01. ああ、またこの夢か


幼い頃から見ていた夢がある。
いつも目が覚めると忘れてしまうのだけど、その夢を見た時に「ああ、またこの夢か」と思えるくらいには覚えている。


夜、おそらく深夜。
辺りは暗闇に包まれている。

あちらこちらに竹が生えている所を見ると、竹林だと思う。
大小様々な竹に囲まれて、その隙間から月夜が私を照らしていた。
私の記憶が正しければ、見覚えなんてない場所。
まあ、夢の中だから別にどうってこともないんだけど。


そこには必ず、


私を庇う様に前に立つ少年がいるのだ。
背中を向けているので、顔はわからない。
けれど特徴的な色の髪がいつも目に留まる。
まるで麦の穂のような金色、そして髪色と同じ羽織を纏っている。
羽織には三角模様が散りばめられていて、珍しい柄だと思う。
勿論、この少年も羽織も見覚えなんてない。

少年の左腰には、もう現代では見ることが出来ない日本刀が携えられており、
カチャリと少年が鍔に手をかけて、うっすら見える刃は不思議な事に金色である。
ファンタジーの世界だなあと、夢を見ながら冷静に考えた。
私は土の上に腰を落としている状態で、何故か立ち上がることが出来ない。
土の上にいる気持ち悪さよりも、目の前の少年の事が気になってあんまり気にならない。

少年は荒い呼吸をしているのだろうか。
後ろから見える肩が上下に揺れている。
よく見ると金色の羽織も所々破けていたり、砂埃が付着していて決して綺麗な装いではない。
怪我をしているのだろうか?


そんな状態でも、何かから私を守るように立っている。


背中しか見えない。
少年の前に何がいるのかわからないけど、少年が身を挺して何かから守ってくれているのだろう。
まるで漫画のヒロインだなと思いながらも、私はそこから動く事が出来ない。
この少年は何で、私のそばにいるんだろうか。

何故だろう。
何となく少年から離れてはいけない気がする。
この夢を見ると、いつもそうだ。


そんな事を考えていたら、急に場面が変化する。


気付くと私は少年に抱きかかえられているのだ。
暗くて少年の顔は見えない。
でも何故か少年が泣いているような空気を感じ取る。
少年の頬に触れたいのに、腕が言うことをきかない。手が上がらない。
ポタポタと私の顔に雫が落ちてくる。
少年の涙だろうか。

これが夢だと分かっていても、少年には泣いて欲しくないと思ってしまう。
ぎゅうっと心臓が抉られる様に痛む。

「ぜん、」

そこで初めて私が声を上げた。

苦しくて言いたい事がはっきり言葉になってくれない。
それでも、どうか。
少年に伝わってほしい。

何をだろう。
夢の中の私は少年に何を伝えたいのだろうか、到底分からない。
ご都合のいい夢だ。


そこでいつも目が覚める。
情けない事にこの夢を見た後は、頬に涙が伝っている。
涙を拭っている間には、先程まで見ていた夢なんて綺麗さっぱり忘れているのだけど。
なんとも言えない余韻だけを残して、私はまた夢の中で少年に会うまですっかり忘れてしまう。


そんな夢をずっと昔から見てきた。



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