第244話「ヒノエから逃げよ!」

「お願いヒノエ、そこ退いて!」
「嫌だね!絶対にここは通さないよ!!」

朝から玄関の前で彩乃とヒノエが怒鳴りあっていた。
これからリクオと待ち合わせをしているのに、鬼の形相のヒノエがとおせんぼをして先に進ませてくれないのだ。
昨日リクオにされたことを知ったヒノエが、また彼に会うことを知って全力でそれを妨害しようと立ちはだかった。

「あーもう!時間なくなるからほんとに退いてよ!」
「嫌だね!あの手の早い小僧の所なんかに行かせたら、また何されるかわかったもんじゃない!これはあんたの為なんだよ!」
「リクオくんを何だと思ってるの!?昼間のリクオくんなら大丈夫だよ!」
「いーや!あんな虫も殺せなさそうな顔してもあの小僧は奴良組の者だよ!絶対に手が早いに決まってる!!」
「ヒノエ……」

頑なにリクオを信用しようとしないヒノエに、彩乃は困ったようにヒノエを見つめる。

「どーしてもここを通るってんなら、私を倒していきな!!」
「……何言ってるの?」
「さあ彩乃。どうする?」
「……いいから退いて。」
「あんな小僧に彩乃を渡すくらいなら、今ここで彩乃を私のものに……!!」
「っ!わああああっ!!」
ドゴォ!!
「かはっ!!」

かばりと両手を広げて彩乃に飛び掛かるヒノエ。
彩乃は反射的に拳を構え、気が付いたら本気でヒノエにアッパーを食らわせていた。
妖怪対策で覚えた霊力を込めたパンチを恐怖のあまり放ってしまい、すごい勢いでぶっ飛ぶヒノエ。

「ああっ!ごめんヒノエ!つい!!」
「さ……流石だね…彩乃。容赦が……ない……」
ガクッ
「ヒ……ヒノエー!しっかり!」

余程ダメージを受けたのか、ヒノエはぐったりと地面に倒れ込んだ。
慌ててヒノエに駆け寄り抱き起こす彩乃。
しかしヒノエは殴られたというのに、どこか満足そうに笑みを浮かべて気絶していた。
そして彩乃は思う。
このまま放置して行ってしまおうと……
彩乃は無言でヒノエを近くの木にもたれ掛けさせると、そのまま放置して去っていったのだった。

「……はあ、ヒノエにも困ったな……」

ヒノエからの妨害を力業という強行突破で切り抜けた彩乃は、大急ぎで駅へと向かっていた。

(もうリクオくん来ちゃってるかな?)

ヒノエの妨害のせいで予定よりもすっかり遅くなってしまった彩乃は、待ち合わせの時間ギリギリで焦っていた。
小走りで駅まで急げば、なんとか約束の時間までには間に合った。
その事にホッと胸を撫で下ろす彩乃。

「えっと……リクオくんは……」

キョロキョロと周囲を見回すと、後ろから誰かに肩を叩かれ、彩乃は振り返った。
そこにはリクオがいて、何故かひどく息を切らしていた。

「おは……ハァ……よう……ハァ……彩乃ちゃん」
「……おはよう。リクオくん……なんか疲れてない?」
「いや……ちょっとね。」
「あれ?そういえばリクオくん一人?氷麗ちゃんは?」
「あ、いや……氷麗は……今日は僕一人なんだ。」
「へえ、珍しいね。リクオくんが護衛もなしに外に出るなんて……」
「(ぎくり)えっ!?いや……ははは!」
「……?」

彩乃から目を逸らして曖昧に答えるリクオ。
どこか歯切れが悪いリクオに彩乃は不思議そうに首を傾げつつ、「そっか」と納得した。
深く追求してこない彩乃にホッと安堵のため息をつくリクオ。

「それじゃあ行こうか。」
「あ、そうだね。」

無事に合流できた二人は、切符を購入し、電車へと乗り込むのだった。

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