第42話「夏目、入部する」

「ああ夏目先輩、遅いじゃないですか。待ってたんですよ」
「……え?」

彩乃が気まずい気持ちのまま戻ってくると、何故か清継に歓迎されてしまった。
何故か周りのみんなも笑顔で出迎えられ、ますます訳がわからないと彩乃は困惑気味に首を傾げるのだった。

「色々考えたのですが、やっぱり夏目先輩には我が清十字怪奇探偵団に入って頂きたいんです!」
「あの、その事なら……」

彩乃が申し訳無さそうに断ろうとすると、清継が手で制止する。

「わかっています。先輩にも色々と事情がお有りのようだし……ですがどうしても先輩の様な逸材は諦めきれない!そこで、この清継考えました。先輩は我が部の特別部員として入って頂きたいんです!」
「と、特別部員?」
「ええ!先輩のご都合のいい時だけでも構わないので、部活に参加して頂けませんか?まあ、要は幽霊部員でも構いませんので我が部に入って頂きたいのです」
「え、そんなのでいいの?」
「構いません!」

清継は彩乃に是非とも入って下さいときらきらとした目で迫ってくる。

「……私、たぶん殆ど参加出来ないと思うけど……」
「たまに参加して下されば構いません!」
「……本当に、たまにしか来れないよ?」
「大丈夫です!」

何が大丈夫なんだろうかと思いながらも、彩乃はこんなに必死に自分なんかを必要としてくれる清継に、段々と断るのも悪い気がしてきた。

「……幽霊部員でも良ければ入ります。」
「ありがとう御座います!」

がっちりと彩乃の手をとって礼を言う清継に、彩乃は本当に彼は妖怪が好きなんだなと思った。
思わず苦笑すると、隣にいたヒノエが声を上げる。

「……こいつ、いつまで彩乃の手を握っている気だい?いい加減手を離さないと呪い殺すよ!」
「……ヒノエ、やめてね?」
「何か言いました?」
「ううん、何でもないよ。」

にっこりと笑顔を作って誤魔化す彩乃。
清継もさして気にせず、「先輩が部活に入ってくれたので親睦会も含めてゲームでもしよう」と提案してきた。

「……ゲーム?」
「そうだ。その名も妖怪ポーカー!」

そう言って清継が取り出したトランプはおそらく特注品なのだろう。
沢山の妖怪のイラストが描かれていた。
そしてルールを説明すると、みんなはただのポーカーじゃんと呆れるのだった。

「ポーカーって、私初めてやるなぁ〜。」
「え、それマジですか?」

彩乃の言葉に巻たちは信じられないと言いたげに驚く。
その反応に彩乃は苦笑してしまう。

「うん。小さい頃から転校続きで、同級生の子達とあんまり遊んだことないの。だからこういうトランプとかもやったことがなくて……」
「「……」」 

彩乃は知らないが、島から噂という形である程度彩乃の事情を知ってしまったみんなは、何かを察して彩乃に同情的な視線を向けた。
そして同情からなのか、巻たちが丁寧にルールを教えてくれるのだった。

――そして数十分後――

「ぐあぁぁぁ、また負けたぁぁぁ!!」
「くそー!またリクオと花開院さんと夏目先輩の勝ちかよーー!」

結果は、清継が全敗で、主にリクオとゆらと彩乃が全勝していた。

「先輩強いですね〜!初めてなんでしょう?」
「ええ、運はあまり良くない方なんだけどなぁ……」

そう言って自分の手元にある賭けで貰ったお菓子の山を見て、彩乃は苦笑する。
こんなに食べきれない……

「彩乃、それ寄越せ!」
「はいはい。みんなも良かったら食べて?」
「え、いいんですか?ありがとー先輩!」
「いえいえ。」

喜んで貰ってくれる巻たちに、彩乃も助かると心の中で感謝した。
ふと何気なく男子の方に視線をやると、リクオが島と話しているのが見えた。

「リクオ……お前『妖怪運』あるなー……普通じゃないぜ。」
「ええっ!?何言ってんだよ!たまたまだよたまたま!僕はフツーフツー!!」

その時、売店のワゴンが近くにやって来て、リクオは慌てて自分がみんなの分を買ってくると自らパシリの様な役を買って出た。
両手いっぱいに食べ物やら飲み物やらを抱えて歩くリクオを見兼ねて、彩乃は慌てて立ち上がる。

「奴良くん、手伝うよ。」
「え?僕一人で大丈夫ですよ?」
「でも……そんなに沢山配るのは大変でしょう?手伝うよ!」
「……じゃあ、お願いします。ありがとう、先輩。」
「うん、困った時はお互い様だよ!」

にこにこと微笑み合う彩乃とリクオ。
そんな二人の様子を、ヒノエは後ろの席から恨めしそうに睨みつけていた。

「……あの半妖の小僧。彩乃にデレデレしおって〜!」
「ヒノエ殿、落ち着いてください。」
「うるさいよカゲロウ!ああ、私の彩乃に悪い虫がぁ〜〜!!」
「……くだらん。」

一人嘆き悲しむヒノエとそれを必死に宥めるカゲロウ。
それをニャンコ先生はどうでもよさ気に見つめるのだった。

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