第272話「もっとも嫌な再会」

「――なっ、何!?」

当然の悲鳴に驚いた彩乃が草むらから少しだけ顔を覗かせると、突然黒い影のようなものが猿面の一人を捕まえて何処かへと連れ去っていく所だった。

「――っ、くそっ!一旦退け!」
「逃げるぞ!」
(――何?今の……あの黒い式、どこかで……)

猿面の妖怪が一人捕まると、仲間たちは一目散に逃げ出した。
彩乃は連れ去られた猿面の妖怪を目で追い続けていたが、妖怪はそのまま黒い式神に包まれるようにして壺へと吸い込まれてしまった。
その壺を持っている男に……彩乃は見覚えがあった。
出来ればもう二度と会いたくなどなかった人物。それは……

「――さて、こいつはちょっとは使えるかなぁ。」
(――的場さん……)
「――ん?」
(やばっ!!)

そこにいたのは的場だった。
以前の出会いから悪い印象しかなかったあの男。
――何故的場さんがこの山にいるのか……
また強い妖怪を狙って狩りにでもきていたのか……
ドクンドクンと心臓の音がやけに早く脈打つ。
呼吸ひとつでもしようものなら、すぐに居場所がばれてしまいそうだ。
彩乃は口を押さえて必死に声を殺す。
――さっき、一瞬だけ目が合いそうになった。
気付かれてないだろうか?どうしよう……

ドクンドクン
「的場、どうでした?」
「ああ、一匹捕まえた。」
ドクンドクン
「使えそうですか?」
「……しっ!」
「――あの茂み、何か……」
「!」
(――見つかる!!)
ガサッ
「――おや。気のせいか……」

的場が近寄った茂みは彩乃たちがいる場所とは真逆の方向だった。

(……今のうちに……)
「……先生。」
「ああ。」
「――逃げられると思いましたか?」
「なっ!!?」

彩乃たちが見つからなかったことに安堵し、逃げ出そうと動き出した瞬間、背後から的場の声がしたかと思えば、彩乃の視界が暗闇に閉ざされた。
その息苦しさからか、彩乃はすぐに気を失ってしまった。
意識を失う僅かな間、ニャンコ先生が悔しそうに私の名を呼んだのが聞こえた気がした。

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