第34話「命名、タマちゃん」

「ただいまー!……って何これ!?先生は?」

奴良組から帰ってくると、部屋には誰もいなかった。
それどころか部屋中にティッシュや新聞紙の紙切れが散乱し、机の上には「疲れた。ちょっと飲んでくる」という書き置きの紙が一枚だけ置かれていた。

「……あのサボリにゃんこ!見ててくれるって約束したのに!」
くいくい
「……ん?」

スカートの裾を引っ張られ、思わず下を見ると、そこには雛がいた。

「何だ、そこにいたのね。何?ついてこいって?」

こくこくと何度も頷く雛に導かれて部屋の隅に行くと、そこには紙でできた細長い壺のような形の物が置かれていた。

「わっ、何これ?……壺?」
(ひょっとして、巣を作ったのかな……?)

彩乃が不思議そうにそれを見つめていると、雛はモゾモゾとその巣の中に入り、彩乃の袖をグイグイと引っ張った。

「えっ?入れってこと?……ごめんね。私は、その中には一緒に入ってあげられないの……」
「……」

彩乃は申し訳なさそうに雛の頭を撫でると、雛は残念そうにしゅんと項垂れてしまった。

「ただい……ぎゃっっ!私の読み掛けの新聞がっ!!」
「ああ、先生おかえり……」
「このちんちくりんめもう許さん!!」
「こらっ!やめなさいっ!!」

新聞を破かれて怒った先生が前足で雛を踏みつけようとするものだから、彩乃がその後先生にゲンコツをくらわせたのは言うまでもない……
――結局、雛はそれ以来作った巣には入らなかった。
私が作った寝所か、眠った先生の傍らか、こっそり私の布団に潜り込んで眠った。
――あの鳥の巣の親鳥だったら、きっとあの巣に入ってやれただろうに……
その日、夢を見た。
私が小さくなって、そっと雛の巣に入った。
その中には……
何か大切なものが入っていた。

――それから四日が経ち、雛はすくすくと大きくなっていった。

「……そろそろ、名前を決めようかな。」
「名前ならもう付けてある。卵から孵ったから『タマちゃん』だ。」
「えっ!?聞いてないけど!……てか、そのまんま……」
「わかりやすくていいだろう。」

こうして、雛はタマちゃん(仮)と名付けられたのだった。

- 45 -
TOP