第212話「襲撃」

一人だけ部屋に残った彩乃は、みんなが帰ってくるのをただぼんやりと待っていた。

「……はあ……的場さんは一体何をしようと……」
カタン
「ん?」

窓の方から何か物音がしてそちらに視線を向ければ、人影のようなものがこちらを覗いていた。
彩乃はそれに気付くと慌てて開いていた窓を閉め、鍵をかけた。

カタン
「!?」
(今度は寝室から!?)

どうやら人影は鍵を閉めていなかった窓のある寝室へと向かったようだった。
入ってこられてはまずいと彩乃は大慌てで寝室へと向かう。

(さっきの人影のようなもの、妖?)
パタン! 
(な……何か入って来てる!?)

寝室の方へ行くと、既に窓は開けられていて、部屋の中は窓から何かが入った痕跡を表すように水浸しだった。
開いた窓を茫然と見つめていた彩乃は、背後に人影が忍び寄っていたことに気付けなかった。

ぐいっ
「!?う……」
ダンッ!
「何のつもりだ。ウロチョロと目障りな。これ以上邪魔をするなら許さんぞ!」
(的場さんの式!?)

人影の正体は女だった。
長い黒髪で顔が隠れていて表情はわからなかったが、恐らく的場さんの式の妖だろう。
女は彩乃を床に押し倒すと、髪や腕を掴んで押さえつけてきた。

「は、放して!一体何が目的なの!?妖や周りの人を巻き込むような術を使おうなんてどうかしてるわ!」
「ふ、退かないなら仕方ない。的場のためにお前の血も供物にしてやる。」
(……供物……?)
「さあ来い!」

女は彩乃の髪を掴んだままズルズルと引き摺って何処かへと連れていこうとしていた。

「痛い放して!私は妖じゃないわ!」
「ああ、しかしお前は何やら霊力が強いようだ。何者か知らないが、妖にとってはきっと美味だろう。下級の血しか集められなかった。もっと上級や、強い力を持つ人間の血ならば……」
「的場さんは何をしようとしているのよ!」
「お前には関係ない。」
ドサッ!
「いっ!」

女の妖は彩乃を誰もいない物置き部屋へと連れていくと、部屋の奥へと放り投げた。

「さあ、悪いが血をもらうよ。的場のために……」
「やめて!!」
どんっ!
「うっ!」

ゆっくりと彩乃に手を伸ばす女。
彩乃は咄嗟に女の体を強く突き飛ばすと、女が怯んだ隙に部屋を飛び出したのだった。

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