藤原家のクリスマス

「「メリークリスマス!!」」

いつもは静かに食事を取るこの場所で、パンっというクラッカーの発火音と、色とりどりのテープが宙を舞う。
今日は12月24日。そう、クリスマスイブである。
食卓にはクリスマスケーキとチキン。他にも滋や彩乃の好物が数多く並べられていた。
塔子さんの料理はいつも美味しいが、今日は特に豪華だった。

「うふふ。今年は彩乃ちゃんが家に来て初めてのクリスマスだから、つい気合いを入れて作りすぎちゃったわ。」
「ありがとうございます、塔子さん。嬉しいです。」
「そう?彩乃ちゃんが喜んでくれたなら嬉しいわ。ささ、どんどん食べてね!」

料理を作りすぎて恥ずかしそうに頬を染める塔子さんに、彩乃は心からの感謝の言葉を言うと、塔子さんとても嬉しそうに笑ってくれた。

「にゃ〜お」
「ニャンゴローにも鶏肉やるからな。」
「ああ、滋さん。取り分けなら私がやるわ。」
「……(楽しいなぁ〜……)」

チキンを催促するニャンコ先生に、鶏肉を切り分けて皿に盛る塔子さん。
それを見守る滋さん。
なんて、なんて温かいんだろう……
今までクリスマスなんて楽しいと思えたことがなかった。
別に今までお世話になった家でだってクリスマスパーティーを開いてもらったことはある。
だけど、あの頃は自分が変に周りに壁を作って遠慮なんかしていたせいで、随分と迷惑をかけてしまっていたから。純粋にクリスマスを楽しめなかったのだ。

「塔子さん。このチーズケーキ、すごく美味しいです!」
「あら嬉しいわ。それ、ちょっと奮発していいチーズを使ったの。」
「塔子さん、お酒のおかわりを……」
「はいはい。今用意しますね。」

世話しなく動く塔子さんはいつになく楽しそうだ。
彩乃も彩乃で、楽しい雰囲気と、とても美味しい料理に釣られてついつい料理に手が伸びてしまう。

(……これは明日からダイエットが必要かな……)

なんて、彩乃が密かに決意したのは内緒だ。

「そうそう。実はね、彩乃ちゃんにクリスマスプレゼントを用意したのよ。」
「え……」
「これだ。」

そう言って滋さんがテーブルに置いたのは、可愛らしい青いチェックの包装紙に包まれ、赤いリボンが巻かれた小さな箱だった。

「これ……私に?」
「そうよ。開けてみて。」
「あ、はい。」

彩乃は言われるままにリボンを解き、丁寧にラッピングを解いていく。そして箱を開けると……

「……オルゴール?」

箱の中には手のひらサイズの可愛らしいオルゴールが入っていた。
白い猫の形をした女の子が喜びそうなデザインで、彩乃がおずおずとネジを巻けば、軽やかな音楽が流れた。

「これって……あのオルゴールと同じ曲!」
「そうよ。滋さんが結婚記念に私に贈ってくれたオルゴール。彩乃ちゃん、あの曲をとても気に入ってたみたいだから、滋さんと相談してプレゼントしようってこっそり買っておいたの。」
「わざわざ……私のためにですか?」
「彩乃は自分から何かを欲しいと言わないからな。私達から細やかな贈り物だ。」
「あ……ありがとうございます。」

彩乃は心の底から沸き上がる温かな気持ちに、本当に、本当に嬉しそうに笑った。
そして、彩乃はポケットからおずおずと小さな紙袋を二つ取り出した。

「あの……実は私もお二人に……その……」
「まあ、私達に?ありがとう!」

彩乃は恥ずかしそうに二人に袋を渡すと、塔子は花が舞うような可愛らしい笑顔を浮かべた。
彩乃が塔子と滋にプレゼントしたのは、お揃いのハンカチだった。
白と黒の二種類のハンカチに、塔子と滋のイニシャルが刺繍されていた。

「これ……彩乃が刺繍したのか?すごいな。」
「い、いえ……形も悪いですし、初めてだったので不格好になってしまって……」
「いや、嬉しいよ。ありがとう。」
「……はい。」

滋に優しく頭を撫でられ、彩乃は照れくささから俯いてしまう。

(喜んでもらえて良かった。)

彩乃はとても幸せなこの時間を絶対に忘れないと心に刻むのだった。


「♪〜♪〜♪〜」
「そのオルゴール。さっきからずっと聴いてるな。」
「うん。大切にするよ。」

あれから楽しいクリスマス会は終わり、彩乃は自室でオルゴールの音色を何度も聴いていた。
呆れるニャンコ先生の視線など気にならないくらい彩乃は嬉しかったのだ。

「あ、そうそう。ニャンコ先生にもプレゼントあるんだよ。」
「なにぃ!それを早く言わんか!!」

プレゼントと聞いて舞い上がる先生に彩乃は現金だなと呆れた。
机から小さな袋を取り出すと、先生に渡す。

「中身はなんだ?」
「クッキー。」
「おおう!わかってるじゃないか!物など貰っても腹は膨れんからな!」
「先生って、いっつも食べてるよね。」

そのうち丸々と太って動けなくなるんじゃ……
と内心ちょっと先生のメタボを心配する彩乃。
しかし美味しそうに彩乃の作ったクッキーを頬張るニャンコ先生に、今日くらいはいいかなと思うのだった。

「……先生。来年もクリスマスしたいね。」
「おう!来年は酒がいいなあ〜!」
「…………」

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