校内新聞の評判も上々。
私は今回の評価を受けて、堂々とバレー部の取材をすることを許可された。
今までは何だかんだ言いつつ、バレー部の練習の邪魔にしかなっていなかったのに、快く武田先生が受けてくださったから、何度も部活に参加させて頂いていた。
新聞部の先輩からの「任せたわよ」という不吉な一言で、また私が1コーナー担当することが決まったようだけれど。
かくして、私は今日もバレー部の練習に邪魔にならないようひっそりと参加している。
既に時刻は下校時間。
コートも大方片付けた日向くん達が、体育館の真ん中で田中先輩の持っていた雑誌を覗き込んでいた。
私のそれを後ろからそっと覗いてみると、大きく一面に載った男の人の顔。
その見出しには「高校注目選手ピックアップ」と書かれている。つまりは、バレーの選手の特集のようだった。
「ウシワカ…?」
圧倒的パワーと高さ!! 超高校級エース! と大きく書かれた掲題。
牛島若利という高校生の記事だった。
宮城県で一番強い選手ということで、細かな字でインタビューが載っている。
それを皆の頭の隙間から眺めていたら「へえ、そんなのに興味あるんだ?」と呆れたような声が掛かる。
もう後ろを振り向かなくても誰の声か分かるので、私は問答無用で無視することにした。
「図星?」
「違う! なんか怖そうな顔だなーと思っただけ!」
わざわざ無視しているのに、挫けることなく絡んでくる月島くんに私はとうとう根負けして口を出した。
確かに端正な顔立ちだとは思うけれど、眉も目もキリリとしていて、少し怖い印象だ。
…あ、でも一番怖いのは月島くんの顔かも。
と、思ったけれど口には出さなかった。
ただ月島くんには何故か分かってしまったようで、私の顔を見て一層腹の立つくらい顔を歪める。
「どうせあれデショ。僕の顔の方が怖いとか考えてたわけでしょ」
「……そ、そんなことないかなー?」
「嘘が下手なことくらい自覚したらどうなの」
はあ、と呆れて溜息を零す月島くん。
私は唇を尖らせて雑誌に目を移した。
月島くんを相手にしていたら、日向くん達の会話に参加できない。
「そう言えば、俺と西谷が戻る前に、青葉城西には勝ってるんだよな?」
東峰先輩が思い出したように口を開く。
横からひょっこり顔を出す西谷先輩が可愛い。
「あの時は肝心の“及川徹”がほぼ居ない状態だったんだよ」
「そんでそいつが入った途端に一気に追い詰められた」
菅原先輩の言葉のあと、澤村先輩の重い言葉にその場にいた皆が息を飲む。
私は青葉城西との試合は見ていないので、どういう経緯があったのかは知らない。
けれど、何となく空気を読む限り、ガッツポーズで喜べる勝利ではなかったみたいだ。
及川、さん。
青葉城西の三年生。
影山くんの中学の時の先輩だと聞いている。
セッターとしてとても優秀だったとか。
どんな人なんだろうか。あの影山くんですら圧倒するような人なんて。
顎に手を置いて考えていたら、ふ、と僅かに笑う声が聞こえる。
「何、次はその及川サンが気になるの?」
「…だから、何でもそういうのに結び付けないで!」
頬をぷうと膨らまして腰に手を当てていかにも「怒っていますよ!」という態度で月島くんを睨んでみる。
けれど月島くんはいつものように涼しい顔をして笑っていただけだった。
「……興味があっても困るんだけどね」
「なんて?」
「何でもない」
私の耳に聞こえないくらいの声でぼそりと何か言われたような気がしたので、聞き返したけれど月島くんは教えてくれなかった。
どうせ私の事を「単純馬鹿」とかそういう悪口を言っていたに違いない。
本当に腹立つ。
そんな会話をしていたら、体育館の扉がバーンと勢いよく開いて、外から武田先生が飛び込んできた。
「皆、まだ居るー?」
扉の音でその場に居た皆が驚いて肩を揺らしたけれど、それに構うことなく武田先生は汗だくだくの状態で、一枚の紙をひらひらさせながら入ってきた。
「出ました! インターハイ予選の組み合わせ!」
その言葉に皆の表情が変わる。
さっきまで私を涼しい顔で見ていた月島くんでさえ、真面目そうな顔に戻った。
澤村先輩が紙を受け取り、そっと皆に見えるように広げる。
紙にはインターハイ予選の組み合わせが書かれていた。
Aブロックの五つ目に烏野の名前があった。
初戦で当たるのは常波という高校だ。聞いたことはあるけれど、バレーが強いのかどうかはわからない。
皆が騒ぐのを私はまた後ろから見ていた。
やっぱり、私はまだバレーの知識が足りない、と思った瞬間だった。
◇◇◇
「帰らないの?」
「帰るよ」
予選の組み合わせを一通り眺めた後、下校時刻をとうに過ぎていたので、大慌てで体育館から出された私たちは、いつものように一年生組で固まって校門に居た。
日向くんが不思議そうに私に尋ねたので、私はにこりと微笑みながら答える。
「じゃあ、一緒に帰ろう、苗字さん」
「ありがとう、日向くん」
いつも日向くんは帰り路の途中まで送ってくれる。
隣に立っていた影山くんもこくりと頷いてくれたので、有難く私は二人の後ろを歩いた。
またいつものように、日向くんと影山くんがやいやい言い争いをしている後ろを眺めていた。
「気落ちでもしてるの?」
「……どうして月島くんは、突然話掛けてくるの? 怖いんだけど」
「突然話しかけて欲しくないなら、そんな辛気臭い顔しないで欲しいね」
いつの間にか私の隣に月島くんと山口くんが並び歩いていて、また冷めた目で月島くんが私を見る。
もう見飽きるくらいその目でみられているので、私ははあ、と溜息を吐いた。
「苗字さん、ツッキーはね、これでも心配しているんだよ」
「山口」
「山口くん、ありがとう。優しいね」
山口くんが黙ってられないと口を開くと、すぐに月島くんが山口くんを睨む。
私はそっと山口くんにお礼を言った。
事実、そう言ってくれる山口くんはとても優しいからね。
月島くんは今度は私の方を見て、無言で睨んでくる。
私が気に入らないのは分かったから、もう勘弁してほしい。
「私、もっと勉強するね」
「ちゃんと有言実行出来る事を口にした方がいいと思うけど」
「……ほんと月島くんって私の事嫌いだよね、人の事言えないけど」
「ツッキー…」
何だか少し元気になった気がしたので、胸の前で小さくガッツポーズを見せた。
頑張って今以上に知識をつけよう。
インターハイの時には、試合についていけるように。
皆の勇姿をちゃんと記事に出来るように。
何故か宥めるように月島くんの肩に手を置く山口くんを不思議そうに眺めて、私は心の中で小さく決心をしたのだった。
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