あなたの仕草ひとつで

言わなくても分かることってあると思う。
機嫌が悪くなって、二人の間の空気まで悪くなるくらいなら、言わなければいいってよく分かっている。
でもそれでも望んでしまうのは、やっぱり世のカップルみたいにしてみたいっていう少しの憧れ。
そんな事、蛍に言ったら鼻で笑われて「くだらない」なんて言われるのがオチだ。
そして、グチグチと人を小馬鹿にしたような発言をその後もされて、結局私の機嫌が悪くなって。
どうせ喧嘩することが目に見えている。

「何」
「え?」

いつもの帰り道。
蛍のバレーが終わるまで横で待っていて。
着替え終わった蛍と一緒に校門を出た。

付き合い始めたのは三か月前。
友達だった期間は長く、所謂幼馴染という奴。まさかのあの蛍に告白されて今がある。
でも告白されたと言っても、蛍に「名前みたいなのに付き合えるのは、僕くらいだ」と言われただけで。
付き合っている、と言われても仕方なしに、という空気でカップルになったのだ。
確かに蛍の言う通りだ。
私には蛍が居てくれないと、朝だって寝坊しがちだし、忘れ物だってするし、普段からボケていると言われる始末だ。
それとは逆に蛍は私じゃなくても、他の女の子が相手でもいいわけだけども。
そんな事を考えると、長年の片思いにちくちくとした痛みが走るから、考えない様にしていた。
少なくとも、蛍から好きで好きでたまらない、という好意は感じ取れない。

「だから、さっきから何」
「何って、何が?」

隣を歩く不機嫌そうな蛍が呟く。
眉間に僅かに皺が寄っているまま、ずり落ちたメガネをクイっと指で上げている。
……一緒に帰ってるのに手さえ繋がない私達は、どっからどう見てもカップルには見えないんだろうなぁ。

「口数。いつもより少ない」
「…え、そう? 気にしたことなかったけど」

蛍に指摘されて私は自身の首を傾げた。
いつも蛍と帰るときは、確かに無言になるのが嫌で、私から口を開いていた気がしたけど、蛍が鬱陶しそうにしているからそれでもあまり話していなかったような。
蛍はこくりと頷いて「何かあったの?」と尋ねてくる。
何かあった、と言われても何もないのが事実。
何と答えようかなんて考えていたら、蛍が溜息を吐いて自身のカバンからごそごそと何かを取り出した。

「はい」

ぽんと、私の掌の上に乗る小袋。
訳が分からず頭の上に沢山の疑問符を並べて中身を開けると、中からは小さなクマのマスコットキーホルダーが出てきた。
クマの首にはピンクのリボンがしてあって、真ん中には小さな石が埋め込まれている。
パチパチと瞬きを何度も繰り返して、キーホルダーをぶら下げた。

「何、これ」
「キーホルダー」
「……え?」
「そう言うの好きデショ、名前」

思わず蛍の顔を凝視してしまった。
うん、とても好きだ。
長年一緒に居たから私の気持ち等、口にしなくても分かっているのが凄く悔しいけど、それでも驚かないわけではない。

「何で分かったの…?」
「ここ数日、道歩くカップルを睨みつけてた癖に」
「そ、そんなことしてない!」
「してる」

その時気づいた。
蛍のカバンにも同じものがぶら下がっている事に。
蛍のクマは青いリボンだったけど、真ん中の石は同じ物っぽい。
お揃い。

燃えるような恋をしてカップルに至ったわけじゃないけど、カップルになったのならお揃いのグッズが欲しかった。
周りのカップルがお揃いのものを身に着けているのを見て、羨ましいとずっと感じていた。
だけどそれを蛍に言うと馬鹿にされると思っていた。
雰囲気を悪くするつもりはなかった。
だから、言わなかったのに。
蛍はそんな私の様子に気づいていたらしい。

「蛍が買ったの?」
「僕以外に誰が買うの」
「この可愛いクマちゃんを、蛍が?」
「うるさい」

要らないなら返して。
そう言われて手が伸びてきた。
だけど私はその手からクマちゃんを華麗に逃がして、代わりに自分の手で蛍の手を掴んだ。

ぎゅっと力を込めて。

「蛍って、私の事なんでも知ってるんだね」

恥ずかしくて、可愛くない一言が出てしまった。
蛍は手を振り払う事もせず、更に強く力を込めてきて。

「当たり前。僕の彼女なんだから」

と、これまた恥ずかしいと思えないのか不思議な言葉を発する。
こんな可愛いクマちゃんを店頭で、どんな顔で購入したのか想像するだけでも楽しいけど。
購入する時も、した後も、私の事を考えてくれていた事が本当に嬉しい。
ずっと蛍は私の事、仕方なしに付き合ってくれていると思っていたから。

「ありがとう、蛍。一生大事にするね」
「大げさすぎるでしょ」

蛍のカバンについているクマちゃんに、私のクマちゃんがちゅ、とキスをする。
それを見て蛍が顔を逸らしたと思ったら、急に私の腰を寄せて、視界一杯に蛍の顔が近づいてきた。
瞼を閉じる余裕なんて、一つもなかった。


「勝手に外したら許さないから」


ぺろり、と自分の唇を舌で舐めて。
今まで見たことが無いくらいカッコいい蛍の様子を目に、私はその場で卒倒しそうになった。



あなたの仕草ひとつで



こんなにも幸せになれるなんて。







あとがき
カオリさま、リクエストありがとうございましたー!
ツッキーとお揃いのもの、何にしようかなーとずっと考えてて。
夢にまで出てきましたが、良いのが思い浮かばず…。
結局、あのツッキーが可愛い物をお店で買うという事実が書きたくて、こんな感じに。
すみません…自分の性癖ぶっ刺さっる始末。
こんなものでよければお収め下さい〜!

お題元「確かに恋だった」さま
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