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「こちらに王様はいらっしゃる」
「ありがとうございます」

リディアが王様のいる部屋の扉の前に立った時、中から声が聞こえた。


「だから、関所は開けられないのだ」
男の声だった。
男は構わず話を続けた。
「どうやらお主が魔法で峠の土砂崩れを直したたそうだな。きっと、その気になれば魔法一つで関所も破壊できるのだろうが……。そうすれば、お主は牢屋行きだ」
男が冷たく言い放った。

「あんまりですわ!お父様!」
今度は女の声だった。
どうも、関所を開けない男に女が抗議しているみたいだ。それも、女の発言からすると、父と娘の会話だ。

しかし、一つ、リディアには気になることがあった。

普通、娘を牢屋行きにするだろうか。全くもって謎である。


……それより、どのタイミングで中へ入ればいいのだろう。

「王様、失礼します」

タイミングの掴めないリディアに変わって、インテが変わりに機会を作ってくれた。
リディアはインテに軽く会釈をした。

「どうした、インテよ」
「客人です」
「これはこれは、ようこそいらした」
部屋には椅子に座る中年夫婦と、夫婦の側に立つ娘、そして、少し離れたところにルルーがいた。

「あ……」
リディアに気付いたルルーが会釈をした。リディアも、会釈をする。

「お主はどんな用件があるのだ?」
「黒騎士の件で……」
「そうかそうか!」
王様はすぐに機嫌が良くなった。
それほどまでに、黒騎士とやらに困っているのだろう。

これは、かなりの数の星のオーラを期待できるかもしれない。

「黒騎士は今日の夕方に、北のほうにあるセントシュタイン湖にやって来るそうだ。見事黒騎士を倒した暁には、褒美をやるぞい」
ニコニコ笑顔で言う王様。
いいえ、褒美より星のオーラ下さい。

「分かりました。退治してきます!」


星のオーラが集まることを期待して。リディアはその場を立ち去り、湖を目指した。

「……てか、あの王様、他の人のことガン無視してたネ」
サンディの発言は、最もなことであった。






一方──。
その場に取り残されたルルー。
ベクセリアにある我が家に帰るためには、関所を通らなければならない。しかし、黒騎士がフィオーネ姫を攫うという予告状を送りつけてきたせいで、関所が封鎖されてしまった。

峠の時みたいに、イオラで爆破できる。やろうと思えば。

──そうすれば、牢屋行き。

残された選択肢は一つ。

「私も──」
すなわち。

「黒騎士退治に行ってきます。それで、家に帰れるなら、安いものです」

幸い、リディアも黒騎士討伐をするつもりだ。今から彼女を追いかければ、一緒に行けるだろう。


あまり知らない人と行動するのは怖い。


──けれど、一人はもっと怖いから。

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Honey au Lait