第203話「たった一つの条件」

「ちょっ……若ー!!ダメです……休んで下さーい!!」
「いや、僕行くから!!氷麗お弁当ーー!!」
「ダメだよリクオくん!そんな体で無茶しちゃ!!」
「でも!学校は休めないよ!!」
「誰かリクオ様を止めろぉ!」
「いてて……」
「ほらぁ!傷が開いちゃうよ!」
「だけど!」
「聞きわけなさーい!!どんだけ斬り刻まれたと思ってるのー!!包帯でぐるぐる巻きにしますよーー!!」

出入りから帰ってきたリクオの体はあっちこっちが刀で斬られ、ボロボロに傷ついていた。
手当てを受けて身体中に包帯を巻いた姿はとても痛々しい。
そんなボロボロの体だというのに、リクオは学校に行くと言って譲らない。
彩乃や氷麗たちが必死に止めても聞きわけないリクオに、ついに氷麗がキレた。
氷麗の怒声に、リクオは渋々大人しく従うしかなかった。

「今日は日直だったんだよな……ねえ!午後からでも……」
「まだ言うか!いいからおめーは寝てろ!」
「こんな時くらい大人しくしててリクオくん!私も今日は学校休むから!」
「彩乃ちゃん……わかったよ。」
「そうしてくださいリクオ様。彩乃さんはリクオ様が無茶しないように見張っててくださいね。」
「うん、任せて!」
「ええ〜……」

氷麗はそう言うと新しい包帯を取りに部屋を出ていった。
部屋には沢山の妖怪たちがいたが、皆リクオを休ませる為にいつの間にかいなくなっていた。
部屋には彩乃とリクオの二人っきりである。

「――彩乃ちゃんは……これで良かったの?」
「――え?」
「犬神のこと……」
「――ああ……」

彩乃と二人っきりになったのを見計らってか、リクオが真剣な表情で話し始めた。
どこか彩乃を気遣うように尋ねてきたのは、犬神のこと……

『一つだけ……条件がある……』

そう玉章へとリクオくんが出したたった一つの条件……それは……

『犠牲になった者を……絶対に弔ってほしいんだ。』

玉章が斬り捨てた……今回の争いで犠牲になった四国妖怪たちを玉章自身の手で弔う事だった。
玉章と隠神刑部狸はその条件を飲み、リクオは今回の件を手打ちという形で収束させた。
玉章と四国妖怪たちは、隠神刑部狸と共に四国へと帰っていった。
そして……犬神は……

「――犬神たち……もう四国に着いたのかな。」
「どうだろう?朝一の新幹線で帰るって言ってたけど……」

そう……犬神は玉章たちと共に四国へと帰っていった。
何度裏切られたとしても、玉章を恨んでいても、やっぱり犬神は玉章の側にいることを選んだのだ。

………………
…………

『俺……やっぱり玉章と一緒に四国に帰るぜよ。』
『そっか……玉章の側にいることを選んだんだね……』
『ああ……あいつのことは今だってだいっっきれぇだけど……俺を妖怪として目覚めさせてくれたのは……無力だった俺に力をくれたのはあいつだから……最初に手を差し伸べてくれた……玉章をこれからも支えてぇ。玉章の力になりてぇ……』
『――そっか……』
『――ワリィ……』
『何で謝るの?』
『だって……お前は俺を助けてくれたのに……約束だって、してくれた……』
『うん……でもね、犬神……私は……犬神がしたいようにしてくれた方が嬉しいし、応援するよ。』
『ありがとな……その……夏目……』

…………………
…………

「本当に……彩乃ちゃんはこれで良かったの?」
「その質問……さっきも訊いたよね。犬神が自分で決めたことなら私は止められないし、それに……応援するって約束したから……」
「彩乃ちゃん……」
「それにね!ほら!玉章も今回の件で反省してくれるかもだし!……ね?」
「――玉章はちゃんと……犠牲にした妖怪たちを弔ってくれると思う。」
「――そうだね。今度こそ、本当に大切なことに気付いてくれるといいな……」
「そう……だね……一人では百鬼夜行はできない。自分についてきてくれる子分や仲間がいて、初めてそれが力になるんだ。それが……本当の百鬼夜行なんだ。僕は、今回の戦いでそれがよく解ったよ……」
「うん……きっと大丈夫。そんな気がするよ。」
「……犬神もいるしね。」
「ふふ……そうだね。」

どこか気遣うように話すリクオに、彩乃はクスリと口元を緩めて笑う。
どこか安心しているように穏やかに笑みを浮かべる彩乃に、リクオも釣られて微笑んだ。
今回の争いで奴良組は勿論、四国妖怪たちも多くの犠牲が出たと聞く。
彼等の魂が少しでも救われればと願わずにはいられなかった。

「ふあ……」
「リクオくん、眠い?」
「ああ、ごめん。大事な話しをしている時に欠伸なんかして……」
「ううん。このところずっと無理してたもん。私ももう部屋に戻るから、リクオくんはゆっくり寝てて。」
「ありがとう。」
「うん。」
(氷麗ちゃんには後で話しておこう……)

恥ずかしそうにお礼を言うリクオに微笑むと、彩乃はそっとリクオの部屋を後にした。

「おい。」
「――え?」

氷麗にリクオが眠ったことを伝えに彼女を探して廊下を歩いていると、不意に誰かに声を掛けられた。
振り返れば、そこには気まずそうに彩乃を見つめる猩影がいたのだった。

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