お昼休みに一緒に居てくれるだけでよかったのに、何故かその後の休憩も、晩御飯の時も、何故だかどうして私は月島くんと山口くんの間に座らされて、こっそり移動しようものなら、困った顔の山口くんがついてくるか、めちゃくちゃ怒った顔の月島くんがついてくる羽目になった。
(流石にトイレにはついてこなかった。)
あまりの対応に私以外の人達も何かを感じ取ったらしく、田中先輩なんて「三角関係か? お?」と月島くんに絡みに行き、月島くんはその発言が気に障ったのだろう、ピキピキと額に青筋を数本立てていた。
山口くんは「ツッキーが心配するからね」と言ってくれたけれど、本当だろうか。
合宿最後の休憩中に、全然そんな素振りを見せない月島くんを見つめながら、溜息を吐いていたところ、私と山口くんの前にタオルを首に回していた日向くんが影山くんと一緒にやってきた。
途端に私達の間にお通夜のような重苦しい空気が漂う。
山口くんは慌てて気づいたように「日向、どうしたの?」と普段通り話掛けていたけれど、日向くんはそれを「えっと…」と言って、すぐに息を凝らすように私をじっと見た。
「苗字、この馬鹿と少し話してやってくれないか。調子が戻らなくて迷惑なんだよ」
わざとらしく、チッと舌打ちを零しながら影山くんが言う。
影山くんはこうは言っているけれど、本当は優しい事を知っている。
きっと様子の可笑しい日向くんのために、わざとこんな態度をしているだけなのだ。
だったら、私もそれに応えてあげないといけない。
「うん」
ぎこちなく笑ってそう言うと、隣に居た山口くんが驚いているのが分かった。
慌てて月島くんをコートから呼び戻そうとしていたけれど、それを軽く制止し、私は日向くんと一緒に体育館の外へと出る。
心配そうな顔の山口くんとこれまた複雑そうな顔をした影山くんが、その場に残った。
「……ごめん」
体育館を出た所にあるベンチに座ってすぐに、日向くんは私に向かって頭を下げた。
正直、突然だったので拍子抜けしてしまったことは言うまでもない。
数秒遅れて「気にしないで」とまた引きつった顔で言うと、日向くんの表情が曇った。
「私もムキになっちゃっただけだし。日向くんが言ってた事って嘘じゃないし、ね?」
そう。
あの時、日向くんが言っていた事は、きっと真実だ。
月島くんが私に冷たい態度を取るのも、他の女の子から告白を受けているのも。
だからと言って、私が月島くんを嫌いになる理由にはなりえないんだけれど。
…まあ、胸は痛むかな。
ひらひらと日向くんに手を振って「もう大丈夫」とジェスチャーしてみたけれど、日向くんの表情は一向に晴れない。
すぐには切り替えが出来ないのはそうだと思うけれどね。
「違う、俺、あんな酷い事言うつもりじゃなくて…」
「…うん?」
「ただ、苗字さんが、月島のことどう思っているかを知りたかっただけだったんだ」
「……そ、そっか」
必死にそう言う日向くん。
まさかまたそこをほじくり返されると思っていなかった私は、少しだけ恥ずかしいと思いながらも相槌を打つ。
あれはあれで上手く躱せたと思ったのに、もう一度言われるなんて。
何度も口にするのは嫌なんだけれどな。まるで嘘を口にしているみたいで。
「前も言ったけど、月島くんのこと、嫌いじゃないよ」
そう、まるで呪いみたいに。
好きだけど、それを口にする勇気はまだなくて。
日向くんに誤魔化しているだけじゃない、私自身まだほんの少し、そう思い込もうとしているのかもしれない。
「あ、でも、日向くんや影山くんや山口くんだって、嫌いじゃなくてね、」
「うん、苗字さんはそう言うと思った」
月島くんのことばかり口にしていたら、変に意識していると思われても困るから、
慌てて取ってつけたように付け足すと、日向くんは少しだけ寂しそうに笑う。
その顔を見て、私は途中で言葉を止めてしまった。
……あ、わたし。
今、日向くんに失礼なことをしている。
自分の素直な気持ちを嘘で塗り固めようとしている。
日向くんはいつだって素直に私と向き合ってくれていたのに。
高校で出来た初めてのお友達。私は彼にとても失礼な事をしている。
ズキン、ズキン。
この前とは違った痛みが胸に走る。
すう、と日向くんが大きめに深呼吸をした。
そして、
「俺、月島が苗字さんの事、好きだったら困るから」
だから、苗字さんはどう思っているのか知りたかったんだ。
「苗字さんが怒るのも無理はないって分かる。それだけ酷い事を言った自覚はあるから。でも、ちょっとだけでもいいから、俺の想っていること、考えてほしい」
言葉を失った。
色々聞きたいことはあった。なんで?って。どうして?って。
でも、それよりも、気まずそうにに笑う日向くんを見て、何を言って誤魔化そうかと考えていた自分が恥ずかしい。
「日向くんに言われて本当に腹が立ったの。あのね、」
口が勝手に動くような感覚。
この先を言うつもりなんて、無かったのに。
「私、月島くんのこと、好きみたい」
せめて語尾はまだ不確かで終わらせてほしい。
素直な日向くんに中てられて、慣れないことをしただけなの。
私の言葉の後に、日向くんが「うん」と大きく頷く。
その表情は既に知っていたかのような顔をしていた。
「でもね、日向くんの事も大好きだよ。私とお友達になってくれて、本当に嬉しかったから」
不安げに揺れた瞳に向かって、真剣に伝えた。
日向くんはその瞳を細めて、初めて会った時のような顔で、
「ありがとう」
と言って笑った。
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