第243話「リクオ、抜け出す」

チュンチュンと可愛らしく鳴く小鳥のさえずりと、障子から差し込む朝日に目を覚ましたリクオは、ゆっくりと起き上がると両手で顔を覆って項垂れた。

「また……やってしまった……」

自分が昨日彩乃にしてしまった行いを思い出し、リクオは朝から落ち込んだのだった。

「――さて、と。」

リクオは帽子を深く被り、リュックを背負って何故か柱に身を隠しながらこそこそと通路を歩いていた。
――見つかってはいけない。
リクオは冷や汗をかきながらゴクリと唾を飲み込む。
彼はなんとか誰にも見つからずに家を出ようとしているのだ。
奴良組三代目後継ぎであるリクオが外出する時には必ずと言っていいほど護衛がつく。
だからリクオが一人で外出するには、誰にも見つからずに門を通り抜けなければならないのだ。
何故彼がそんな無理難題ともいえるミッションを行っているのか……
――何、理由はそんな大したことではない。

「今回の行き先は彩乃ちゃんの大切な場所だし、個人的なことに僕が無理を言ってついていくんだから、一人で行かないと……それに……」

好きな女の子と二人っきりで出掛けたいという下心も、ちょっとだけある。

「いやいや、何考えてるんだ僕!」

リクオは慌てて頭を振ると、真剣な顔で辺りを見回した。
玄関まであと少し。なんとしても自分はこのミッションを成功させたい。

「――よし、誰もいない。今ならいける!」
ガラッ
「――あれ?リクオ様お出掛けですか?」

……見つかってしまった。

「……つ、氷麗……」
「何処かに行かれるんですか?それなら私も……」
「い、いいよ氷麗!僕一人で行きたいんだ。」
「いけませんリクオ様。護衛もつけずに外出されるなんて、危険です!」
「…………あっ!氷麗あれ、何かな?」
「――え?あれ?」

リクオが不意に自分の後ろを指差すので、氷麗は釣られるようにして後ろを振り返った。

「?、リクオ様、何ですか?」
「あれだよ。ほらあそこ。」
「どれですか〜?」
「……」
「リクオ様、何もないですよ〜?……あれ?リクオ様?」

氷麗が再びリクオの方を振り返った時、そこにリクオはいなかった。
氷麗がリクオの言葉を信じてキョロキョロと何かを探している間に、リクオはこっそりと姿を消してしまったのだった。

(ごめん。氷麗)

リクオは氷麗に嘘をついたことを心の中でこっそりと謝りながら、家を飛び出したのだった。

- 262 -
TOP