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王様がどちらにいらっしゃるのか全く見当がつかない。
お城と言うだけあって、中は広い。部屋の数もある。


お城に入って数十分。
リディアはすでに迷子になっていた。

「ねぇ、リディア。あの人に聞いたらどうよ?」
サンディが廊下の片隅に立っている男を指さした。
おそらく、兵士だろう。

まだ二十代前半と言ったところだろうか。端正な面立ちをした、美青年である。

「あのー、すみません」
勇気を出して、リディアは男に話しかけた。
男はリディアに気付き、目線をこちらに向けてきた。


「何か用か?」
「黒騎士の件で王様に会いたいのですが、迷子になったみたいで……。道を教えていただけないでしょうか」
リディアは丁寧な言葉使いを意識した。
何か失礼なことを言ってしまうと、牢屋行きになるかもしれない。
内心、とてもハラハラしていた。

「分かった。案内しよう」
恐る恐る男の顔色を伺うと、特に不機嫌になったとは思えなかったので、リディアは安心した。

「ありがとうございます。私はリディアと申します」
「インテだ」
どうやらインテは、寡黙な人のようだ。必要最低限のことしか話していない。

──というか、主語を言ってないぞこの人。

リディアは心の中でツッコミを入れた。
最も、省略された主語は、何であるかが明らかに分かるものではあるが。

「こっちだ」
インテに案内され、リディアは城の中を歩く。リディアの隣では、『なかなかいいオトコじゃない!!』と黄色い目線を送っていた。
勿論、彼はサンディが見えない。


──そういえば。
彼の声はどこかで聞いたことがある気がする。
記憶を辿ってたどり着いたのは、数日前──ニードと峠へ向かった時のことだった。

「あの……」
「なんだ」
リディアは思いきって尋ねた。

「インテさんって、数日前、峠にいませんでしたか?ちょうど、村一番のイケメンニード様がセントシュタイン兵から、伝言を受け取った日に」
インテはしばらく悩んだ末に、首を縦に振った。

「そうだ。あの時、ウォルロ村一番のイケメンとやらに、伝言を送った。……でも、なぜそれを貴方が?」
「私も、村一番のイケメンニード様と一緒に峠に行ってたんです。村一番のイケメン様に、道中の魔物退治を頼まれていたもので……」
リディアはニードを形容する『ウォルロ村一番のイケメン』を強調して言った。

しかしながら、ニードが「俺は村一番のイケメン」と自称した相手が、これほど世間一般で『ハンサム』だとか『イケメン』だとか称されるだろう男であったなんて。


なんとも滑稽な話である。


その滑稽さがおもしろおかしく、リディアは小さく笑った。

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Honey au Lait