第82話「混浴(2)」

「……」
「ご、ごめんね柊。」

彩乃にお湯を掛けられ、頭からポタポタと水を滴らせる柊。
無言で彩乃を見つめているが、面をつけているせいで彼女が怒っているのかそうじゃないのかよくわからなかった。

「柊、彩乃を驚かしちゃ駄目だと言ったろ。」
「すみません。軟弱な奴だというのを忘れていました。」
「軟弱って……急に出てきたら恐いでしょ。」
「やはり軟弱だな。」
「……(むかぁ)」

淡々と人を小馬鹿にする柊に腹を立てながら、彩乃は一旦落ち着こうと深呼吸した。

「……はあ、お湯を掛けたのは悪かったよ。よく拭かないと風邪引いちゃうよね。」

そう言って彩乃は持ってきていた乾いたバスタオルで柊の頭を拭いてやる。

「放っておいても構わないよ彩乃。妖は風邪なんか引かない。」
「え?でもリクオ君は……」
「奴は殆ど人間に近い半妖だからだろう。人間の血の混じった奴は軟弱だからな。」
「ちょっと!リクオ様を馬鹿にするんじゃないわよ!!」
「へえ、彼は半妖なんだ?」

リクオを興味深そうに見つめる名取。
以前リクオが風邪を引いて寝込んだ時のことを思い出して柊を心配したのだが、どうやら自分が思っている以上に妖は丈夫らしい。

「でも良かった。もしも柊が風邪で寝込んだら申し訳なかったよ。」
「私はお前と違って柔じゃないよ。」
「ふふ、そうだね。」

柊の頭をごしごしと拭きながら、彩乃は安心したように微笑む。
その様子を名取は静かな眼差しで見ていた。

「……それにしても夏目、細すぎじゃないか?肉が殆どついてないぞ。」
「なっ!?」
「それは私も思ったな。ちゃんと食べているのかい?きちんと食事を取らないと胸も育たないよ?」
「せ……セクハラですよ名取さん!!」
「そうですよ!いくらなんでも女の子に言うことじゃ……!」
「はは、二人共顔真っ赤だね。」
「「名取さんっっ!!」」

名取のセクハラ発言に顔を真っ赤にして怒鳴る彩乃とリクオ。
それを名取は爽やかな笑顔でさらりと受け流すのだった。
只でさえあまり直視しないように彩乃からわざと目を逸らしていたのに、柊が彩乃の体の話題に触れ、名取が胸の話などしてしまうものだから、一瞬、ほんの一瞬だけど見てしまった。
リクオはそんな気恥ずかしさもあって、脱衣所で名取と二人っきりになると、名取に八つ当たり半分、怒り半分で説教を始めた。

「……名取さん。初対面の僕が言うのもなんですが、ちょっと彩乃ちゃんに対して軽々しい発言が多いです。」
「ごめんごめん。ちょっと調子に乗りすぎたよ。」
「……」

飽くまでもヘラヘラと笑う名取にリクオはじろりと睨み付ける。
笑顔の名取とじと目のリクオ。
暫しそんな異様な睨み合いが続くと、リクオはこの人にはもう何を言っても無駄な気がして、ため息をついて視線を逸らした。

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