第85話「気のせい?」

パコン!パコン!
「えいっ!」
「そりゃ!」

暫く彩乃と名取との間でラリーは続き、ニャンコ先生はそれを珍しく食い入るように見つめていた。

「中々上手いじゃないか。」
「それはどうも。」
パコン!パコン!
「……うう、もう駄目だ!獣の血が騒ぐっっ!!」
パコン!パコン! ……ぱくり
「「ああっ!!」」

ずっと動くボールにウズウズしていたニャンコ先生は、等々我慢の限界がきてしまったのか、卓球台に飛び乗るとボールをくわえてじゃれ始めてしまった。

「ちょっと!邪魔しないでよニャンコ先生!」
「……やれやれ。」
「うにゃ〜ん!うにゃ〜ん!」

まるで本物の猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしてボールにじゃれつくニャンコ先生に、彩乃と名取はやれやれと呆れた眼差しを向けるのだった。

「これでは卓球は続けられないね。」
「すみません名取さん。」
「いや、いいさ。」
「……そろそろ部屋に戻りますか?」
「そうだね。」

仕方無く部屋に戻ることにした彩乃達。 
ニャンコ先生を抱えて通路を歩いていると、ロビーの隅に何気なく目をやった彩乃はとんでもないものを見てしまう。

「うわぁっっ!!」
「わっ?」
「どうした夏目!」

思わず叫んでしまった彩乃に驚く名取。
柊まで出てきてしまい、彩乃は青ざめた顔であわあわとロビーを指差す。

「あ、あの、あそこに……」
(天井から人がぶら下がってた――……?)

――そう、彩乃が一瞬見たのは、天井からまるで吊るされたようにぶら下がる人の体のようなものだった。

「……何もないよ?」
「……え?」

名取と共にもう一度そちらに視線を向けるが、そこにはもう何もなかった。

「……名取さん、他にも式を?」
「いや、柊以外は連れてきていない。――何か見たのかい?」
「あ、いえ……気のせいだったかも……」
「……館内を一周してこようかな。湯冷めするから彩乃は部屋で待っていてくれ。」
「えっ、でも……」
「大丈夫、すぐ戻るよ。行くぞ柊。」
「はい。」

そう言って巡回に向かってしまった名取と柊を見送る彩乃。
もう一度ロビーに目をやるが、やはりもう何も見えなかった。

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