名前に露骨に避けられて、何日が経っただろうか。
表面上は何てことない顔をしていたはずなのに、やたら山口が心配そうな顔で覗いてくるのが本当に鬱陶しい。
僕が気軽に話しかけられない状況であることをいい事に、日向の奴がやたら馴れ馴れしく喋っているのが、腹が立つ。
気乗りしない遠征も、名前が来るなら、と思っていただけに、さして興味も無くなってしまった。
とは言え、行かないという選択はないので、やってきたけれど。

つまらない。

試合の時はまだいくらかマシだ。
最近はまだ集中できていた。だけど、段々と興味が薄れているのを感じる。
その気持ちに焦っていたのは最初だけだ。今は焦る気持ちすら薄れていっている。

「あれ〜? 随分つまらない顔でプレーするんだねェ?」

適度なアップをした後、汗を拭っていた僕の前に、楽しそうに口角を上げて近づく人影。
音駒の黒尾さんが同じくタオルを片手に寄ってきた。
……こういう飄々とした人は何を考えているかわからない。
日向のようにわかりやすい人間なら、適当に躱せるのに。

「気のせいじゃないですか」
「そうか? 補修が終わってから死に物狂いで遠征に参加するバカもいれば、折角遠征に参加できるのに、そんな顔して練習している小バカもいるんじゃねえ?」
「……」

厭味をこれでもかというほど浴びせられ、とは言え向きになって言い返す気にもなれず、僕は沈黙を貫くことにした。
黒尾さんは小さく息を吐いてすれ違いざま、肩に手をポンと一つ叩いて行った。
その背中を睨みつけながら、僕はタオルを床に落とした。

一日目にしては結構な練習メニューをこなしていたところ。
どれだけ時間が経ったのか、きちんと把握してはいなかった。
身体的な疲労はそこそこ。他の人も息が上がっている。
適度に手を抜いて練習をするか、と思っていたその時だ。

体育館の出入口でざわざわと人の声がした。
皆の視線が入り口に集まった時、扉が乱暴に開かれ、現れたのは息を切らした日向と影山だった。
センスの悪いTシャツの補修後そのままの姿。
どうやってここまでやってきたのかは分からないけれど、そこまでして参加する気力は素直に凄いとは思うけれど。

まあ、僕には大して興味のない事だ。

そう思って、視線を逸らそうとした。
日向と影山の後ろで顔を覗かせた女子を見るまでは。

一瞬で目が釘付けになった。
いるはずがない、幻覚か何かかと考えもした。
幻覚であるならば、何故彼女はすたすたと僕の方に歩いてくるんだろうか。
答えが出るまでに僕の口が勝手に開く。

「……僕と一緒に居たくないんじゃなかった?」

彼女、名前は少しむっと頬を膨らませたけれど、対抗するように僕に向かって言葉を吐く。

「月島くんが、寂しくて泣いちゃうんじゃないかと思って、会いに来た」

一瞬、言葉を失った。
嫌われたと思っていた。
あれだけの事を言われたんだ、もう隣を歩いてくれる事なんて無いと思っていた。

期待していいのだろうか。

不安と挑発が入り混じった瞳を見て、僕は先程までのつまらないと感じていた気持ちが殆ど残っていない事に気が付いた。
日向の事、文句言えないな。

「…バカじゃないの」

僕も案外、単純らしい。


◇◇◇


「あの子、誰?」
「さあ」

待ちに待った烏野の超人コンビがやっと遠征にやってきたと思ったら、その後ろから出てきた見慣れない女子。
研磨に尋ねてみたけれど、勿論研磨も知らなかったらしく首を傾げている。
マネージャーが一人遅れてやってきたのかと思ったけれど、そうじゃないらしい。
何故か烏野の制服のまま体育館へ入ってくると、そのまま足は烏野のツッキーこと月島へ。
そして二三会話をしたかと思ったら、あんなにさっきまで興味の無さそうな顔で練習をしていた奴の顔が、見た事もないくらい穏やかに笑ったのだ。
それを目にしたのは俺だけじゃなかった。
隣の研磨も「へぇ」と驚きの声を上げているし、俺の後ろで飛び跳ねていた木兎まで「お?」と目を丸くしていた。

「何あの顔」
「知らないよ」

あいつ、笑うの?
生まれて初めて笑う所を見た、と驚く俺に対して研磨も同じ反応だ。
あの子。
あの子が現れてから奴の雰囲気が急に変化した。

「あの子、誰?」
「だから、知らないってば」

呆れたような声で研磨が息を吐く。

「さっき俺がちょっかい掛けた時の顔見た? 別人だろ」
「クロの事、嫌いなんだよ」
「……まあ、それはそうとして。じゃあ、あの子の事は好きなんじゃないのか」
「かもね」

嫌われるような事、というか好まれていない事くらいは流石に分かっていたけれど。
だとすれば、あんな顔を見せる相手はつまりは、

「へえ。彼女ねえ」

休憩時間にでもまたちょっかいを掛けに行くか。
そう呟けば、研磨は「やめときなよ」と言ったけれど、俺は答える代わりに楽し気に笑っておいた。