第211話「雨の足止め」

雨が降ってきた。
それも傘を差さなければ服がずぶ濡れになるくらいの大雨だ。
運の悪いことに誰も傘を持ってきていなかった彩乃たちは、宿に着く頃にはすっかり濡れ鼠になっていた。

「いらっしゃいませー」
「すみません。タオルを貸して頂けませんか?」
「まあ大変。すぐに!」

ずぶ濡れの彩乃たちに、女将さんはタオルを用意してくれた。
有り難く使わせてもらうことにして、彩乃たちは濡れた体を拭いた。
服はたっぷりと水分を吸って肌に纏わりついて重いし、気持ち悪い。
それに早く着替えないと風邪を引きそうだ。
まあ、着替えなんて持ってないのだけど……

「そうそう。今の雨で、村の出入り口のトンネルに落石が。明日まで不通らしいですよ。」
「「ええーー!?」」

女将さんの一言に思わず叫ばずにはいられない程驚く彩乃たち。
仕方なく彩乃たちは各々家族や事務所に電話をすることになった。
こうして突然の大雨により、的場さんの泊まっているらしい小さな宿に一泊することになってしまった……

「すみません名取さん。宿泊代払ってもらっちゃって。後でお金返しますね。」
「あ、僕も。」
「子供は小さいことを気にするものじゃないよ。私はこれでも結構稼いでいるし、子供三人分の宿泊代くらい平気さ。」
「そんなわけにはいきませんよ!ちゃんとお返しします。」
「頑固だね君も……」

せっかく只でいいと言っているのに素直に受け入れない彩乃に、名取は困ったように苦笑した。

「――さて、私はこの辺りを少し見て回ってくるよ。彩乃は的場に顔を知られているし、鉢合せすると面倒なことになりそうだからね。君はここで待っていなさい。」
「すみません名取さん。」
「あっ、だったら僕も行きます。人数は多い方がいいと思うし。」
「リクオ様が行くなら私も!」
「ワタクシも行きます!」

そうしてリクオたち四人は部屋を出ていった。
部屋に残った彩乃とニャンコ先生は、四人が戻ってくるまで時間を潰すことになった。

「……はあ、何この役立たず感……」
「この村、悪い気が集まってきているような……やはり何か禍々しい術がこの近くで行われようとしているのだろう。これは……辺りにも悪影響が出るかもしれんな。」
「えっ!?」

ニャンコ先生の不穏な言葉に彩乃は不安げな顔をすると、大慌てで立ち上がった。

「何処へ行く!」
「名取さんたちが心配で!カゲロウは怪我してるし、柊もいないのに!」
「ちぃ、行ってきてやるから大人しくしていろ。相手は的場(人間)だぞ。お前のエノキパンチが効くか!」
「う……」
「いいな、私が帰るまで絶対開けるなよ。」
「わかった……先生も気を付けて。」

彩乃に忠告すると、先生は名取たちを探しに部屋を出て行った。
一人になった彩乃は、自分には何もできない無力差を嫌でも感じてしまうのだった。

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