第229話「ユキノスケ」

「あの子……妖だけどこんな所で何してるんだろ?」
「さあ?兎に角話しかけてみよう。」
「そうだね。」

兎に角事情を聞かねば始まらないと、彩乃とリクオは妖の子供を驚かさないようにそっと近付く。
すると兎の妖の子供は、二人が近付いてきたことに気付いたのか、ピンっと耳を立ててこちらを見上げてきた。

「君、こんな所でどうしたの?」
「!?、わっ!人間!?」
「怖がらないで。何もしないから……」
「お前等、人間のくせにボクが見えるのか?……もしかして祓い屋!?わあっ!滅される!!」
「お、落ち着いて!何もしないから!」

兎の妖は彩乃たちを祓い屋と勘違いして青ざめると、怯えたように踞る。
体を小さく丸めてふるふると震えるその姿はとても可哀想で、彩乃は妖を落ち着かせようとなるべく優しげな声で話しかける。

「大丈夫だよ。私たちは祓い屋じゃないから。」
「人間怖い……」
「……どうしようリクオくん」

怯えて話をすることが出来ない妖の子供に困った彩乃は、助けを求めるようにリクオを見る。

「落ち着いて。僕等は祓い屋じゃないし、それに僕は妖怪だ。」
「!、嘘だ!だって……どう見ても人間だよ!」
「今はね……」

リクオはそう呟きながら周囲を一度見回して誰も自分たちを見ていないことを確認すると、突然人間の姿から妖怪の姿に変化した。
それに彩乃はぎょっと目を見開いて驚く。

「ちょっ、リクオくん!?誰かに見られたら……」
「この人混みだ。誰も見てねーよ。ほれ、これで信じたか?」
「ほ、本当だ……よかった……」

リクオが妖怪だとわかり、兎の妖は心底安心した様子でホッと肩の力を抜いた。

「お前、こんな所で何してんだ?ここは人が多い。山に帰れ。」
「……れない……」
「ん?」
「帰れないんだ……お母さん……うう……うええ〜〜んっ!!」
「……リクオくん、もしかしてこの子……」
「ああ……」
「「迷子……だね(だな)」」

ポロポロと大粒の涙を流しながらお母さんお母さんと泣き続ける兎の妖に、彩乃とリクオは困ったようにため息をつくのだった。



「――そっか。君は人間のお祭りがどんなものか見たくてお母さんと一緒に山を降りてきたんだ?」
「……ぐす……うん……人間のお祭りが珍しくて、色んな物を見てたら、お母さんとはぐれちゃって……うう……」

泣き続ける妖を宥めているうちに懐かれた彩乃は、妖から事情を聞いたところ、人間のお祭りに興味のあったこの妖の子供は、母親と山を降りてきたのだと言う。
そして屋台に目を奪われてあっちこっちへと見て回っているうちに、この人混みの中親とはぐれてしまったらしい。

「……そっか。あの、リクオくん……」
「ああ、わかってるぜ彩乃。こいつの親を探してやりてぇんだろ?」
「……いいの?」
「勿論。俺も手伝ってやるよ。」
「!、ありがとうリクオくん!」

手伝うと言ってくれたリクオに彩乃は顔を輝かせてお礼を言った。

「そういう訳だから、私たちも君のお母さんを探すの手伝うよ。」
「ほ……本当?」
「うん。だからもう泣かないで。」
「あ……ありがとう。人間のお姉ちゃん!」

さっきまで泣いていたのがウソのように明るい笑顔を浮かべる妖に、彩乃も釣られて笑顔になる。

「私は夏目。こっちのお兄さんがリクオくん。」
「お前は?」
「ボク、ユキノスケ!」

そう言って笑う兎の妖、ユキノスケの親探しが始まったのであった。

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