第59話「初恋」

GW最終日、彩乃はその日、氷麗やゆらやカナ達清十字団の女子組と映画館に来ていた。

「中々面白い映画だったわねー!」
「うん。私、最後感動しちゃった!」

映画を観終えた彩乃達は、近くのファミレスで昼食を取っていた。
巻と鳥居が仲良く映画の感想を言い合っているのを微笑ましげに見つめながら、彩乃は珈琲を口に運んだ。

(……なんか、こういうのも楽しいな……)

何故彩乃が巻達と遊ぶことになったのかと言えば、捩眼山で満足に遊ぶことの出来なかった巻からの誘いで、GWの最終日に映画に誘われたのだった。
こんなに大勢の友達と遊ぶことも、映画を観たのも初めての彩乃は何もかもが新鮮だった。

「彩乃さん!このアイスすっごく美味しいですよ!一口いかがですか?」
「え?ああ、ありがとう氷麗ちゃん。じゃあ、私のオムライスも食べる?」
「はい!」

にこにこと笑顔で彩乃にアイスの乗ったスプーンを差し出す氷麗に、彩乃は戸惑い気味にそれを口に含んだ。

「……なんか、及川さんと彩乃先輩、仲良くなっとらん?」
「……え?ああ、うん。ちょっと色々あって……ね?」
「ええ!」
「……そうなん?(……なんや?なんか面白くないわ……)」

ゆらは仲良く微笑み合う二人を怪訝そうに見つめながら、どこか面白くない気持ちでいた。
女性として憧れている大好きな先輩が他の子に取られたようで面白くないゆらであった。
ついこの間まで氷麗に警戒されていた彩乃だったが、あの捩眼山での牛頭丸との一件で二人は仲良くなったのだ。


(過去回想)

それは捩眼山での事だった。
牛鬼との一件が解決し、彩乃達が山を降りようと別荘で荷造りをしていた時の事。

『……あの……夏目さん……』
『及川さん?どうしたの?』

どこか躊躇いがちに声を掛けてきた氷麗に、彩乃は不思議そうに首を傾げた。
すると氷麗はもじもじと何か言いたそうに口を閉じたり開いたりしながらそわそわと落ち着きがなかった。
心なしか頬も赤く、緊張しているように見えた。

『あ……あの……』
『?』
『……っ、き……昨日は、助けてくれて……ありがとう……ございました。』
『!』

深々と頭を下げてお礼を言う氷麗に、彩乃は目を見開いた。
ずっと嫌われてると思っていた相手からお礼を言われて驚いたが、それが切っ掛けで二人は仲良くなった。
聞けば氷麗は彩乃を嫌っていた訳ではなく、レイコの孫ということでリクオを守ろうと警戒していただけだと言う。
嫌われてなかった事には安堵したが、彩乃にとってもっと嬉しい事があった。

『……今まで、失礼な態度を取ってしまって、ごめんなさい。夏目さん……』
『そんな!気にしないでよ!』
『でも!』
『……あ、じゃあ一つだけお願いしてもいいかな?』
『……え?』
『名前で呼んでくれる?』

彩乃に負い目を感じていた氷麗は目を丸くして驚いた。
それから二人は互いに名前で呼ぶようになり、友達になった。
今ではすっかり彩乃に心を開いてくれている事が、今までと態度が違いすぎる事に戸惑いつつも彩乃は嬉しかった。

「……まさか、最後に幼馴染みとくっつくとは思わなかったなぁ〜。」
「ねー、初恋は実らないって話あるけど、最後はいい感じに終わって良かったぁ!」
「私、絶対最後は先輩と結ばれると思ってたのになぁ〜。」
「……家長さんは先輩派なんやね。」
「……(恋愛かぁ〜)」

先程観た恋愛ものの映画の内容を楽しそうに語る女の子達を微笑ましげに見つめながら、自分もいつか誰かに恋をするのだろうかと考えた。

(うーん……想像つかないなぁ……)

日々を妖に悩まされている自分が映画ような素敵な恋愛なんて想像できなくて、彩乃は諦めたようにため息をついた。

「ねえねえ、皆の初恋はどうだったの?」
「えー?そんなの覚えてないよ〜!」
「……うーん、私はどうだったかなぁ〜。」
(……初恋ねぇ〜……)

鳥居が不意に初恋の話を持ち掛けた事で、話題は映画の感想から初恋の話に変わる。
いつの時代も、女の子は恋話が大好きである。

(……そういえば、あの時の男の子はどうしてるのかなぁ……)

ふと彩乃の脳裏に過ったのは、幼い頃に出会った不思議な男の子の事だった。
それはまだ彩乃が幼い頃、ある不思議な男の子との出会いの物語……

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