「お前ほんとケーキとか甘いもの作るの上手いよなあ、お菓子屋開けんじゃねえの」
「ま、俺甘党だしな。作るの楽しいんだよ、こういうの」
こういうの、というのはユーリが作ったケーキのことである。しかもとても美味い。ユーリも俺も甘党だから、ユーリがたまに菓子を作ってくれた時はいつももらっている。そして俺はその度に何か持ってくのだが、今回はスルメとか酒のつまみになるようなものしかなかった。でも一応持って行ったら案の定ユーリに「ケーキにスルメかよ…」と言われた。しょうがない。まあそれは置いといてケーキにしてもクッキーにしても、こいつの作る菓子は美味いのだ。
「お前の作るお菓子美味いからさあ、ついたくさん食べちゃうんだよなあ。」
「食えよ、俺1人だとどうせ余るし」
「おお、ありがたく食べさせていただく」
既に1切れ食べていた俺は2切れ目に手を伸ばす。働いた後のデザートって最高だよな。思わず顔の筋肉が緩んでしまう。
「はー美味い」
1人幸せな気分を存分に味わっていると、ユーリが俺をまじまじと見つめているのに気づいた。食う手が止まってるぞユーリ。
「……なんだよ」
「いや、お前って美味そうに食べるなって」
「だって美味いし、」
「…そんな美味そうな顔で食べてくれるんなら作って良かったよ」
「そりゃ良かった」
ケーキを頬張りながらそう返した。うーん、やっぱり美味い。3切れ目いきそうだ。
「なまえ」
「なに、ん、」
不意にユーリが椅子を立って俺のとこまで歩いてきた。顔に触れられたと思ったら、俺の口の端っこを拭われる。そしてそのままベッドに座っている俺の隣に座った。
「クリームついてた」
「あ、りがと。…わざわざ拭ってくれなくても言ってくれればいいのに」
急に距離が近くなったからドキッとしてちょっとどもってしまったというのは秘密だ。
「なまえってさ、」
「…な、なんだよ」
「なまえって、良い匂いするよな」
じっ、と俺を見つめて何を言うのかと思ったら俺って良い匂いがするらしい。自分の匂いがどんなものかなんて分からないので「お、おお」と歯切れの悪い返事しかできなかった。
そのまま気まずい沈黙(たぶん俺だけ)が数秒続いた後、不意にユーリに名前を呼ばれて、自然と目が合ってしまう。なんだか、ユーリのなんとも言えない不思議な雰囲気に影響されてドキドキしてきた。そしてユーリが俺の首筋へと顔を寄せる、…ってちょっと待て、どうしてそうなるんだ?!
「っちょ、ユーリ!?匂いを嗅ぐな!やめろ!っくすぐったい!」
思わず身体がびくりと跳ねる。ユーリの唇や息が直接首筋に当たってこそばゆい。離そうとしても、ユーリに手を掴まれていてできなかった。というか、俺が動けなかった。やばい俺、すげえドキドキしてる、なんでだろ、ユーリから良い匂いが、
「……………、」
「…ん、…なまえ?」
固まっていた身体を落ち着かせるためにふう、と息を吐いた。よし、大丈夫。さっきまで掴まれていた手を握り返して、ゆっくりとユーリを身体から離させる。だめだ、やっぱり意識せずにはいられない。俺、今すげえ顔が赤い気がする。
「…ユーリの方が良い匂いするだろ」
それでも言わずにはいられなかった。こいつ、こんな良い匂いしてたっけ。今まで気づかなかったのだろうか、なんだか落ち着く匂いだ。
「…そう、か?」
「なんとなく、…好きだよ、お前の匂い」
お返しだ。ユーリにされたように、俺は首筋へと顔を寄せる。一瞬ユーリの身体が強張ったので、してやったりと俺は笑みを漏らした。のだが。
「っん、」
「……………」
思わず俺の身体の動きが止まった。
…なに、さっきの声。
「…?どうした、なまえ」
「………」
確かめるように俺はもう一度ユーリの匂いを嗅いでみる。笑いながらユーリは身じろいだ。
「っなんだよ、今日はいつになく、ぁ、積極的だな」
「くすぐったいだろ、」なんて言いながら笑ってるユーリだが、俺は全然笑えなかった。
「………」
「…おい?なまえ、大丈夫か?」
「……大丈夫……」
だめだ、
こいつの声エロすぎるだろ。