第230話「花火」

「――これでよしっと……」
「氷麗ちゃんに連絡したの?」
「ああ。」

スマホを弄りながら答えるリクオ。
氷麗にみんなに上手く誤魔化しておくようにとでも伝えたのだろう。
リクオはスマホを着物の中にしまうと、彩乃に手を差し伸べた。

「?」
「手。繋いでないとはぐれるだろ?」
「え?ああ、うん?じゃあユキノスケが真ん中ね。」
「うん!」
「……しゃーねぇか。」
「?、何かリクオくん落ち込んでる?」
「何でもねーよ。」
「そう?」

彩乃と手を繋ぎたくて手を差し伸べたのに、真ん中にユキノスケが来たせいで彼女と手を繋ぐことが出来なかった。
リクオは少し落ち込んだが、ユキノスケの楽しそうな笑顔見て諦めたように吐息を吐くのだった。

******

「――そっか。ユキノスケは兄弟いっぱいいるんだね。」
「うん!ボクが一番末っ子なんだけど、兄ちゃんたちはすっごくカッコいいんだ!」
「そうなんだ。」
(……見つかんねえなぁ……)

あれから三人で色々な所を回ってユキノスケの親を探しているのだが、中々それらしい妖は見つからない。
カナたちと約束した一時間はとっくに過ぎているし、そこは氷麗が上手く誤魔化してくれているだろうけど、時間だけが無駄に過ぎていった。

ドンっ!
「「「!?」」」
ドンっ!ドドンっ!! 
「えっ!?何!?」
「……花火だ……」

突然ドンっという大きな音が空から響いたかと思えば、ユキノスケは音に驚いて彩乃にしがみつく。
すると何気に上を見上げたリクオが小さく呟いた。

「――えっ、もうそんな時間!?うわぁ〜、透ちゃんたち心配してるだろうなぁ〜……」
「だな。まあそこは氷麗が上手くやってくれると思うが……」
「花火……これが……」

すっかり時間が過ぎてしまっていることに気付いた彩乃が困ったように言うと、ユキノスケが空に打ち上げられる色とりどりの美しい花火を見つめながらポツリと呟いた。

「……お母さんと……見たかったなぁ……」
「ユキノスケ……」

目にうっすらと涙を浮かべて泣きたいのを堪えるユキノスケはとても寂しそうで、彩乃はそっとユキノスケを抱き締めるのだった。
するとそれをじっと見ていたリクオは何を思ったのか、突然ユキノスケを肩車したのだった。

「わっ!」
「しっかり捕まってろよ。」
「リクオくん?」
「こうした方が目立つし、ユキノスケも母さんを見つけやすいだろ?」
「お兄ちゃん……うん!」

リクオが肩車をしたことでユキノスケの視界も高くなり、確かにこれなら目立ちそうだ。
そして何より……ユキノスケが楽しそうである。

(リクオくん……優しいな。)

確かに目立つようにするのも目的だろうが、一番の理由はきっと、落ち込んだユキノスケを元気付ける為なのだろう。
楽しそうにリクオに捕まりキョロキョロと下を見下ろすユキノスケは本当に楽しそうだった。

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