南雲鉄虎にナンパから救われる


 私はごく平凡な女子高生。偏差値は普通の普通科高校に通っている。友達もそれなりにいるし、多分容姿も普通と言われる部類だと思う。ぱっとしてるわけじゃないし、それほど暗いわけじゃない。平均的だって言えると思う。だから、何も非日常的なことが起こることはないし起こる予定はないつもり。

「あれ、聞こえてるー?」

 まあ、ここ数分前までであればの話なんですけれど。……なぜか、私は今2人の男に絡まれている。学校が終わって帰り道を歩いていたら私の両サイドを包囲され、ナンパの決まり文句のように今暇?と絡まれた。何が起こったのか分からないまま黙っていたらこの樣だ。彼らは、いやらしい笑みを見せこっちを見てくる。制服を着てるから同じ高校生なのは間違いない。けれど、ピアスは空いてるし制服は着崩し過ぎてるし、これは所謂ヤンキーとかDQNとか言われる部類の人だ。免疫のない私は怖くて、鞄を抱えて立ち尽くす。今日以上に帰り道が友達と被らないことを後悔したことはない。

「ねえねえ一人なんでしょ、遊びに行こうよ」
「いいです、帰るんで」
「帰って何するの?」
「えっと……」
「やることないんでしょー、じゃあ俺らと遊んだほうがいいって」

 至極理不尽な理由で誘ってくる彼らの一人が、私の肩に手を回して自分に寄せる。いきなり距離を近づけてくるものだから、思わずひっと声が上がった。そんな様子の私を見たもう一人がびびってんじゃん、と笑い出す。正直に返答してしまった私も悪いんだけども、こんな距離を近づけようとしてくる彼らも悪い。というか、本当に怖い。財布にお金いくら入ってたっけ、とか考えつつ私は身動きが取れないでいた。流されるまま、歩みを進めようとする彼らにつられ私の足もズルズルと動いてしまう。ナンパなんて縁のない私にとって受け応え方も分からなければ、逃げ方も分からない。もう少し、自分の口が上手かったら逃げれたのにな、なんて後悔の念だけが次々と出てくる。

「あーいたいた!何してるんスか」

 突然ぐいっ、と手持ち無沙汰な腕が後ろに引かれる。振り向くと、男の子が気さくな笑顔を私に向けてきた。髪は黒で一部に赤メッシュ、そこまで背は高くないけれど何だか頼り甲斐のあるような風貌をしている。2人の知り合いだろうかと思っていると誰、と私を捕まえていた男の一人が不機嫌そうに言う。どうやら、彼らの知り合いではないみたい。そしたら結果的に私の知り合いだとなりうるのだけれど、残念ながら私も知っている顔ではない。彼は、私の顔をもう一度見ると、私の腕を掴んだ手と反対の手の人差し指を自身の口元にあて、歯を見せるようにして笑った。

「すんません、俺こいつ探してたんスよ」
「は?この子の男?」
「そうッス」

 ね、と当たり前かのように私の方を見る彼。突然振られた私は、一瞬目を丸くしたけれどこれはこの人なりの作戦なんだろうと思って何度も頭を縦に振った。

「だから、ちょっとその手、離してくれないッスかね」

 人懐こい表情から一転、無表情に変わり声もワントーン低く言葉を発す。その言動にびっくりしたのは私だけではなく、男2人も同じだったようで、気がつけば肩に乗っていた手は離れ、2人とも私から距離を置いていた。それを見た彼は、掴んでいた私の腕を再び自分の方に寄せる。それにつられて、私も彼の方に足が動いたからそのまま逃げるように後ろの方に隠れた。正直、知らない人の後ろに隠れるなんて恥ずかしいこと他ならなかったけれど、今はそんな羞恥心を抱いている場合ではない。早く逃げたい気持ちで必死だった。

「なんだよ、男いるのかよ」

 彼らは捨て台詞のように言葉を吐き、舌打ちをしながら走り去る。見えなくなったところで気が抜け、安堵のため息が出た。よかった、助かった。

「大丈夫だったッスか?」
「わっ」

 気づくと彼は、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。思わず声を出してしまったけれど特に気にすることなく、大丈夫そうッスね、と笑ってくれた。そうだ、助けてもらったんだ。私は急いで身を整え、頭を下げる。

「ありがとうございます!助かりました……」
「いやいや、いいッスよ!困ってる人を助けるのは当然のことッス」
「それでも、本当……あ!何かお礼!お礼します!」
「……近い、ッス」

 思わず詰め寄るように話かけていると、今度は彼が身を引くような体制になっていた。口に手を置き顔を赤らめつつ、目を逸している彼を見てようやく自分と彼との距離が近いことに気づく。さっきまで、ナンパしてきた人との距離が近いとびびっていたはずなのに、安心しきったら逆に男の人に詰め寄ってるとか何て恥ずかしい奴だ。勢いよく身を離して、ごめんなさい、と謝る。すると、まだ顔を赤らめていたけれど気にしていないと笑ってくれた。

「そういえば、お名前は」
「名前っすか?」
「鉄虎くーん!」

 名前は、と彼が口を開いたところで声が飛んできた。声をする方を向くと少し幼い感じの男の子が、こっちに向かって走ってきた。鉄虎くん、と呼ばれ反応した彼は、手を振ってその男の子の呼びかけに応えた。

「仙石くん!どうしたッスか?」
「どうにも何も、予定の時間になっても鉄虎くんが来ないから探したのでござる……!」
「時間……ああ!もうこんな時間ッスか!」

 焦るような表情を見せた彼は、もう一人の男の子に引っ張られるようにして急かされる。行ってしまうのかなと思っていると、ちらりと私を見て、ちょっと待って、と引っ張る男の子を止める。そして鞄を漁りだし、何かを取り出すと私に近づきそれを手渡した。

「名前は、南雲鉄虎ッス。お礼なんていいんで、良かったらこれ来て欲しいッス」
「これ……?ライブ?」

 渡されたのは一枚のチケットだった。そこには、流星隊とでかでかと書かれている。場所は夢ノ咲学院、確かアイドル科のある学校だ。南雲くんは、少し照れながら笑う。

「そッス。流星隊っていうユニットに所属してるんスけど、良かったら」
「……い、行く。行きます!」

 チケットを握り、声を上げると南雲くんは嬉しそうな顔をしてくれた。よく見ると整った顔をしている南雲くん。そんな彼が嬉しそうな顔をしているから、こっちも嬉しくなって顔が綻ぶ。

「っ、あざッス!……それじゃあ!」

 大きく手を振りながら、南雲くんは走り去る。それに応えるように私も手を振り返した。彼の姿が見えなくなった後も、嬉しそうに笑う南雲くんの顔が忘れられなかった。助けられた時に掴まれた腕を触る。もうそこに感覚は残っていないけれど、少しだけ熱を帯びているように熱く感じた。あの時の南雲くん、格好良かったなあ。

 後日、宣言通り流星隊のライブに行った私は、女の子に囲まれながら観客の一人としてステージを見ていた。流星ブラックとして堂々たるパフォーマンスをする南雲くん、そんな彼を見ていると私に気づき笑顔で手を振ってくれた。そんなのもう、ずるいとしか言いようがないじゃん。そして私は、物の見事に南雲くんに惚れてしまうのであった。

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