次はハッピーエンドで もし時間を巻き戻せられるなら、なんて思ったことがあった。だって、後悔したことをやり直せるなんて魅力的なものでしかない。その時間に戻って正しい振る舞いをする。そうすれば、後悔だってしなくなるし悲しむこともなくなる。ハッピーエンドの完成だ。まあ、それは通用しない夢物語だったんだけど。現実は厳しいものだったみたい。時間を戻す術があっても、戻せば戻すほど解決策は見つからない。正しい振る舞いがどれだったかなんてとっくに忘れてしまった。後悔したことをやり直せば、次の新しい問題が見つかる。ハッピーエンドなんて見つからない。それでも私は、諦めず繰り返してしまう。もう諦めればいいのに、と自分に言い聞かせもした。けれど、彼が悲しい表情をするから、やめられなかった。いつだったっけ、彼が死んだ時はその後をすぐさま追ったなあ。まあでも、目を覚ましたら春になって私はまた転校生の1人としてあの学校に向かうわけだけど。 また、失敗した。私は目の前で起きている惨状に涙する。今回は最悪。私の大好きなユニットは内乱に負けた。ふらりと戻ってきた今日の敵である王さまは、悲しそうな目で「残念だ」と一言告げ、去って行く。私はその姿を目で追うことしかできなかった。他のメンバーもそうだった。椅子にうずくまる凛月くん、顔を伏せ涙を流す嵐ちゃん、そして私と同じように王さまを悔しそうな、そして悲しげな目で追う瀬名先輩。ああ、またそんな表情にさせてしまった。これは何度目だろう、見すぎて感情移入が出来なくなってきてしまってることだけは分かる。次は、もうそんな表情させたくないなあ。出来れば笑って欲しいな。私は手元にあったカッターを持ち、自分の喉をそれで突き刺した。意識がなくなる前に見た瀬名先輩の表情に、申し訳なくなった。 ◎ 「初めまして、朱桜司と申します。よろしくお願いします。」 イレギュラーだ。私の前に現れた彼は、今まで出会うことのなかった男の子。関わってなかっただけ?いやいや、私はKnightsに執拗に関わってきていたからそれはないんけども。優しげな表情で笑う彼は、1年生とは思えないような大人びた雰囲気を醸し出している。首を少し傾げると、蘇芳色の髪の毛がさらっと靡く。 「えっと、司くん?なまえと言います。よろしくね!」 「はい!なまえさんについていきます!」 片手を差し伸べると、優しく両手で握って満開の笑顔で微笑まれた。思わず口から「なんてピュア……!瀬名先輩とは大違い!」なんて言葉が溢れる。同じ場にいた瀬名先輩はすぐさまその言葉に反応したのか、「なまえ、後で覚えておきなよねぇ」とにっこりと怖い笑みを浮かべ私を見てきた。ひいっ、と条件反射のように怯えると司くんが私を庇うように立ち「瀬名先輩!女性をいじめるのは最低です!」と吠える。瀬名先輩はその言葉に嫌そうな表情を見せ「かさくんはそういう時だけ一丁前だよねぇ、チョ〜ウザい」と悪態をつく。それでも司くんは引き下がることなく、瀬名先輩に対しキャンキャン吠える犬のように歯向かう。いつもいなかった存在に私はまだ動揺を隠しきれず、そのやり取りを眺めていた。誰かが途中で死んで消えてしまうことはたくさんあった。けれど、新しい人が現れることなんて今の今までなかった。しかも今までのKnightsにはいないタイプの男の子。純粋無垢でまだ子どもらしさが残った司くん、今回はもしかしたら期待してもいいのかもしれない。私は、前回カッターで突き刺した首を触る。もちろん痛みも跡もないけれども、少しだけ刺さった感覚が残っていることに気づく。大丈夫、彼はもう悲しませないよ。 2/4 top |