朔間凛月の嫉妬


 最近凛月くんが鬱陶しい。表現はちょっと的確じゃないかも知れないけれど、度がすぎるちょっかいをかけられる。出会い頭に折角セットした髪をぐっしゃぐしゃにしてきたり、何か食べてると太るよ、なんて言ってきたり。これくらいならまだいい。昨日は、教室でうたた寝してたら首を噛みつかれた。びっくりして、休み時間と言えど奇声を発してしまい、休み時間の注目の的になってしまった。私は、恥ずかしくなって暫く立ち直れなかった。そんな私を見てけたけたと楽しそうに笑う凛月くん。流石に殺意が沸いた。これマジで。

「って事なんですよ、瀬名先輩〜」
「はいはい、お疲れ〜」
「聞いてました?お疲れの中に私への労り入ってました?」
「入ってる入ってる」

……相談相手を間違えたかも知れない。瀬名先輩は雑誌を読みながら、適当に相槌を打つ。私なんて微塵も興味ないとでも言うように瀬名先輩は雑誌のページをめくる。私は、そんな瀬名先輩をじとっと見る。黙り込んで見続けていたからか、瀬名先輩はため息をついて雑誌を閉じた。

「それで、なまえはくまくんにどうして欲しいの?」
「どうしてって、とにかくちょっかいかけるのをやめて欲しいです。あ、でも私が言っても聞いてくれないから、瀬名先輩から言ってくださいよ」
「はあ?自分でやれ。俺はあんたのお母さんじゃないのぉ」
「ママ〜!!」
「誰がママだ!」

 足をジタバタさせながら瀬名先輩に訴えると、瀬名先輩は鬱陶しそうに私を見る。私は、机に顎を乗せながら瀬名先輩を見る。お互い見つめあった後、瀬名先輩は思いついたかのようににやりと笑った。

「じゃあさ、暫く俺についてきなよ」
「え?瀬名先輩の手下になれ?」
「あんた、喧嘩売ってんの?」
「ごめんなさい、喜んで先輩のしもべになります」

 手を合わせて瀬名先輩を拝むと、瀬名先輩にゲンコツで殴られた。こやつは酷い。

 それから暫く、瀬名先輩と行動することが多くなった。教室以外で凛月くんを見かけると瀬名先輩のところへ走ったり、丁度よく瀬名先輩が話しかけに来てくれたり、凛月くんとは話す機会がぐんと減った。よく話していたから寂しい気もするけれど、その分ちょっかいかけられることが減ったからそれはそれで良いのかもしれない。あとは、凛月くんの私をいじめるブームが去るのを待つだけ。ちなみに今も、瀬名先輩と行動を共にしている。

「瀬名先輩〜これ、なんですか」
「ゆうくんの載ってる雑誌」
「うわ、出たよゆうくん」
「ちょっとぉ、気安くゆうくんって呼ばないでくれる!?」

 鋭く睨む瀬名先輩に、すみませんでした、と流すように謝る。瀬名先輩の教室に呼び出されたかと思ったら、この何冊もの雑誌を渡された。持てと言われた雑誌たちを抱えて、私は先輩の横をふらふらと歩く。あまりにもふらついているものだから、そんな私を見て瀬名先輩は雑誌を数冊取り上げた。それでもまだまだ数はあるのだけど。軽くなった、やったぜ。そう思って嬉しそうにしていると、私を見ていた瀬名先輩が変な顔、と呟いて眉間に皺を寄せた。言い返してやろう、と口を開けた時、視界に知っている人影が入った。−−凛月くんだ。私たちの横を、凛月くんが気だるげに通る。最近話しかけることも、近づくこともなかったから姿を見るのが久しぶりに感じられた。

「あ、凛月くん」

 私は、思わず声を掛けていた。私の声掛けに、凛月くんは立ち止まりゆっくりと振り向く。眠たそうな目をこちらに寄越して、赤い瞳で私を映した。

「なに」

 凛月くんは、思っていた以上に冷たい声色で答える。あれ、いつもならここで小言のひとつやふたつ飛んでくるはずなのに。いつもと違う態度に私は、反応に困ってしまった。なんなの、ちょっと前まではベタベタするくらい私にひっついてきたくせに。そう思っているとふと、頭に重みを感じた。

「なあに、今はくまくんじゃなくて俺と話してたでしょ」
「瀬名先輩」

 私を見る瀬名先輩は、少し機嫌の悪そうな顔で私の頭を撫でて来た。そして、私から視線を凛月くんへゆっくり移す。凛月くんは、瀬名先輩と目が合うと少し嫌そうな顔をする。一連の流れがどういう意味なのかあまり分からなくて、私は二人を交互に見ていた。

「……せっちゃん本当意地悪」
「こういう時に限って不器用なくまくんが悪いんじゃない?」

 不機嫌そうな凛月くんと楽しそうに笑う瀬名先輩。私は、やはりこの状況が分からなくて首を傾げた。頭の上に乗っている瀬名先輩の手があったかい。暫くそれを堪能していると、凛月くんがゆっくりと私たちに近づいて来た。そして、私の頭の上にある瀬名先輩の手をばしっと払う。

「気安く触らないで」

 凛月くんは、赤い瞳で鋭く瀬名先輩を睨んだ。そして、ちらりと私を見ると私の腕を掴んで歩き出す。引っ張られるものだから、持っていた雑誌を落としそうになる。

「えっ、ちょっと、凛月くん」
「うるさい、ちょっと黙ってて」

 なんだか焦っているような口ぶり、もう既に後方にいる瀬名先輩を見るとひらひらと手を振っている。私は、状況がうまく把握できなくて腕を引っ張る凛月くんを見る。いつもポーカーフェイスの凛月くんが、ちょっとだけ崩れていた。そして、ひとことぽつりと呟く。

「なまえは俺のなのに」

 多分独り言だったのだろう、意外とはっきり聞こえてしまって私は恥ずかしくなる。俺の、その言葉でにやけてしまうから私は結構ちょろいみたい。

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