第210話「うどんを食べよう」

一番最初に妖怪が襲われたと思われる辺りに行ってみると、そこには小さな村があった。

「……こんな所に村があったんですね。」
「――ああ、かなり小さいようだけどきれいな所だね。」
「妖か人に話を聞けるといいんですが……」
「的場が何処にいて何処で術を行うつもりでいるか……だな。」

彩乃たちは手分けして人や妖怪に聞き込みをして回った。
聞いて回っていると、途中で名取さんが俳優の「名取周一」だとバレそうになって焦ったりと、ちょっとしたトラブルはあったが、特に何か得られる情報はなかった。

「……む?あそこだ!!さあ走れクズ共うどんに向かって!!」
「え?」
「おや猫ちゃんお腹が空いたのかい?」
「素うどん!私は素うどんが食べたいのだ!!」
「ちょっと先生真面目に探して……」
くきゅう〜ぐるる…… 
「「……」」

その時、とてもタイミングよく彩乃のお腹の虫が鳴いた。
恥ずかしさで顔を真っ赤に染める彩乃。

「えっ……えっと……僕もお腹空いたなあ〜……」
「そ、そうですね。丁度お昼時ですし!」
「……フォローありがとう。リクオくん氷麗ちゃん……」
「あはは、丁度いいからここでお昼にしようか。」
「……はい……」

穴があったら今すぐにでも入りたいと心の底から思う彩乃であった。

「いらっしゃいま……まあ!」
「うそ、名取周一!?」
「こんにちは。素うどん5つ。」
「……」

突然小さな村のうどん屋に人気俳優の名取周一が現れたものだから、店の中は大騒ぎである。
ジロジロと感じる多くの視線に、彩乃は無言で席についた。

「……名取さんが芸能人なのは知ってたけど、こんなに人気だったんだ……」
「ええ、人は見かけによりませんね。」
「はは、いつもこんな感じだよ。」
「もはや慣れだな。」
「すごいお方なのですね。流石は祓い屋の名家。」
「ふふ、きらめいていてごめん。」

そんな会話をしていると、店員のお姉さんがうどんを持ってきてくれた。
すかさず名取は店員のお姉さんに質問した。

「あの、すみません。この辺りで何か変な噂はありませんか?」
「え?変……といいますと?」
「――例えばお化けが最近出る所があるとか、見慣れぬ変わった人がうろうろしてるとか。」
「あ、あの……この人以外ですよ。」
「……う〜ん……変わってると言えば……裏の宿に長髪で片目を隠してるお客さんが泊まってるらしいですよ。」
「!」
(的場さんだ……)

思わぬ所で手に入った情報に、彩乃たちはお互いに目配せで頷くと、確信した。
うどん屋を後すると、空は黒い雲に覆われて、今にも雨が降りそうな天気になっていた。

「いきなり的場の場所がわかるとは……猫ちゃんもたまにはやるんだな。」
「たまにとはなんだ。」
「その宿で何かの術の準備をしているのかもしれないですね。」
「――しかし……こんなにすぐ居場所がわかるとは……」
「……罠……ですかね?」
「――そうだね。でも、何かこう……」
「え?」
「まあ、兎に角その宿に行ってみませんか?」
「……そうだね。」

リクオに促され、名取は頷く。
一先ずは例の宿に行ってみよということになり、彩乃たちはうどん屋の近くの宿へと向かうのであった。

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