ひとときの、お茶会を
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「今日お集り頂いたのには訳があります」
「怖い顔をしていますよ、アオイ」

何で私はこんなところにいるんだろうか。
冷や汗をダラダラと流し顔を俯かせた状態で私は縮こまっている。

目の前にアオイさん、隣にしのぶさん、そしてカナヲちゃんが私の隣に鎮座している。
怖い顔をしているのはアオイさんで、しのぶさんはいつも通りニコニコ。
カナヲちゃんは何とも言えない顔で横目で私を見ている。

今日はアオイさんに召集され、テーブルを挟んで四人顔を突き合わしている。
原因は何となくわかっているんだけれど。
恐る恐る視線だけをアオイさんに向けると、ぷうっと膨れた頬がそこにあった。
怒った顔も可愛い、なんて善逸さんみたいなことを考えていたらアオイさんが口を開く。

「名前さん、何でここに集められたかわかっていますか!?」
「……え、えっと、何となく」
「何となく!?」
「まあまあ」

ボン、と頭から湯気を出すアオイさんを優しく宥めるしのぶさん。
私には天使のように見えたけれど、そう思ったのもつかの間だということに、数分後気づいた。

「名前さんがあの三人の隣で寝るって仰ったからですよ!?」
「……だって、その方が楽だったので…」
「楽!?」
「いえ、ナンデモアリマセン」

更にヒートアップしたアオイさんの前に、私はもう一回り小さくなった。

この前。
吉原から戻った私は意識のない三人の部屋で寝る、と言ったのだ。
その時はなんとか許しを貰って伊之助さんと善逸さんの間に眠らせていただいたんだけれど、どうやらそれについて怒られているらしい。
私としては何でもないことだったんだけれど。


「まあ、そんなことが」


意識をアオイさんに向けていたら、その隣から漂う空気に違和感を覚える。
相変わらずしのぶさんの表情はにこにこしているけれど、その纏う空気がおぞましいものに変貌している。
ああ、まずいこれは。
直感でヤバイと思ったけれど、何と弁明していいかわからないので、口をパクパクさせておくにとどめた。

「名前さん?」
「は、はい」

名前を呼ばれただけだというのに、なんだろうこの空気。
恐ろしくてしのぶさんの方を見ることが出来ない。
ピリピリと走る緊張感にここを飛び出して逃げたくなった。

「いくら心配だからって、殿方のお部屋で就寝してはいけませんよ」
「すみませんでした」

ゴツン、とテーブルに額をぶつかろうとも勢いよく頭を下げた。
以前伊之助さんがしのぶさんを怒らせたことがあったけれど、その時と同じくらい怖い。
ここは素直に謝るのが正解だ。
私が勢いよくぶつけたので、隣のカナヲちゃんが「あっ」と声を上げた。

「……心配なのは、よくわかるんですけれどね」

ふ、としのぶさんが頬を緩めた。
その空気に私の背中に走っていた緊張も幾分解けた。
「折角出したお茶もお菓子も、もったいないので頂いちゃいましょうか」としのぶさんの声とともに、目の前に出されるお茶菓子。
一気に場の雰囲気が明るくなった。
本来の女子会とはこういう空気のはずだ。
……まあ、私の所為なんだけども。


◇◇◇


「いくらなんでも名前さんは世話を焼きすぎだと思いますよ」
「そ、そうですかね」
「お世話されてる善逸さんの顔見ましたか? にへら〜って緩みっぱなしでしたよ」
「流石、善逸くんですね」
「……」

ぽりぽりと頂いたお煎餅を頬張り、アオイさんとしのぶさんのお話に相槌を打つ。
どこからか話が脱線して、私と善逸さんの事になってしまったけれど。
アオイさんはその時の善逸さんの顔を真似て「こんな顔でした」と冷たい声で呟いた。
残念なことに、その顔は私の前で見せてくれないんだなあ、あの金髪め。

「名前ちゃんが見てないところで、独りで笑ってたりする」

ずっと黙っていたカナヲちゃんも参戦してきた。
あら、もしかして知らなかったの、私だけ?

「皆さんに見られるくらいしょっちゅうそんな顔してるんですか?」
「ええ!そりゃあもう。むしろどうして名前さんは知らないんですか」
「ど、どうしてでしょう」

私に顔を見られるのが嫌なんだろうなと思うけれど、少しでいいからそんな顔をしている善逸さんを見てみたいものだ。
照れた顔すらあまり見せてくれないんだから。
私が考え込むように視線を下げたのを、しのぶさんが気づいたようだった。

「殿方には殿方なりの考えがあるんですよ。こういうことは本人に聞くのが一番いいです」

ね、善逸くん。

しのぶさんの視線は私をすり抜け、廊下側へ。
つられて振り返ればその場に居たのは、松葉杖を使ってなんとか廊下を歩いていた善逸さん。
こちらを見て固まっているところを見ると、会話の内容を聞いていたらしい。

「ぜ、善逸さん」

私が名前を呼び終わる前に、善逸さんの体はくるりと回転し、器用に松葉杖を素早く動かして目の前からいなくなってしまった。
まだ起きてからそんなに時間が経っていないというのに、あんなに素早く動けるなら元気なのでは?
善逸さんが居なくなった廊下を見て溜息を吐くと、しのぶさんが小さく笑った。


「……怪我しても知りませんよ」


しのぶさんの一声で皆、笑みが零れたのだった。



ひとときの、お茶会を



「愚痴を聞くつもりが、惚気で終わってしまいましたね」と呟くしのぶさんに、私は何と返事すればいいかわからなかった。






あとがき
香澄さま、三回目のリクエストありがとうございました!
蝶屋敷のメンツで女子会ということで、
楽しく書かせていただきました。
女子会なので善逸氏が全くイイ所ありませんでしたけれど、ちゃっかり惚気たい。
そんな感じのお話でよければお納めくださいませー!
書いて気づきましたが、アオイさんがずっと怒ってる…

この度はありがとうございました!


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