高校一年の入学式前日。
私は自分の背丈よりも遥かに大きく、冷たい目をした怖い人を見た。
単なる友達との待ち合わせ。
少し遅れる、と連絡があったから、私は公園のベンチから動くことも出来ず、暇ついでに周りの人間観察をすることにした。
そうしたら、視界の端。
人通りの少なそうな場所で女の子が背の高い眼鏡の男の子と向かい合って立っていた。
あーリア充だ、うらやましい。
なんて考えたその瞬間、女の子の肩が震え、そして男の子に背を向けるように走り出した。
その瞳には小さな雫が見えた。
どこから出てきたのか、メガネの男の子の後ろからもう一人、男の子が出てきた。
そばかすが特徴的なこちらも背の高い彼は、そのまま走り去った女の子の後を追い駆けていく。
それを興味の無さそうな、つまらなさそうな様子で見つめる、男の子。
何となく、何となくだけど。
見てはいけない現場を見てしまったような気がした。
女の子があの男の子に振られてしまったのだろうか、そんな風に見受けられた。
確かに残されたメガネの似合う男の子はそこそこ顔立ちもよく、雰囲気からしてモテそうだった。
だけれども。
その態度はどうだろうか。
自分に好意を持ってくれて、そしてそれを口に出してくれた相手に対して些か冷たいのではないか。
彼は無関心と書かれた顔でただただ突っ立っていた。
断るにしてももっとそれ相応の態度というものがあるだろう。
私は他人事ながら、思わず唇を尖らせ、膝の上にあった拳をぎりぎりと握るくらいには怒りを覚えた。
あんな冷たい目をしなくてもいいのに。
なんて考えながら、メガネ男子を見ていた。
歳はいくつくらいだろうか、高校生っぽいけれど体格から自分よりも年上に見える。
すると、メガネ男子がゆっくり顔を背け、その視線が私に向けられた。
目が、合った。
バチーン、と効果音でもつきそうなくらい、しっかりと彼の視界に私が移ったのが分かった。
見てたこと、バレた!?
慌てて目を逸らそうとしたら、男の子の口元がゆっくりと動く。
『見世物じゃないんだけど』
勿論、メガネ男子と私の位置はそこそこ離れていて、声が聞こえるような距離ではなかった。
でもはっきり、私に向かってメガネ男子はそう言っていた。
メガネの奥の瞳がすうっと鋭く私を睨んだ瞬間、私はやっと自分の視線を男の子から外すことが出来た。
まるで最初から何も見ていなかったように、知らん顔をして。
自分でも無理があることくらいわかっているけれど、背中に変な汗が流れるくらいこちらも必死である。
こっっっわ。
何、あの人。
見世物じゃないと言われても、そんな昼間の公園で堂々とリア充イベントを開催する方が悪い。
私だって見たくて見たわけじゃ…ないこともないけれど。
視線を外しても、遠くの方から感じる気配。
めっちゃこっち見られてる…!
もうこれ以上は絶対見ない、と心に決めて必死に視線をあらぬ方向へ向け続けた。
どれだけ時間が経ったかわからない。
気が付けば、友達が変な顔をして私の前に立っていた。
まるでお化けに遭遇したような怖い顔をしていたらしい。
お化けはいなかったけれど、人間の怖いところを垣間見た気がする。
恐る恐る視線を戻すと、メガネ男子はもうそこには居なかった。
心の底から安堵して、私はさっさと記憶からメガネ男子に睨まれた映像を消し去ることした。
それが、烏野高校入学式前日の話である。
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