音駒戦を明日に控え。
お昼の練習が終わりを告げる頃、潔子先輩に手伝ってほしい、と言われて私は紙袋を両手に下げて体育館へ。
武田先生が私達を見て「できた?」とニコニコしながら近づいてくる。
潔子先輩はそれに笑顔で答えるけれども、私は何のことだか分からない。
練習をしていた皆さんが私達の周りに集まってきたかと思うと、潔子先輩に「中身を開けてみて」と言われて大人しく紙袋を見た。

「ユニフォーム!」

私の手にある数字の書かれたユニフォームを見て、誰かが声を上げた。
胸に烏野と刺繍されていて、色も黒とオレンジでカッコいい。
一人一人武田先生が名前を読んで、ユニフォームを渡していく。
その手をじっと見つめて私は少しだけ羨ましく感じていた。
私も、ユニフォーム着たいな、なんて。

チーム員でもなければ部活にも所属していないのに。
そんな風に思ってしまうほど、彼らにそのユニフォームは良く似合っていた。

「か、影山が一桁っ」

日向くんが自分のユニフォームと影山くんのユニフォームを見比べてギリギリと奥歯を噛む。
後ろで月島くんが「言うと思った」とニヤニヤ笑っている。
でも悔しがる日向くんがくるりと振り返り、月島くんを睨みながら

「月島は俺の後ろじゃん!」

と負けじと言い放った。
あ、と思った時には月島くんがすうっと目を細めて「へぇ?」と気味の悪い笑みを浮かべていたので、私は見ない振りをすることにした。
手に持ったユニフォームを一刻も早く着てみたいらしい皆さんは、それぞれ着ていたシャツをその場で脱ぎ去り、頭から大胆にユニフォームを被った。
途端半裸の男の人たちが現れたので、私は目のやり場に困って仕方ない。

きっと変な顔をしていたのだろう。
同じく服を脱ごうとしていた月島くんが私に近づいてきて、ぼそりと呟く。

「いやらし」
「…っ、ち、違う! 違うからね!?」

人の悪い顔でそう言われれば、いくら目線に困っても反論せずにはいられない。
必死の形相で月島くんに違う違うと連呼する様は、無様だったでしょうね。
より楽しそうに月島くんが口角上げて笑う。

そんなこんなをしていたら、半裸だった人たちは皆カッコいいユニフォーム姿へと変身していた。
その様子をポカンと見ていたら、いつの間にか月島くんも着替えていた。

「いつの間に…」
「そりゃあ、ギラギラした目で見られたくないからね」
「違うって言ってるでしょ!?」
「で、どう?」

どう?と涼しい顔で問われて、私は頭の上に疑問符を並べる。

「どう、とは?」
「これ見て思う事ないの」
「……えっと?」
「いい。君がどうしようもない鈍感娘だということ忘れてた」

はぁ、と小さく溜息を吐かれて私は唇を尖らせる。
何故だかとても失礼な事を言われた気がする。しばらく月島くんの横顔を睨みつけていたけれど、私は何となく思い当たることがあって、ぽつりと呟いた。


「似合ってると思うよ」


よそ見をしていた月島くんが、バッと私の顔を見る。
凄く驚いたようなそんな顔をしていたから、私はほんの少しだけ嬉しくなった。
あの月島くんが驚いたんだ。
優越感でいっぱいになる私に月島くんはすぐに「あっそ」と冷たく言い放つと、先輩たちの輪の中へ消えて行ってしまった。
てっきりそう言って欲しかったのかと思ったけれど、違ったらしい、残念。


◇◇◇


次の日。
総合運動公園球戯場という、普段の学校の体育館より広い場所に私達は立っていた。
球戯場の前にある大きな階段の前に並ぶ、他校のジャージを着た彼ら。
彼らが今日対戦する、音駒高校バレー部の人たちだ。

皆が一列に並んで何とも言えない顔で、彼らを眺める。
一部睨みあいをしている人たちもいたけれど、どこか緊張感の漂う雰囲気だった。

「挨拶!」
「お願いしアス!!」
「しアース!!」

澤村先輩の掛け声のあと、なんとも運動部らしい挨拶をして。
中へ入ると私はバレー部員ではないので、コートの中に入ることは出来ない。
観客席の一番前を堂々と陣取り、ビデオカメラをそっと抱える。
公式戦ではないとは言え、フラッシュのある撮影などは試合中の選手たちの気が削がれてしまう。
音が出ないようにそっとビデオカメラで撮影するのは大丈夫だと教えてもらったので、今日はいつものデジカメではなくてビデオカメラを持参した。
ビデオカメラの映像から写真にすることも可能だし。

コートの中でアップをする日向くんと影山くんを見た。
彼らはいつもと変わらずお互い叫び合いながら練習をしていた。
思わず笑みが零れる。

「ねえ」

そんな二人を微笑ましく見ていたら、真下でこちらを見つめるメガネ男子が一人。
その隣には山口くんが呆れたような顔をして立っていた。

「日向ばっかり映さないでよ」

いつぞやの「公平性がない」と言われた時のように。
ちゃっかり私に釘をさすことを忘れないで。

「ご心配なく。ちゃんと弁えてるから」

ぷうっと膨れた頬をわざと見せつけるようにそう言うと、私は月島くんに小さく手を振って

「がんばってね」

と呟いた。