第202話「許しの条件」

「彩乃ちゃん!?危ないから来るなって言ったのに……!」 
「ごめんリクオくん。お説教なら後でちゃんと聞くから!」 
「――え?ちょっと……!」
「彩乃さん何を……」

彩乃の突然の登場にリクオや氷麗は大慌てで駆け寄ってくるが、彩乃は二人を一瞥すると、そのまま足を止めずに玉章の元へと歩いていく。
それに焦ったのは勿論リクオと氷麗の二人であり、慌てて止めようとするが、彩乃は駆け寄ろうとする二人を手で制した。
そして……地に倒れ伏す玉章の元へとゆっくりと歩み寄った。

「――玉章……」
「……ぅ……」
「玉章……後悔してる?今……何を思ってる?」
「……何が……言いたい……」
「……少し前から見てたの。あなたは……仲間を斬り捨てて、また……裏切ったんだね。犬神と同じように……」
「……」
「馬鹿だね、玉章……」
「くっ……僕を……笑いに来たのか……だったら……「後悔して。」

彩乃の静かな声が、やけに辺りに響いた。
彩乃はただ静かに玉章を見下ろす。

「後悔して。そして……精一杯悔やんで……」

彩乃は静かな瞳で玉章を見下ろしていたが、軈て膝を折って彼の目線に合わせるように跪いた。

「そうすればきっと……玉章は今度こそ本当に大切なものに気付けるから……」
「……」

悲しげな、けれどどこか慈愛に満ちた穏やかな笑顔で玉章に笑いかけると、彼は黙り込んだ。
そして……

「だっっせーな!!玉章っ!!」
「……っ、犬…神……」
「何やってんだよ!!立てよ!!普段の踏ん反り返ってえらっそーなお前はどうしたんだぜよ!!お前は……こんな所で折れる男じゃねーだろ!!!」
「……くっ……好き勝手……言うな……くそ犬が……!!」
「おう!!悔しかったら立てよ!!また立ち上がって見せろよ!!」
「犬神……」

玉章に必死に訴える犬神を、彩乃は切なそうな表情で見つめていた。
玉章も犬神の怒声に感化され、ボロボロの体を必死に引き摺って立ち上がろうとしていた。
しかし、それを許さない者がここに一人…… 

「ざっけんな!!俺は親父の仇を取るんだ!!邪魔すんな!!」 
ドンっ!!
「わっ!」

猩影はそう叫ぶと、彩乃を突き飛ばして玉章に再び刀を振り下ろした。

ガッ!!
「「!?」」
「えっ!?」
「な……総大将ーーー!!今まで何処へーー!?」
「ふう〜〜、間に合ったわい。」

なんと、猩影の一太刀を止めたのは今まで行方知れずになっていたぬらりひょんだった。
あまりにも突然のぬらりひょんの登場に、その場にいた奴良組の妖怪たちがざわついた。
鴉天狗に至っては涙目になっている。

「止めないでくれ!!親父の仇だ!!俺がやるんだ!!」
「ま……待ってくれ!!」

猩影の言葉に悲痛な声で制止の言葉を叫んだのは見知らぬ老人だった。
スーツ姿の老人はタクシーから飛び足すようにこちらに駆け寄ってくると、突然その姿を変えた。

どろんっ!!
「デケェェェ!!化け狸だぁあーーー!!?」

ヨボヨボの老人から突然大きな大きな化け狸の姿へと変化したその老人は、玉章を見ると悲しそうに涙を流し、そして突然土下座したのだった。

「おお……玉章……なさけない姿になりおって……頼む……この……通りだ!!」
「い…隠神刑部狸さま……」
「こんな所にまで……」
「こんな奴でもワシには……こいつしかおらんのです。バカな息子……償っても償いきれんだろうが、四国で今後一切大人しくさせますゆえ……お願いじゃ……何卒…何卒…命だけは……それ以外ならどんなけじめも取らせますから……」

玉章の父親である隠神刑部狸は切実な声で必死に懇願した。
けれど玉章をどうするかを決めることができるのは、この戦の勝者であるリクオだけであった。
皆、どうするのかとリクオに視線を向ける。

「リクオ……どうすんだ?お前が決めろ。」
「リクオくん……」
「リクオ様……」
「……」

彩乃やぬらりひょん。
奴良組の者や四国妖怪たちが静かにリクオの決断を待つ。
リクオは険しい表情で隠神刑部狸と玉章を交互に見つめると……暫く悩んである答えを出した。

「一つだけ……条件がある……」

その、条件とは……

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