涙だけは止まらなかった
ここは、どこだろう。
真っ暗な闇が広がる空間。
私の目には目隠しがされていて、何も見えない。
それだけじゃない。私の手は身体の後ろに回されていて、手首がまとめて紐で括られている。
身動きが取れないとはまさにこのこと。
私の身体は布団のような場所に寝かされていて、床の冷たい感触を味わう事はなかった。
意識を失う前、私は何をしていた?
任務に出た覚えはないが、鬼の仕業だろうか?
鬼の仕業なら、何故私は今生きている?
色々な疑問が頭に浮かぶが、冷静な判断を取れているかどうか怪しい。
犯人が分からない以上、無駄に身じろいで体力を消耗することは望ましくない。
どうすればいいの。
「起きたか」
精神が絶望で犯されている中、突然自分以外の声が近くで聞こえて、私はビクリと身体を揺らす。
反射的に顔を上げて「誰!?」と声を上げて、無理やり身体を後ろへ後退した。
ずりずりと身体を捩る私に声の主がゆっくり近づいてくる。
こわい。誰か、誰か。
隊士であるというのに、私の能力はそこまで強くはない。
弱い自信はないが、それでも一人としての能力は大したことはないのだ。
情けないことは分かってる、でも、それでも、こんな時に頭に浮かぶのは、
「名前」
身体が芯から冷えるとは、このことか。
私の名を呼ぶ声が、誰か分かってしまった。
まさか、そんな。
嘘だ、だって。
「れ、煉獄さん…?」
私の声は情けなく震えていた。
そんな私の肩に優しく触れる、大きくて暖かい手。
大好きな、大好きな、手だった。
「可哀想に、そんなに震えて。心配しなくてもいい、これからはずっと一緒だ」
「……一緒?」
本当に私を安心させようとするような優しい声色だった。
だけど、何故だろう。心臓がキリキリと痛む。
心配しなくてもいい、と言うが、彼は私の拘束を解こうとしない。
何故…? どうして?
「ああ、愛しいな、君は」
私の肩から、首筋を撫でる手。
大好きだったのに、それなのに、恐怖を感じざるを得ない。
うっとりと色を含んだ声。
そんな声、聞いたことない。だって、私と煉獄さんはそんな仲ではないからだ。
恋人なんて遥か遠い。継子でもなんでもない。
同じ鬼殺隊としての、ただそれだけの存在だった。
なにに、これは何だ?
名前を呼ばれた事だってないのに、こんな風に触れられたことすらないのに。
何故、私は煉獄さんに触られている?
何故、愛おしそうに名を呼ばれている?
「煉獄、さん? あの、離してください」
「君は、本当に可愛らしい女性だ。前から良く分かってはいたが、こんなにも俺の気持ちを独占してしまうなんて」
変だ。
会話が成立しない。
もしかして鬼の術にかかってしまったのかと思うくらい、普段の柱としての煉獄さんとは別人だ。
私が何も言えなくなっている事を良い事に、煉獄さんの喉がごくりと鳴った。
「だが、それを分かっているのは俺だけで十分だ」
耳に囁くように言われた言葉に、赤らめるどころか寒気がする。
恐怖が増幅したのが分かった。
「君が良く相手にしている同期の少年。とても親しいんだな」
「…え、ええ…同期ですから」
「ただの同期にしては、距離が近すぎるとは思わなかったか?」
「そ、そんな…」
言われて思い出した。
私が意識を失う前。任務帰りに同期の男の事を会ったことを。
彼とはとても仲が良いというわけではなかったが、命のやり取りをする中で、同期が生き残っている事が嬉しくて、顔を見るといつも声を掛けていた。
でも特別な相手などでは決してなかった。
「それを目にした時、どうしても気持ちに逆らえなくなった。名前の所為だな、俺をこんなにしてしまうんだ」
ゾクリと身体が震える。
意味が分からない。
だって、私と煉獄さんの繋がりなんて今の今まで無かった。
まともに話したのだって、今日この時が初めてだ。
どうして、何で。
「ここには俺と君しかいない。ずっとここで暮らすんだ。君は、もう俺から逃げられない」
寝かされていた私の身体がゆっくり抱きかかえられる。
顔に煉獄さんの髪が掛かった。
身動きの取れない私を愛おしげに抱く、煉獄さん。
そんな事、一つも望んでいない。だって私は、ただ、煉獄さんのような柱になりたかった。
柱になって、煉獄さんの傍にいられるような人間になりたかっただけなのに。
「私は、」
「君の意思は関係ないんだ。君が誰かを想っていたとしても、もうすべてが無駄だ」
「れんごく、さん」
「手荒い俺を許してくれ。俺は、君の目に他の男が映るのが許せない」
どうせなら、その綺麗な瞳も瓶に詰めて俺だけしか見れないようにしてしまおうか。
小さな声で呟かれた言葉。
恐ろしい言葉でしかないそれに抵抗するよう身体を捩ったところで、大きな体が私を包む。
嫌だ、離して。
「ああ、愛しい名前。君を今から俺のものにする」
抱きかかえられた身体がまた、布団の上に降りた。
逃げようと試みたが、あっさり退路を断たれてしまう。
私の身体の上に乗る大きな身体。
震えと同時に私は自分の目隠しが濡れていることに気づいた。
布が涙を吸って冷たい。
誰がこんなことを望んだのだろうか。
神さま、お願い誰か。
涙だけは止まらなかった
私の大好きだった煉獄さんは、もういない。
あとがき
わらびさま、リクエストありがとうございました〜!
ヤンデレな煉獄ってこんな感じですかね。
何故かヒロインちゃんを監禁してしまう危ない奴ですが、嫌いではないデスキリッ
続きが書きたくなる話…どこかで是非書きたいですね(*´ω`)
こんな感じでよければ、お収めくださいませー!
この度はありがとうございました!
お題元「確かに恋だった」さま