01
「好きです、付き合ってください!」
目の前の男の子は、放課後先生の用事をしていた私を捕まえ、そして体育館裏という人目のつかない場所まで来ると、身体を揺らしながら顔を真っ赤にしてそう言った。
傍から見れば紛うことなき告白の現場。
どう見てもね。
ただ私は知っている。
この男の子の想い人は別にいる事を。
そもそもの話。
彼と私はあんまり話したことが無い。
残念ながら、頭が金髪でトミセンに目をつけられている以外、大した情報を持ってないのだ。
確か2年も同じクラスだったハズだけど。
私自身友達はいるが、彼のように人懐っこい性格でもないので、数は少ない。
同じクラスでも1人2人と過ごしているような、人見知り勢。
そんな私に彼が告白する意味とは。
決して少女漫画でよくある一目惚れだの、話した事ないけど実はずっと好きだった的な展開をリアルで夢見る私ではない。
彼は、前述の通り想い人がいる。
何故それをよく知らない私が知っているかと言うと、クラスの殆どか周知している話だったりするからだ。
じゃあ何故想い人がいる立場でありながら、私みたいな空気な女に告白するのかという点だが。
要は体のいい隠れ蓑という訳だ。
彼には仲の良い友達が2人存在する。
2人とも学年は一つ下になるが、休み時間や登下校なんかに仲良く3人で過ごしている。
そのうちの一人、額に痣のある男の子。
この子がその想い人だったりする訳だ。
私も実は1度この目で見たことがある。
彼らがキスをしている場面を。
あれは1か月前の放課後だった。
図書室で痣のある少年の背後から、たまたま廊下を通りかかった私が見たのは、2人の顔が至近距離に近づいている現場。
あぁ、これはもう。
慌てて視線を逸らして何事も無かったように、元来た廊下を歩いたけれど、間違いなく彼らは好きあっている事がわかった。
よく痣の男の子が彼をよく世話していたり、頭を撫でたりする場面も見かけるようになった。
2人は隠しているつもりだろうが、状況証拠は揃っている。
我妻くんは基本、女の子も好きなようだ。
可愛い女子に可愛いと素直に言えるくらい正直に生きている。
ああ、好きな人の性別は特に問題ないタイプね。
男の子と男の子。
別にそこに偏見はない。
人を好きになったことの無い私からすれば、好きな人がいるだけで羨ましい話。
好きにラブラブしていてくれ、とは思う。
だけど、世間は未だそうでは無い。
やっぱり人の目を気にする場面が少なからず存在するだろう。
という訳だ。
彼は多くは語らないが、手に取るようにその気持ちが分かる。
私みたいな´女´の相手が1人居れば、その後ろでどれだけ本命とイチャイチャしようがそれは他所から見れば友達の範疇。
つまりはそういういうこと。
勿論私には全くメリットがないけれど、でも彼らを応援したい気持ちがある。
どうせ相手なんているわけでもないし、相手を作ろうとも思わない。
私1人で彼らが幸せになるのなら、喜んで前に出よう。
自分のストレートの髪が風で揺れた。
告白したというのに何の反応も示さない私を見て、金髪の男の子、我妻善逸くんは泣きそうな顔でこちらを見る。
意図せずとも無視したようになってしまったみたい。
これは可哀想。私はハッとなって慌てて口を開いた。
「私なんかでよければ…」
あなた達の幸せのために、尽力させてもらおう。
つまらない私の人生の中で、偽善でもいいから良い事をしよう。
私がそう言うと、我妻くんはぱあっと顔を明るくして、文字通り破顔した。
目にはうっすら涙を溜め「あ、ありがとう〜…」と言う姿に私は目を細めて微笑んだ。
こうして、私に彼氏(仮)が出来たのだった。
ーーーーーーーー
「苗字さん、一緒に、か、帰らない?」
告白後、泣いた彼のためにポケットからハンカチを取り出し差し出すと、彼は小さく礼を言ってそれから自分の涙を拭った。
不覚にも可愛い所があるんだなぁと思った。
あの男の子から見てもきっと我妻くんは可愛い対象なんだろう。
そんな事を考えていたら、我妻くんと目が合って、一緒に帰ろうと誘われた。
一応彼氏彼女となった訳だから、断る理由は無いのだけど。
どうしたものか…。
顎に手を当てて考えていたら、我妻くんが眉間に皺を寄せこちらを見ていた。
「え、そんなに悩む?」
「…いや、大丈夫。一緒に帰ろう」
「大丈夫って何が?」
「問題ない」
「ねえ?」
私自身男の子と一緒に帰る、なんてこと小学校以来なので、少し緊張する。
まあ、相手は私のことを何とも思ってないにしろ、傍から見られても良いようにパフォーマンスは必要だろう。
そこをおざなりにしていると、彼らの関係があっさりバレてしまう可能性がある。
ここは私が人肌脱がねばならない。
「我妻くん、今日はいつも一緒にいる子たちはいないの?」
「それって炭治郎と伊之助のこと?いないけど…なんで?」
「一緒に帰らないのかなぁと」
私はそんなに変なことを言っているだろうか?
お友達の事を聞いただけで我妻くんの眉が八の字になり、不審そうに私を見ている。
そして「今日は先に帰ってもらったんだ…」とポツリ零す。
ああ、そうか。いくらフリとはいえ、私に告白する場面を想い人に見せるわけにはいかないな。
恋愛経験値がゼロだと、こういう普通のことにも気づかないなんて。
これからは気をつけよう。
「じゃあ、また今度一緒に帰ろう」
微笑みながらそう言うと、我妻くんは何故か腑に落ちない顔をして「うん」と頷く。
ちょっと親しすぎたかもしれない。
あんまり彼らに踏み込むのは失礼だね。
それも肝に銘じておこう。
結局その後は最寄りの駅まで我妻くんが送ってくれで、私たちはそこで別れた。
そんなに気を使わなくてもいいのに。
君たちが幸せなら私は嬉しいだけなのだ。
あ、そうだ。
彼氏(仮)が出来たことを一応、友達にも連絡しておかないと。
むしろ話を広めておかないと彼らの隠れ蓑になる事は不可能だろう。
私は自分の家に着くまで、友達に短い文でメッセージを送った。
『彼氏できた』
よしこれでいい。
はぁ、今日は久しぶりにいい事をしたなぁ。
明日も明後日も、こんな気分でいられるなら、人助けって案外しょうに合ってるのかもしれない。
気分が良いので、そのまま鼻歌を歌って家へと急いだ。
ーーーーーーーー
「炭治郎!? 俺、OK貰ったんだよ!!」
『良かったな、善逸』
「ありがとう!一瞬断られるかと思ったけど、いい返事を貰えてほんと良かった!」
『本当に嬉しそうだな、電話口からでもよく伝わるよ』
「そりゃそうだろ。ずっと話しかけられなかったけど、勇気を出して告白したんだから」
苗字さんを駅まで送って、自分の最寄に着いてすぐ、炭治郎に電話をした。
だって炭治郎が背中を押してくれなかったら、今日告白なんてできなかったんだから。
真っ先に結果を伝えたかった。
『落ち着いたら、紹介してくれ』
「うん。…なんか苗字さんも炭治郎達に会いたいみたいだし」
一緒に帰ろうと言われた。
俺の友達と一緒に。
それは純粋に嬉しいけれど、どこか感じる違和感。
あの子の音は戸惑いが見えたけど、炭治郎とは少し違う優しい音がする。
誰かのためにしてあげたい、っていう。
これからどんどん知っていけばいいなと思う。
折角、彼氏彼女の関係になったんだし。
これからの事を考えると笑いが止まらない。
『善逸、笑うのはいいが、せめて人通りの少ない所で笑おう。笑い声が気持ち悪い』
炭治郎の天然毒舌にだって、今日は許せる気がする。
はぁ、早く明日になんねぇかな。
ふふ、ふふ…となおらない口角を手で押さえながら、家路を急いだ。
【
*前】【
次#】