第40話「広がる勘違い」

早朝、浮世絵駅にて、清十字団は待ち合わせをしていた。
既に会長の清継、島、リクオ、カナ、巻、鳥居は来ていて、残りは彩乃とゆらのみだった。
待ち合わせ時間五分前にてパタパタと駅の階段を駆け上がる音がする。
おそらくは残りの二人のどちらかだろうなと、リクオは時計を見ていた視線を階段に向けた。

「はあはあ……みんなもう来てたんだ。待たせてごめんね!」
「あ、夏目先輩、おはようございます。」
「おはよう奴良くん。……この前はありがとう。」
「いえ、それより先輩……」

この前のタマの件で、リクオたちに迷惑を掛けてしまったので、彩乃は挨拶がてらこっそりリクオに改めてお礼を言った。

「先輩、そのワンピース可愛いですね〜!」
「似合ってますよ〜!」
「あ、ありがとう。友達が選んでくれたの……」

巻と鳥居が服装を褒めてくれたので、彩乃は照れくさそうにお礼を言うと、嬉しそうに歯に噛んだ笑顔を浮かべた。
口々に褒めてくれる女の子たちに、やはり人間は見た目も大切だと実感し、多軌に心から感謝した。
塔子や多軌が協力してくれなければ、かなりラフな格好で来ていたことだろう。
可愛い服を選んでくれたタキと、お小遣いを弾んでくれた塔子には本当に感謝しなければ…

「あれ?もしかして私が最後なん?」
「あ、ゆらちゃんおはよう!」
「ああ、彩乃先輩おはようございます!」

少し遅れてゆらがやって来た。
ゆらと顔見知りの彩乃はすぐに挨拶をする。
その二人の親しげな様子に清継は不思議そうに尋ねてきた。

「おや?二人は知り合いだったのかい?」
「ええ、先輩とは前に会合でおうてな。」
「会合?」
「ああ!ゆらちゃんそれは!……というよりも、もう時間じゃないかな?」

ゆらが会合の事を喋りそうだったので慌てて話を逸らす彩乃だったが、清継は腕時計を見ながら「確かにそうだな」と上手く話を逸らすことに成功するのだった。

*****

新幹線の中は何と貸し切りだった。
「好きな所に座り給え」と気前の良いことを言う清継に、彩乃は唖然としながらゆらと一緒に座ることにした。

「さてさて、みんなもう知っていると思うが、我が清十字怪奇探偵団に新メンバーが加わった。我が部初の二年生、夏目彩乃先輩だ!」
「えっ!?」

清継の言葉に彩乃は慌てる。
何故ならこの合宿には体験入部というつもりで参加した筈だったのに、いつの間にか清継の中で彩乃は正部員にされていたようだ。
彩乃が驚いている間にも次々とカナや鳥居、巻が歓迎とばかりに話しかけてくる。

「わわ、ちょっと待って!私、申し訳ないけれど部活には入れないよ!」
「ええっ!そ、それは何故!?」

信じられないと言いたげに大げさに反応する清継に、彩乃はどう説明しようかと考えていた。

「あ、あの……部長さん。」
「清継です!」
「……清継くん。折角誘ってくれたのに申し訳ないけれど、私、家の人に迷惑掛けたくないから、入るのは無理なんです。……今回は体験入部みたいなものだと聞いていたので参加しただけで……ごめんなさい。」
「そ、そんなぁ〜……」
「本当にごめんなさい」

てっきり入ってくれるものだと思い込んでいた清継は、彩乃に断られてがっかりと落ち込んでしまう。
それに彩乃は申し訳無さそうに頭を下げた。

「……」

その時、リクオは彩乃の妙な言い方が気になっていた。

(……夏目先輩、何で「家の人」なんて言い方するんだろ。)

普通は家族とか、親とかと表現するのではないだろうか?
リクオの疑問は他のメンバーも感じていたようだった。

「親に迷惑掛かるとか、そんなの気にしすぎじゃないですか?」
「……うん、でもね、あまり帰りが遅くなると困るから……」
「うわ〜、先輩真面目ですね〜」

巻や鳥居がある意味感心というように彩乃を見てくる。
その視線に彩乃は苦笑しか浮かばなかった。

「仕方ないんよ巻さん。彩乃先輩は仕事もあるんやし。」
「え?仕事!?」

中学生の彩乃がバイトなどしている訳がないのだが、ゆらからとんでもない爆弾発言が投下され、みんなの視線が彩乃に集中することになる。

「彩乃先輩は、祓い屋っちゅー妖祓いなんや」
「ちょっ、ゆらちゃん!?」
「「ええーーっ!?」」

ゆらの発言によって、この瞬間、彩乃は妖怪と関わりがある者であるとバレてしまった。

(……ゆらちゃんを口止めしておくべきだったなぁ〜……)

今更後悔しても遅い。
何故なら、みんなが驚愕に目を見開いている中で、一人だけ私にキラキラとした視線を向けている人がいるからだ。

「すごいじゃないですか!何でもっと早く仰ってくれなかったんですか!?まさかここに陰陽師のゆらくんの他に妖怪退治のプロがいたなんて!!」
「や、違うの!私は祓い屋じゃないの!ただちょっと祓い屋の人から術を教えてもらった事があるくらいで……」
「ああ、先輩はまだ見習いやったんでしたっけ?でも、見習いでも妖怪三体も連れとるんはすごいわ〜」
「うっ!」

そう言いながら彩乃の後ろを見るゆら。
そこには、ヒノエ、カゲロウが彩乃の側に控えていた。

「えっ!?そこに何かいるの!?」
「大丈夫や家長さん。ここにおる妖怪は先輩の式やさかい。陰陽師は死霊を式にするんやけど、祓い屋は妖怪を使役するんや」
「なんだって〜!ここに妖怪がいるのか!?」
「ええ、先輩の後ろに二体おるよ」
「……(あ〜!ゆらちゃんお願いだからもう黙ってぇーー!)」

思わずゆらの口を塞ぎたい衝動に駆られる彩乃。
しかし、もう隠すのは不可能だろうなと諦めるしかなかった。
陰陽師であるゆらの口から話してしまったことで、信憑性が増してしまい、もう言い訳出来そうにない。
幸いなのは、この中でヒノエとカゲロウが見えるのは彩乃とゆら、妖怪であるリクオと氷麗だけだということだ。

「先輩、やっぱり噂通り視える人だったんですね!残念ながら僕は全く視えないが、素晴らしいですよ!」
「……そうでもないけど……」
「やはり是非とも夏目先輩には我が清十字怪奇探偵団に入って欲しい!考えてもらえませんか!?」
「ご、ごめんなさい。やっぱり無理です。」
「なんと!」

これが漫画だったら、清継の背景にはドス黒い影が見えていただろう。
二度も断られた清継は、目に見えて落ち込んでしまう。

「……先輩、何でそんなに嫌がるんですか?」
「奴良くん。」

落ち込む清継を見兼ねて、リクオが彩乃に尋ねる。
何だか微妙な空気になってしまい、居心地の悪さを感じた彩乃はこの場から逃げ出したくなった。

「……ごめんね。どうしても帰りが遅くなるのは困るの。」
「……もしかして、『あれ』のせいですか?」
「……私、ちょっとトイレに行ってくるね」
「あっ……」

彩乃はリクオの問いには答えず、逃げる様にその場を後にした。
残されたメンバーは微妙な空気の中、巻が口を開く。

「……ま、こんな変な部活、普通は入りたくないよね〜」
「変とは何だね巻くん!」
「……あ、あの〜……」

巻が彩乃に同情した様子で彼女の去って行った方向を見つめていると、清継が巻の言葉にすぐさま反応し、二人がどうでも良さ気な話をしていると、島が口を開く。

「何だい島くん?」
「あ、あの……俺、夏目先輩の噂を聞いちゃったんですけど……」
「噂?」

島が言うか言わないか迷いながら話した内容に、リクオは驚愕することになる。

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