第222話「大妖を封印せよ」

「先生とカゲロウはその人(女)についててあげて!」
「彩乃様危険です。ワタクシも……!」
「――行くな!」
「主!」
「……行かないでくれ……ヨル……」
「……っ」

彩乃と名取を手助けしようと駆け出そうとするカゲロウの着物の裾を強く掴んで、女はカゲロウを足止めする。
思わず強い口調で女を呼ぶカゲロウだったが、震える手と泣きそうな声で行くなと言われてしまっては、カゲロウが女の側を離れることなど出来る筈がなかった。

ヒュッ!
ガツン! 
「こっちよ!」
「おお……お……」

名取の封印の準備が出来るまでの時間稼ぎに、大妖の頭に石をぶつけて自分に注意を引き付ける彩乃。
名取が封印の陣を描き終えるまで、彼に攻撃が向かないように彩乃は石を投げては大妖の攻撃をなんとかかわし、石を投げてはかわしてを繰り返した。

「彩乃!準備ができた!こっちへ!!」
「はい!」

名取の声を受けて彩乃は大妖を陣の中へ誘い込もうと駆け出す。

「ああ……おおおお!!」
ザザザ
「――早い!だけどもう少し!」
「――彩乃!!」
ガッ!
「あっ……!」
ぐいっ! 

名取の焦ったような切羽詰まったような声が洞窟に響くのと、彩乃が大妖に捕まるのはほぼ同時であった。
大妖は彩乃を捕らえると、大きく口を開けて彩乃を喰おうと襲いかかってきた。
思わず呪文の詠唱を止めて駆け出す名取。
もう駄目だと諦めかけたその瞬間、大妖の体が凍りついた。

ビュオオオ!!
「あ……おお……」
「――間一髪だったな。」
「り……リクオくん!氷麗ちゃん!」
「彩乃さん!よかった……間に合って……」

大妖を氷漬けにしたのは氷麗だった。
間一髪で彩乃を助けた氷麗は、心底安心したように表情を緩める。

「――さて、こいつが妖気の正体か……オメーに恨みはねえが、人を襲うような妖怪は生かしておけねぇ……」
ザンッ!
「おおおーー!!」

リクオは祢々切丸を構えると、凍りついて動けない大妖を斬りつけた。
その瞬間、断末魔を上げて大妖は跡形もなく消滅したのであった。

パチパチパチ
「――お見事。」
「!」
「的場!貴様よくもぬけぬけと戻ってきたな!!」

女は的場を恨めしげに睨み付けるが、そんな女の視線など気にも止めず、的場は面白そうに彩乃だけを見ていた。

「君の周りには大物の妖が集まるようですね。実に興味深い。あの大妖もそこの女もどうでもいいので放っておいても構わなかったのですが……君は面白そうだ。」
「……っ」

興味深そうに自分を見つめてくる的場に、彩乃は拳をぎゅっと握り締めてまっすぐに見つめ返した。
怒りで震える彩乃の拳を名取とリクオたちは何か言いたげに見つめていた。

「――私は的場家当主。的場静司。以後、お見知りおきを。」
「……できればもう会いたくないです。」
「それは困りましたね。君には興味がある。色々と訊きたいものです。」
「彩乃さんはあんたなんかと話すことなんてないわよ!」
「外野が煩いですね。今日は一先ずこれで退散します。……また何処かで会いましょう。」
「……」

――ああ、これが…… 
この人たちが……的場一門。
あの人たちには見えないのだろうか?
仲間のために自分が傷ついてでも戦おうとする妖がいる。
失って心が壊れてしまう程絆を持ってしまう人もいる。
目的の為なら人も妖も関係なく傷つけることを厭わないなんて……
それはなんて、なんて……悲しいことだろう。

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