第33話「協力者」

『辰未は自分たちでは子育てをしない。だから雛は最初に見た生物の形に変化する。』

それはたぶん、愛されようと……

『――まただ。』
『また夏目の奴、おばけが見えるなんて嘘ついてる』
『構って欲しいから嘘をつくんだろうって大人たちが言ってたわ』
『親戚もどこもちゃんと引き取ってくれないんだってさ』
『へえ、可哀想ね……でも、仕方ないんじゃない?だって……』
『家族の中に余所者なんか入れなくないものね。』

あの頃は、周りの言葉にそんなに傷ついたつもりはなかった筈だった。
けれど、妖に関わる度、何かと思い出されてしまう……

「――夏目先輩?」
「……あっ……」

リクオに名を呼ばれ、彩乃はハッとして我に返った。

「どうしたんですか?ぼうっとして……」
「リクオ様が話しかけてるのにぼうっとするなんて失礼ね!」
「ごっ、ごめんね!」

リクオは心配そうに、氷麗は腹立たしげに彩乃を見てくる。
ここは 奴良組本家。
翌日、彩乃は辰未の事を相談する為にリクオの元を訪れていた。

「……それで夏目先輩、その辰未っていう妖怪の事なんですが……その雛は今どこに?」
「今はニャンコ先生に家で見てもらってる。」
「そうですか。……氷麗は辰未って知ってる?」
「いいえ、リクオ様。私も初めて聞きます。」
「……先生がとても珍しくて数も少ない妖だって言ってた。」
「う〜ん……とりあえず、組のみんなに聞いてみよう!何かわかったら連絡したいんですが、先輩、確か携帯持ってないんですよね?」
「あ、それなら……」

彩乃は昨日貰ったばかりのスマホを慌てて鞄から取り出す。

「昨日、家の人が買ってきてくれたの。まだ使い方がわからないんだけど……」
「クスクス、人間のくせに人間の道具が使えないの?」
「あはは……」

相変わらず氷麗から嫌われていて、苦笑するしかない彩乃だった。

「……登録っと!」
「これで登録できてると思います。僕のと、一応鴉天狗のも登録しておいたので、また何か困ったことがあったらいつでも連絡してください!」
「ありがとう 奴良くん。……何から何までごめんね。本当は、私の力だけでどうにか出来れば良かったんだけど、先生は辰未のことよく知らなくて……」
「いいんですよ。僕も先輩の力になれて嬉しいですし!それに……」
「?」

スマホを扱えない彩乃は、リクオに登録してもらっていた。
スマホを手渡しながら何故かリクオは途中で言葉を止めてしまい、彩乃は不思議そうに首を傾げた。

「…… 奴良くん?」
「……本当は、人間の先輩には妖怪に関わって欲しくないんです。友人帳のこともそうだけど、その辰未とか言う妖怪の雛も僕たちが預かった方がいいと思います。」
「……え……」

真剣な眼差しで当然リクオにそう言われてしまい、彩乃は戸惑った。
そして、暫くお互いにじっと真剣に見つめ合った後、彩乃は首を横に振った。

「……そうだね。その方がいいのかもしれない。」
「だったら!」
「でも、ごめん。……どうしても、私の手で最後まで面倒みたいの。」
「……先輩!」

リクオは何故だと言いたげに彩乃の名を呼ぶ。
それに彩乃は申し訳なさそうに眉尻を下げるも、けれどまっすぐにリクオから視線を逸らさずに言った。

「心配してくれたのに本当にごめんなさい。
でもね。友人帳のことも、雛のことも、私が自分から関わったの。自分からやるって決めたから……だから、最後までやり遂げたいの。自分から拾っておいて、厄介になったからって、途中から誰かに押し付けたくない。……わがまま言って、ごめんなさい。でも、私……」
「……はあ……」
「……っ」

リクオがため息をついたのを見て、彩乃は目を逸らした。

「……ごめん、 奴良くん。でも……」
「……わかりました。」
「……え?」
「僕たちもできるだけ協力します。だから先輩は一人で抱え込まないでください。」
「え?え?」
「返事は?」
「……はい。」

彩乃がリクオの有無を言わせぬ迫力に思わず頷くと、リクオはにっこりと満足そうに笑った。

*****

「……じゃあ、今日はお邪魔しました。」
「先輩、送っていきましょうか?」
「ううん、大丈夫!」
「……本当に、大丈夫なの?」
「……え?」

彩乃は驚いた。
自分を嫌っている氷麗がまさか自分の身を案じてくれるなんて……

「……人間の貴女に、辰未なんて育てられるの?」
「ふふ、ありがとう。及川さん。」
「……はあ!?」

何故かお礼を言われてしまい、怪訝そうな顔をする氷麗。

「私のこと、心配してくれてるんだよね?……だからありがとう!」
「……なっ!ち、違うわよ!!」

真っ赤な顔で怒鳴る氷麗。
その顔が赤いのは、果たして怒りからなのか、照れ隠しからなのか……

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