彼を困ったように見つめるリクオに、彩乃は気になっていた事を尋ねた。

「――ねぇ、リクオくん。今更だけど、どうして牛頭丸と馬頭丸が本家にいるの?何かあった?」
「あっ、そう言えば彩乃ちゃんにはまだ言って無かったね。二人は捩眼山の一件以来、本家お預かりになったんだよ。」
「――え?」
「何だよ。俺達がここにいたらまずいのか?」
「ううん、そんなことはないけど……」

彩乃を鋭い眼差しで睨み付ける牛頭丸に、見かねた馬頭丸が呆れたようにため息をつくと言った。

「……はあ。もー牛頭ったら、そんな喧嘩腰だからいつまでもこの子にお礼が言えないんだよ。」
「ばっ!馬頭てめぇ余計なこと言うな!!」
「……お礼?」

お礼とは何のことだろう? 
馬頭丸の口を押さえて真っ赤な顔で慌てる牛頭丸に、彩乃は心当たりがないのか首を傾げる。
すると彩乃の視線が気になったのか、牛頭丸はチラチラとこちらに視線を送ってくる。
中々話し出そうとしない牛頭丸に呆れたのか、牛鬼は小さくため息をつくと言った。

「――捩眼山の一件で牛頭の手当てをしてくれたであろう?その礼が言いたいそうなのだ。」
「牛鬼様!?」
「……ああ、あの時の……」

彩乃が思い出したように呟くと、牛頭丸は真っ赤な顔で彩乃に食って掛かった。

「おいてめぇ!あの時はよくも手当てなんかしてくれたな!余計なマネしやがって!俺は頼んでな……いてっ!」

逆ギレして彩乃に噛みつく牛頭丸の頭を叩いたのは牛鬼だった。

「いい加減にしろ。お前は命の恩人にお礼のひとつも言えないのか。」
「〜っ、牛鬼様……ですが俺は!」
「…………牛頭丸。」
「…………っ、あっ、ありが……くっ……ありが……とう……」
「う、ううん。どういたしまして……」
「――くそっ!」

牛頭丸はいたたまれなくなったのか、屋敷の奥へと姿を消してしまう。
そんな牛頭丸の様子に牛鬼と馬頭丸はやれやれと呆れたように肩をすくめた。

「もー牛頭ったら本当に素直じゃないよね〜。あっ、久しぶり。僕のこと覚えてる?」
「え?う、うん。馬頭丸よね?」
「そうそう。レイコの孫の彩乃でしょ?これからは仲間だからよろしくねえ〜!」
「う、うん。よろしく……」

牛頭丸と違って親しげに挨拶してくる馬頭丸に呆気に取られながら彩乃は差し出された手を握り返した。
馬頭丸と彩乃が仲良さげに握手を交わしていると、それまで様子を見守っていたヒノエが彩乃と馬頭丸を引き剥がした。

「いつまで私の彩乃に触ってるんだい!?」
「……私はヒノエのものじゃないけど……」
「そんなことより夏目の姐御。早く会場に行きましょう!」
「えっ、本当にやるの!?」
「当たり前だろ。勿論、斑も来るんだろ?」
「ただ酒が飲めるなら行くに決まってるだろう!」
「決まりだね。」
「わわっ!ちょっと!」
「ああ、彩乃ちゃん!?」

彩乃の返事も待たずに彼女を担ぎ上げると、ヒノエ達は奴良組を出て何処かへと去っていく。
連れ去られていく彩乃をリクオと氷麗は慌てて追いかけるのであった。

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