雪は綺麗だとか、儚いだとか、綺麗事を抜かすなってんだ。近年稀に見る豪雪を目の当たりにして、私は自然とため息を零す。雪ではしゃぐのは学生まで、社会人の自分には雪は鬱陶しくてあの白ささえ嫌気がさしてならなかった。雪は溶けるもんでしょ、積もるんじゃなくてさっさと溶けてくれれば良いのに。いつもより数時間早く起きて雪掻き、車を発掘してエンジンをかける。こんな雪の中向かうのは、もちろん会社。銀行員は、雪なんて関係ない。テレビがどんだけ大渋滞を知らせても、大雪警報が出ていても、店を開かなければならない。ふざけるなって話だ。

「ほら、やっぱり」

 車を走らせて数分、待ち受けていたのは案の定道路の渋滞。バカじゃないの、こんな雪の中車走らせてんじゃねえよ。いや、それは自分も同じなのだけれど。息を吐くかのように舌打ちが出る。まだ着いてないけれど、帰りたい。私は動かなくなった渋滞に苛立ちつつ、用無しとなったアクセルから足を離してブレーキを踏んだ。学生は休みだって聞いた。だから、あの万里も寮でくつろいでやがるんだろうなあ。私は、LIMEを開きトーク履歴の上にいる万里の文字でさらにため息を零す。「雪大変だろうけど頑張って」なんて文字にすら羨ましいと思えてしまった。私も高校生だったら今頃休んで家で寝ているのに。

『どうした?』
「……は?」

 その時、携帯から声が聞こえた。画面を見ると、表示されているのは万里の名前。どうやら間違えて電話をかけてしまっていたらしい。私は、急いでスピーカーにして、「ごめん」と万里に言う。

「間違えて掛けてたっぽい」
『んあー、いいよ。今出勤中?』

 眠たそうな声が、携帯から聞こえる。絶対寝てたな、こいつ。そんなことを思いながらも、万里の声に耳を傾ける。スピーカ越しからは、あくびをして多分伸びをしているのだろう。間の抜けた声が聞こえた。

「出勤中だよ、道全然動かないわ」
『やべえな、それでよく仕事やろうと思えるよな』

 その通りだよ、なんて思いながらひっきりなしに動くワイパーを見つめる。雪は未だに降ってるし、渋滞は動こうとしない。これはもう出勤できないんじゃないんだろうか、何度目か分からないため息が溢れてやる気が削がれる。そんな私を察したのか、万里が「ミキさん」と私の名前を呼んだ。

「はいー」
『えらいよ、ミキさんは』
「え、急に何」
『うっせ、ちゃんと聞けって』

 突然言われた褒め言葉に、私は動揺して一瞬ブレーキを離してしまう。すぐに踏みなおしたけれど、下手したら事故じゃん。今の事故ったら万里のせいにしてた。いや、携帯触ってる自分も悪いのだけれども。私は、言われた通り素直に万里の言葉を待つ。

『いつも頑張ってるし、今日もこんな雪の中仕事行ってるし』
「だって、行かなきゃ」
『また金曜来るっしょ、その時は俺がめいいっぱい褒めてやるよ。ミキさんの好きな、お酒も用意してあげる』

 優しい声色でゆっくりと、万里は私に話しかける。何、そのいいよう。褒めてやるなんて、上から目線。文句を言いたくなったけれど、ゆっくりとした口調から、言葉を選んでるんだろうなと思うと何も言えなくなった。というか、お酒はまだ買えないだろうに。誰に買ってきてもらうんだろう。至かな。至と一緒にコンビニに行って、私のお酒を選ぶ姿を想像してちょっと笑ってしまう。

『だからさ、あとちょっと頑張ってな。待ってるから』
「……ふふ」
『あ、おい、笑っただろ』

 思わず漏れた声に、万里は焦ったように言ってくる。万里はまだ高校生だし、雪ではしゃげちゃう年頃だろうに。私の苦労を汲み取って、そう声を掛けてくれた事が単純に嬉しかった。

「笑ってないよ」

 その時、タイミング良く前の車が動きだす。やっと行けそう。そう思い、万里に声を掛けた。

「ありがと万里、行ってくるね」
『おう、行ってらっしゃい』

 雪は鬱陶しいし今から仕事なのは嫌で仕方ないけれど、あとちょっと頑張ればあの寮に行ける。待ち構えてるであろう万里が、私を頑張って褒めてくれるのだろう。そう思うと少し楽しみで、今からの仕事も頑張れそうな気がした。


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