俺がユーリ・ローウェルと知り合ったのは、今働いてる店で働きはじめてからしばらくした頃だ。年が近いし同じ下町出身で、ユーリは店の上の部屋に住んでるから自然と会って話す機会も多かったこともあり、今では俺が仕事終わりによくユーリの部屋でてきとーに寛ぐくらいには仲が良いとは思ってる。
今日もいつものように仕事終わりにユーリの部屋でなんとはない話をしながら、俺はふと仕事前に見かけた出来事を思い出した。
「ユーリお前、そういえば今日女の子に告られてただろ」
「なんだよなまえ、見てたのか」
「見てたっつーか、たまたま見ちまったっつーか…。」
見てしまったのはたまたま偶然だが、こいつが告白されるのは今日が初めてではないはずだ。前にも何回かそれらしいとこ見たし。こいつ、顔も中身もイケメンだからな。でも告白されても、毎回断っているみたいだけど。
「で、どうなんだよ?」
「どうなんだよってなにが」
「だから、その子と付き合うかってことだよ」
一応聞いてみるが、案の定ユーリからは「丁重にお断りしたよ」と返ってきた。
「…あの女の子かわいかったのにな」
「そうか?」
「かわいかっただろ?目ぱっちりでさ」
「ふーん、お前はああいうのがタイプなわけね」
「そーだよ、黒髪で、目ぱっちりしてて、ふと笑った顔がかわいい女の子…かな。あの女の子、もうちょっと髪が長かったら完璧だったな!」
「………」
せっかく俺のタイプを暴露してやったというのに、こいつ無言で返しやがった。寂しい。でも、告白を断ったというわりには中々深刻な表情をしていた。なんというか、思いつめたような悲しいような。なんとなくだけど。
「…ユーリ?」
「…や、なんでもねえ」
でもその表情はすぐに消えてしまった。知り合ってから結構長いけど、こいつの考えてることを当てるのは難しい。
その時ふと湧いた好奇心から、俺は口を開いた。
「ユーリさ、今までに何回か告白されてるだろ?女の子に」
「……」
「でもお前、その度に断ってるだろ。誰か、好きな子いるのか?」
「いるよ」
「へっ」
思わず変な声を上げてしまった。まさか、こいつに好きな子がいるなんて思いもしなかった。いつも飄々としていて、なんでもできて、自信家なユーリに好きな子がいるなんて。
「…なんだよその気の抜けた顔」
「…い、いや、予想外、というか…」
「そーか?誰にだって好きな奴くらいできるだろ」
「いや、まあそうだけど…」
…もしユーリがその子に告白して、付き合うことになったら、なんてそこまで考えて、寂しいような気がしたのはきっと気のせいだ。
「…どんな子?」
思わず聞けば、ユーリはにっこりと笑った。
「お前」
…………ん??
「…………俺?」
「そう、お前。」
「ユーリが、俺を」
「そう、俺がなまえを好き」
ユーリは笑みを浮かべながら静かにそう言った。笑ってはいるけれど、冗談めいた感じではない。
「…………あの、…友人として…だよな?」
「友人としても好きだし、性的なイミでも好きだな」
性的なイミとは。
「…性的なイミ、とは……?」
「…今すぐお前を押し倒してキスしてやりたいってこと。」
「…………」
なんの言葉も出ない。
ユーリが、俺を、つまりそういうイミで、好き…
「(つまりどういう意味………?)………」
言葉の意味がイマイチ理解できなくてフリーズしてる俺を見てユーリが困ったように笑う。いや、困ってるのは俺だからなユーリ。腕組みながら笑うな。
「……ま、そういうことだから。これからもよろしくな、なまえ?」
「………………俺、帰る…」
「ん、気をつけろよ、また明日な」
ユーリの声が遠い。のろのろと歩き、彼の部屋のドアをゆっくりと閉めてから、俺はしばらくその場から動けなかった。