モフモフday

「夏目〜!」
「おいで子狐!」

一生懸命に手を伸ばして彩乃の胸に飛び込んできた子狐を、彩乃はぎゅっと抱き締めた。
今日は塔子さんと滋さんが夜まで家を留守にするので、彩乃がお留守番をすることになったのだが、それを聞いた子狐が彩乃の家に遊びに行きたいと言ったので、こうして家に招いたのだ。
彩乃に助けてもらって以来彼女にとても懐いている子狐は、彼女にべったりとくっついて離れようとしない。
それが可愛くて、彩乃はにこにこと笑顔で子狐の面倒を見ていた。

「子狐、お昼は何が食べたい?」
「う〜んと、夏目が好きなものがいい!」
「そっかぁ〜!(無難にハンバーグとかにしようかなぁ。)」
「……デレデレしおって……」

子狐の可愛さににこにこと締まりのない笑顔を振り撒く彩乃を、ニャンコ先生は呆れたように見つめていた。
ボツりと呟かれた言葉なんて、ご機嫌な今の彩乃は気にならない。

「夏目夏目!僕も一緒にその『はんばぁぐ』って作っていい?」
「もちろんいいよ!じゃあ挽き肉を手でこねてくれるかな?」
「わかった!」
「彩乃〜、私の分は大きく作れよ!」
「何もしてないくせに食い意地だけは張ってるよね。先生って。」
「なにおう!私は普段お前の用心棒で貢献しているだろうが!」
「はいはい。先生はお皿でも並べて待ってて。」
「……ぐぬぅ」
「夏目!これはどうしたらいい?」
「あ、それはね……」
「…………」

子狐と楽しそうにハンバーグを作る彩乃を、ニャンコ先生は何故か面白くないと感じていた。
ジト目で彩乃を見つめた後、不貞腐れたように体を丸めて不貞寝したのであった。

******

「寝ちゃった。」
「ふん。やっと静かになったか。」

お昼を食べてから、子狐はお腹一杯になったせいか彩乃の膝の上で寝てしまった。
スヤスヤと寝息を立てて可愛らしい寝顔を見せる子狐に、彩乃は微笑む。

「いつまで膝枕しているつもりだ。さっさとそれを退けろ。」
「駄目だよ。そんなことしたら子狐起きちゃうじゃない。」
「ぐぬぅ。」
「……なんか先生、今日機嫌悪い?」
「は?」
「もしかして……子狐にヤキモチ焼いてるの?」
「なにぃ!?そんなわけあるかぁ!!」

彩乃にヤキモチかと問われ、ニャンコ先生は顔を真っ赤にして怒鳴る。
それに彩乃は慌てた。

「ちょっ!静かにして!子狐起きちゃうじゃない!」
「お前が変なこと言うからだろうが!!」
「ふーん?」
「なんだその顔は……」

にこにこと笑みを浮かべる彩乃に、ニャンコ先生は怪訝な顔をする。
すると彩乃は子狐を起こさないようにそっと膝から退けると、布団を敷いてそこに子狐を寝かせた。
そして引き出しから先生用のブラシを取り出すと、笑顔で言ったのだ。

「先生、ブラッシングしてあげるよ。」
「……どういう風の吹き回しだ?普段は私から言わなければやらんのに……」
「だって先生って陶器だから毛とかないし。ブラッシングのしがいがないんだもん。でもたまにはね……」
「ふん。だったらこれならどうだ?」
「へ?」
どろんっ!

そう言うと先生は本来の姿に戻った。
彩乃の部屋に巨大な獣が現れたことで、一気に部屋が狭くなる。

「……先生、狭いんだけど……」
「この姿なら私の美しい毛並みを堪能できるだろう?有り難く思え!」
「はいはい。」

彩乃はしょうがないなと苦笑を浮かべると、斑の体をブラッシングし始めた。
サラサラの毛並みはとても艶がよく、彩乃がブラシを通す度に艶々な毛並みになっていく。

「先生ってやっぱり毛並みにいいね。」
「当然だ。」
「――ふふ。モフモフしてて気持ちいい。」
「おい。勝手に顔を埋めるな!」
「いいじゃない。ちょっとだけ!」
「……少しだけだぞ。」
「ありがとう。」

文句を言いながらも満更でもない斑だった。
結局、彩乃は毛並みの気持ちよさからそのまま眠ってしまい、三人でお昼寝をすることになったのは別の話である。

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