第221話「リクオ、的場に会う」

彩乃と名取が大妖の封印に奮闘している時、早々に大妖を諦めた的場が洞窟から出てきた。
洞窟の入口で待機していた七瀬は、的場に気付くと話しかけた。

「――的場。どうでした?使えそうな妖ですか?」
「――いや。言葉を解さないから契約も出来ないし、術で従わせるには力が強すぎる上、この毒気だ。」
「それはそれは。とんだ無駄足でしたね。」
「そうでもないさ。あの妖は使えないが、代わりに面白いものを見つけた。」
「……面白いもの?」

的場の意味深げな言葉に七瀬が怪訝そうに眉をひそめる。
そんな彼女に的場は大妖を手に入れられなかったというのにとても機嫌良さそうに微笑んだ。

「君も会ったことあるんじゃないか?名取と一緒に行動している霊力の強い子供だ。白い獣の妖を従えていた。」
「ああ、あの小娘ですか……名取の小僧も来てるんですね。ちょっとからかったら飛んできたのか。恥ずかしい奴め。」
「あれ(大妖)を封印するそうだ。」
「封印?手間な……失敗したら命に関わるってのに。」
「――その話は本当ですか!?」
「……おや?」

的場と七瀬の会話に割って入るように、少年の声が森に木霊した。

――リクオ視点――

ブワリ
「!?、リクオ様、この気配……」
「うん。僕も感じた。すごく嫌な妖気だ……」

名取と二手に別れて的場に拐われた彩乃を探していると、森の方から突然強い妖気と、とてつもなく禍々しい瘴気を感じてリクオと氷麗は大慌てで森の方へと向かった。
妖気を追って森の奥へと進めば、洞窟の前で若い青年と初老の女性が気になる会話をしていた。
茂みに隠れて聞き耳を立てれば、青年が口を開く。

「君も会ったことあるんじゃないか?名取と一緒に行動している霊力の強い子供だ。白い獣の妖を従えていた。」
(――!?それって彩乃ちゃんのことじゃ……!)
「ねえ氷麗、あの二人って……」
「黒髪の長髪に右目の眼帯……間違いないですね。あいつが的場でしょう。」
「!、じゃあ今のってやっぱり彩乃ちゃんのことだ!」
「ちょっ、待ってくださいリクオ様!」

冷静に考えたら、それは正しい行動ではなかっただろう。
だけど、洞窟の中から感じる禍々しい瘴気の中に彼女たちがいると知って、リクオは冷静でいることが出来なくなった。
気が付いたら的場たちの前に飛び出していた。

「――おや……珍しいものに会いましたね。」
「……今の話……中に彩乃ちゃんたちが居るんですか!?」
「……彩乃?あの娘の名前ですか?彼女なら今頃中で大妖を封印していると思いますよ。混血の少年?」
「――っ!行こう氷麗!」
「えっ!?はい、リクオ様!」

リクオは的場と七瀬の横を通りすぎると、氷麗を連れて洞窟の中へと入っていった。
的場と擦れ違う瞬間、リクオと的場の目が一瞬だけ交差した。

「――行かせて良かったんですか?」
「七瀬、戻りましょう。」
「――は?」
「気が変わりました。彼女と……あの混血の少年が大妖をどうするのか見届けます。」
「……随分と彼女を気にするんですね。」
「何、少し興味があってね。」

フフッと口元を緩めて笑みを浮かべる的場に、長い付き合いになる七瀬はやれやれと肩を竦めるのであった。

- 238 -
TOP