第175話「巻き込まれた鳥居」

プルルル、プルルル
「――あれ?巻さんから電話?」

家にいると、巻から電話がかかってきた。
珍しい相手からの電話に彩乃は不思議に思いながらも通話ボタンを押した。

ピッ
「もしもし……巻さん?」
『――夏目先輩お願い助けて!!』
「え!?ちょ、どうしたの!?」
『鳥居が……鳥居が死んじゃう!!』
「――えっ!?」

突然巻から「死ぬ」などという不吉な言葉が飛び出し、彩乃はぎょっとする。
しかも巻は電話の向こうで相当取り乱しているのか、泣きながら「鳥居が……鳥居が……」と繰り返しているだけだ。
これはただ事ではないと思った彩乃は、巻を落ち着かせるように冷静に言った。

「落ち着いて巻さん。今からそっちに行くから……今何処にいるの?」
『……っ、浮世絵……総合……病院……』
「病院だね、わかった。ちょっと待ってて!」

そして彩乃はニャンコ先生を連れて大急ぎで病院へと向かうのであった。

――浮世絵総合病院――

「――巻さん!」
「――っ!夏目……せんぱぁい!!」
「わっ!」

彩乃が病院に駆け付けると、集中治療室の前で巻が泣きながら座っていた。
巻は彩乃の姿を見るや否や、彼女に抱き付いてきた。

******

「――そんなことがあったんだ……」
「鳥居が不気味な妖怪に襲われて、こんなことになって……ゆらちゃんならどうにかできるかもって電話したけど繋がらなくて……だから、祓い屋の先輩ならって……っ!!」
「……事情はわかったよ。巻さんはこのまま鳥居さんの側についていてあげて。」
「――先輩は?」
「私は……なんとか鳥居さんを助ける方法を探してみる。鳥居さんを襲った妖を見つければきっと……!」
「だ、だったら私も……!」
「ううん、巻さんはここにいて。」
「でも……!」
「危ないし。それに……鳥居さんの側にいてあげて?」
「あ……そう……だよね……」
「じゃあ、私行くね。大丈夫。絶対鳥居さんは助ける!」
「先輩……お願い。鳥居を助けて!」
「……うん。」

彩乃は不安げに自分を見つめる巻の手を取ってしっかりと頷いた。
震える巻の手をそっと放すと、彩乃は踵を返して走り出した。

「――どうするつもりなんだ?」
「――えっ?」
「助けると言っても、どんな妖かもわからんだろう。」
「――あ。」
「……阿呆が……」
「……ど、どうしよう。手掛かりが何もない……」
「考え無しに安請け合いするからだ。」
「だって!……そうだ!」
「ん?」
「リクオくんに事情を話して協力してもらおう!鳥居さんの命がかかってるんだもん。手段は選んでられないよ!」
「お前にしては珍しく人を頼るんだな。」
「今回は状況が悪すぎるからね。」

そう言うと彩乃は携帯を取り出してリクオに電話をかけた。

プルルル、プルルル 
プルルル、プルルル
ピッ
『――はい。』
「あ、リクオくん!?急に電話してごめん!」
『彩乃ちゃん!?どうしたの?悪いんだけど今は……』
「ごめんリクオくん!こっちも緊急事態なの!鳥居さんが妖に襲われて……!」
『!、どうして鳥居さんのことを……!?』
「え……」

リクオが鳥居の事情を知っていることに彩乃は驚いて声を漏らす。

「……リクオくん……鳥居さんのこと知ってるの?」
『実は……』

リクオは黒田坊から聞いた話を掻い摘んで話した。

「――そっか。それじゃあ鳥居さんを助けるにはその呪いを解かないといけないんだね……」
『そう。だから今はカラス達を使って鳥居さんを襲った妖怪を探してる。彩乃ちゃんは危ないから家に帰っ……』
「……黒田坊は鳥居さんを襲った妖を見たんだよね?」
『――え?う、うん。そうだけど……』
「……私……その妖、見つけられるかもしれない……」
『――えっ!?』

彩乃のポツリと呟かれた言葉にリクオは声を上げる。
果たして彩乃の言葉の意味する事とは……

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