直接的で鋭利な恋
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「おっせーよ、どれだけ待たせんの?」
「うるさい、こっちだって帰ろうとしてたっつーの」

高校生のくせに派手な金髪をさらりと揺らした男。
とっても不機嫌な顔で昇降口に立っている様は、下級生から見れば男前に見えるらしい。
残念ながら私もその一人かもしれないけれど。

最初はそんな事なかった。
腐れ縁のただの友達。
女の子を追っかけ回すクソみたいな男。
でも、友達としては仲のいいそんな奴。
だけどいつからか、私も女の子扱いして欲しい、とか。
他の子に向かって可愛いって言う姿を見て、心が痛み始めた。

流石に鈍感な私でも気付いたけれど、如何せん脈無し状態ではどうしようもない。
当たって砕けろ精神で告白してもいいけど、そんな事をして気まずい思いをするのも嫌だ。
だったら、このまま何もなかったように友達ポジションに重んじる方がいくらかいい。

そう思っていた。

いつも何だかんだ帰るのは一緒。
方向が同じという理由。
たまに帰りにカラオケとかゲーセンに寄ったりする。
今日も新しいゲームの発売日だとか言うから、このままゲームを買いに行く予定だった。
二人で教室を出ようとした矢先、私が呼び止められたのだ。

同じクラスの男子だった。
なんか長い話になりそうだったので、取りあえず我妻には昇降口で待っててもらって、私は用事をさっさと済まそうとしたのだけれど。
思いのほか長くなってしまった。
30分はいただろうか。
やっと解放されて昇降口に降りてきた時には、冒頭の不機嫌モードである。
これに関しては私の所為でもあるので、謝罪はしておこう。

「遅くなってごめん、ほらゲーム屋いこ」
「おー…てか、アイツ何の用だったわけ?」
「…なんか、相談したい事があったみたい」
「ふーん」

嘘をついた。
本当は相談なんかじゃなかった。
私なんかを好きだっていう青春的なアレ。

でも本当の事は言えなくて、我妻の手を引っ張って私は校舎を出た。
我妻に言えば「へーいいじゃん。良かったな」とか言って笑ってくれるとは思うけど、
そんな事されたら私の繊細な心がズタボロである。
頼むからそれ以上詮索しないで欲しい。

何とも思われてないのは分かってるからさ。

校門を出て、繁華街へ二人並んで歩いていく。
いつもは馬鹿みたいにギャーギャー騒ぎながら歩いていくんだけれど、今日は何だか我妻も大人しい。
私の方はさっきの呼び出し案件のお蔭でちょっと気分が滅入っている。
…いくら好きじゃないとは言え、断るのは結構メンタルやられるよね。

その後、無事にゲーム屋に着いたけれど、我妻の反応は相変わらずで。
目的のモノを買っても、店を出ても同じだった。
ゲーム屋からの帰り道、行きと同じように二人横に悩んで歩く。
いつもなら、晩御飯とかも食べるんだけど、今日はなしかな。
だって、なんか様子が変だし。

「…あ、そう言えば今日、体育の授業中の禰豆子ちゃんを見かけたよ」

我妻は下の学年の禰豆子ちゃんの事が好きだ。
とても可愛らしい女の子で、好きになるのは良く分かる。
偶に見かけると「かぁわいいっ!」と吠えている。
だから、何の気なしに話題を出した。
でも我妻は思ったよりも反応が薄い。「ふーん」って。
何それ、いつもなら窓側の席でグラウンドが見える私の事を、羨ましいだの死んでくれなど言うくせに。
いつもと違う反応に私はドキドキしていた。

「ねえ」

他に何の話題を出そうか、色々頭を巡らせていたら、我妻が突然口を開いた。
突然声を出すから吃驚して、すぐに我妻の方を見た。

「なに?」

我妻が道の途中で立ち止まる。
私は一歩前に出て、振り返りながら尋ねた。
夕暮れの日差しが我妻を照らしている。
何だか神秘的だなぁなんて思った。

「さっき呼び出されたのって、何の相談?」
「えっと…授業の分からないとことか」

我妻の鋭い視線が私を射抜く。
苦し紛れな言い訳だと思う。
私の成績なんて言うほど良くはない。
そんな人間に授業の相談なんてするわけがない。
咄嗟の事でそれらしい言い訳が出来なかった事が悔やまれる。

我妻はそんな私に気付いているようで、目を細める。
あー…なんかちょっと怒ってる?
結構待たしてたし、わかりやすい嘘までついているからね。
気分を害するだろうけれど。

「そんなウソ、通じると思う?」
「……」

ハハハ、と乾いた笑いで誤魔化してみたけど、無駄だったみたい。
真剣な顔で我妻が一歩近付いてくる。
私は一歩下がる。


「俺にも言えない訳?」


眉を潜めてそう言う我妻に、ズキンと胸が痛んだ。
あー…別に言えないって事じゃないんだけどさ。
言ったら私がもれなく可哀想ってだけで。
でも言わない事でこんだけ雰囲気悪くするくらいなら、正直に言ったほうがいいかもしれない。
私はハアと息を吐いた。


「告られたの」


我妻の顔は見たくなくて、そのまま前を向いて歩きだした。
ニヤニヤと茶化されたら嫌だし。

だけど予想に反して後ろから「は?」と今世紀最大の不機嫌な声が聞こえた。

「名前相手に?」
「そーですけど」
「マジ?」
「あの、馬鹿にしてる?」

後ろから聞こえる次々繰り出される失礼な問い。
イライラしながら返答したけれど、正直嫌で仕方ない。
私を好きにってくれる超奇特な人ですよーだ。

ツカツカ、と我妻の足音が早くなる。
あっという間に私を抜いて、前に出た。

「まさか、OKしたの?」

吃驚した。
我妻の表情がいつもみたいな茶化すようなそんな表情じゃなかったから。
どっちかって言うと不安な…。

「…我妻には関係ないじゃん」

どう答えていいか分からない。
普通に言えばよかったのに。そんな顔見せられたら。
また私は我妻の前に出ようと、我妻の横を通り過ぎた。
すれ違う際、我妻が私の腕を掴んだので、すぐに止まってしまったけれど。

「関係ないってなんだよ」

グイ、と腕が引かれる。
我妻の顔がもう目の前にあった。
あまりの事にすぐに反応出来なかったけれど、私はフイっと顔を逸らす。

「だってそうじゃん。別に彼氏でもないし」

言ってて本当に悲しくなる。
だって私達は友達。
ずっと、仲のいい。

チッ、と我妻が舌打ちをした。
なんでそんなに機嫌が悪いんだろう。
私が悪い事をしたなら謝るけど、我妻にとって不利益な事ってないじゃん。
腕を離してほしくて振り払ってみたけれど、びくともしなかった。

「我妻、痛いから離して」
「……」
「ねえ、我妻」
「…俺は、」

急に声を上げて更に強く腕をつかむ我妻。
私はその様子をただぼーっと見る事しか出来ない。


「俺は、名前の彼氏になりたいよ」


我妻の声以外、音が聞こえない。
耳から入った情報が、信じられない。

信じられなくて、我妻の顔を見たけれど、
今まで見た事が無いくらい、真剣で、仄かに赤かった。


「じゃあ、私の彼氏になってよ」


ぽろっと零れた本音は、我妻の顔色を更に赤くした。

あぁ、なんて


直接的で鋭利な恋


いつでもまっすぐ、君だけを見てる。





あとがき
みーさま、リクエストありがとうございました!
サザンカの二人が高校生で恋に落ちたら、といったリクエストでしたけれども
如何だったでしょうか?
両片思い!素敵な響き。少しだけ遠回りをするけど、結局くっつくサザンカみたいな話で落ち着きました。
どうか気に言って頂けますと幸いです^^

この度は誠にありがとうございました!

お題元「確かに恋だった」さま


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色いろ