「やっぱり今日も山口くんは…」
「…寄り道だってさ」
「そう、なんだ」
「……」

何で私、今こんな気まずい思いをしなくちゃいけないんだろう。
そして何故、私は今、月島くんと一緒に下校しているんだろうか。
せめて、せめて日向くんが居てくれればいいのに、この場には日向くんも影山くんも、最後の砦の山口くんすらいない。
私の隣でポケットに手を突っ込んで歩く、不機嫌そうな目とバチっと視線が合った。
慌てて視線を逸らせばすぐに「何か文句でもあるの?」と返ってくる。
それに私は「イイエ」と答えて、またもくもくと歩き始めた。

日向くんも影山くんも山口くんも。
みんなみーんな酷いよ。

とてつもないくらい重い溜息が漏れたと同時に、隣からフ、と鼻で笑う音が聞こえた。


インターハイを数日後に控え、バレー部の士気も高まってきていた。
コーチの指導にも熱が入るし、部活が終わってもみんなで部室で作戦会議をしていたりする。
日向くんと影山くんは練習が終わっても、近くの公園で練習するんだ、と言って二人で下校途中で消えていくのも、珍しくなくなった。
そういう時は山口くんと、嫌だけど月島くんと三人で下校する。
と言っても、バス停までなのでそんなに気まずい思いはしていなかった、今までは。
最近になって山口くんも部活が終わると、一目散でどこかへ寄っているらしい。
月島くんに聞いたら「知らない」とあっさり返されたので、これ以上聞くまいと思った。
……きっと山口くんなりに色々考えているんだろうけれどね。

でもそれにしたって、この状況は酷いんじゃないかな?

自分が一番苦手とする人間と下校するなんて、拷問も拷問。
何となくそんな気がしたから「今日は一人で帰るね」と言ったのに、それを聞いた山口くんが

「夕方明るくなってきたとはいえ、危ないからさ。ツッキーが送ってくれるよ」
「山口、僕はそんなこと一言も…」
「ちゃんと送ってあげてね、ツッキー」

とかなんとか言って月島くんと帰る手筈を整えてしまったのだ。
その光景を見た日向くんが「俺も苗字さんと帰る!」と暴れたけれど、影山くんに「インターハイまでにもっと早く打てるようになりたいとかほざいたのは誰だよボケが!」と言われながら、連行されていった。
正直、そのまま日向くんと影山くんについていけばよかったと後悔したが、すべて遅い。

こうして茜色の空の下、月島くんと一緒に歩くことになったのだ。

「…はぁ」
「ほんと君って失礼だよね」

こんな調子でギスギスした会話が二人の中で交わされるのだ。
可能ならばこの場からさっさと離れたい。

「……」
「……」

大体なんで月島くんも断ってくれないんだろうか。
嫌な相手と下校するぐらいなら、全力で顔を歪ませて「嫌」と言いそうな性格をしているのに。
ちらっと横目で月島くんを見ると、月島くんは目を細めて「遅い」とぽつりと呟く。

「遅い? って、何が?」
「君の歩くスピード。家に早く帰りたくないわけ? 一向に前に進まないんじゃないの、その足」
「……私よりも遥かに大きい月島くんと同じ歩幅でいられるわけないじゃん」
「日向よりも遅い」
「日向くんも私より大きい…って、」

ふと気が付いた。
あれ、そう言えば月島くんは一人ズンズンと歩いていくタイプの人だ。
なのに、なんで月島くんは私の隣をちんたら歩いているんだろうか。
もしかして、もしかして。

「合わせてくれてる、の?」
「……」

フイ、と顔を逸らした月島くん。
その表情がどんな風になっているのかは分からないけれど、少なくとも、一緒に下校するために足の遅い私に合わせて歩いてくれていることが良く分かった。
なんだか申し訳ないような、それからほんの少し有難いような。

「…なんか、ごめんね?」
「そう思うならさっさと歩いて」
「ハイ」

少しは距離が縮まったのかと思ったけれども、そうでもなかった。
私はガックリ肩を落としつつ、少しでも月島くんの歩幅に合わせようと大きく足を開く。

「…インターハイ、来るの?」
「あ、私?」
「今この場に君以外の人間がいるわけ? バカなの?」
「……そうでした、すみません」

何だろう一言一言、トゲがあるのは仕方ないにしても普通に話しかけられないのだろうか。
プンプンと心奥底で憤慨しながら、私はぶっきらぼうに「行くよ」と呟く。

「だってみんなが頑張ってる姿、見たいもん」
「ふうん」
「月島くんだって、結構活躍するでしょう?」
「さあ、どうだか」
「是非とも活躍して頂いて。私がばっちり記事にするから」

へへ、と悪戯が成功した子供のように笑ってみると、月島くんはまた「次は本気で怒るよ」と零した。
なんだと、この前のあれは本気でなかったというのか。
私は先日の「勝手に記事にしちゃって月島くんが激おこ事件」を思い出しながら、身震いした。

「そう言えば、月島くんの名前ってなんて読むの? 記事にしたとき凄く大変だったんだから」
「……まだそんなこと言ってるの、君」
「ほたるくん?」
「……」

ほたるくん、と私が言うと、月島くんの眉がぴくりと動いた。
やっぱりほたるくんではないらしい。
この学校で月島くんに会った時に、日向くんとそんな会話をしたなぁなんて思いながら、色々考えを巡らせる。
月島くんはそんな私の姿にふーと小さく息を吐いて、

「インターハイが終わったら教えてあげるよ」

と、意地悪く笑った。