きっと最初から決まっていた
兄弟のように過ごしてきた幼馴染が、今度バレーの試合に出ると言うから、ただの暇つぶしもかねて応援をしに行っただけ。
中学の時のバレー部では試合は一回だけ、しかもすぐに敗れて悔しくて見ていられなかったけど、高校に入ってからは、とても生き生きとした幼馴染を見ていたら、応援する方にも力が籠ってくる。
烏野のバレーの人達とも、もう顔なじみかというくらい仲が良くなったので、勿論みんな頑張って欲しい。
だけども、あまりに応援に力が入りすぎて、少し熱っぽくなった。
周りの熱気の所為もあるのだろうけれど、流石に頭を冷やすため、応援席から飛び出し、ロビーのベンチで休もうと思っていた。
ただそれだけ。
ドン。
前を見て歩いていなかったことは認める。
さっきの試合の翔陽を思い出したら、まるで母親が子供の成長に感動するように、感極まってしまったのだ。
涙を拭っていたところ、私の顔面は華麗に目の前から歩いてきたと思われる肉壁にぶつかってしまった。
きっとお互いが気づかなかった。
目の前に居たのは大男が二人。
ぶつかった本人はなんともこわい形相をしていたけど、烏野の東峰先輩を見ていたらそんなのこわくもない。
だから、さっさと謝っておわり。
そう思っていたのに、なのに。
ぶつかった本人はさっさと私を避けてくれた。問題はその隣にいた男である。
いつまでも私の前から動かないし、私は私でアクションが無いから、ポカンと目の前の肉壁をじーっと見つめた。
翔陽とは比べ物にならないくらい背の高い肉壁は、口を半開きにして驚いた顔をしていた。
ぶつかったくらいでそんなに驚かれても。
「…あの、よそ見しててすみません」
相手が何も言わないから、思い出したように私はぶつかったことを謝った。
ぶつかった人は怖い顔でこくりと頷いてくれた。
なんだ、見た目ほど悪い人でもなさそう。
さて、隣の男と言えば。
顔はまあ、イケメンの部類。二人とも見た所、伊達工のユニフォームっぽい。
伊達工って結構、ガラの悪そうな人たちばかりだったなぁ、とか頭の中で思い出すも、その間、目の前のこの人は全く反応せず。
相変わらずポカンとしたまま。
私の謝罪すら耳に入っていないみたいだ。
「もういいですか?」
いつまでもその壁みたいな身体が目絵の前のあっては、私もどけない。
だから了承を得て、横をすり抜けようとした。
すれ違う瞬間まで、この人は全く動く気配を見せなかった。
それなのに、いざ通り過ぎようとした瞬間、私の細腕をとんでもない力で掴む手が一つ。
「うっ?」
いきなり掴まれたので、身体が一瞬でバイーンと後ろへ仰け反った。
倒れることがなかったのは、腕を掴んでいた本人が軽く私の肩を支えてくれていたからだ。
突然の出来事に何が起こったのか、その瞬間は理解が出来なくて、頭にはてなマークを散りばめながら、ただただ掴まれた腕を凝視した。
「……なんですか」
伊達工に知り合いなんているはずもない。
勿論、この腕を掴んでくる栗色の頭の人も知らない。
のにもかかわらず、腕を掴まれるということは、それだけぶつかったことが気分を害したということなのだろうか。
とは言え、こちらは素直に謝ったじゃないか。
なんでなんで、と混乱しつつも怪訝そうな顔でその人を見るしかなかった。
「名前、なんつーの?」
初めて聞いた声は、怒りを含んだものでも、申し訳なさそうなそれでもなかった。
「は?」と私が答えるよりも先に、その人はさらに口を開く。
「どこの子? その制服は烏野? なあ、連絡先交換しねぇ?」
「……あの、なんですか?」
矢継ぎ早に繰り広げられる質問。
流石に私もこれは、ぶつかっていることを怒ってるわけじゃないと気づいた。
だけどもまさかバレーの試合会場でナンパをしてくる輩がいるわけがないと思っていたから、混乱が続く。
そんな私をよそに男は平然とまた喋り始めた。
「こいつの顔見ても怖くないか?」
思い出したようにぶつかった本人を指さしながら、男は尋ねる。
なんとも失礼な人だな、と考えるも私は反射的に首を縦に振る。
その様子にやはり驚いた顔を見せた男は、その後もしつこく私の連絡先を聞こうとしてきた。
その場に翔陽が現れなかったら、きっと私は試合が終わるまでその場から動けなかったに違いない。
◇◇◇
『今度、遊びに行こうぜ』
スマホに一件。
たったそれだけのメッセージを眺めて私は溜息を吐いた。
何故だ。おかしい。
あの時私は断ったはずだった。だけど、奴はその後も試合会場で顔を合わせると必ず私に付きまとい、自分の要求が通るまでずっと私の傍を離れなかった。
だからしぶしぶ連絡先を教える事になってしまったのだけど、それからというもの、毎日のようにこんなメッセージが届いて仕方ない。
最初は「無理です」「やめてください」「忙しいです」と拒否三段階を送り付けていたけれど、それでもめげる事はないのか、永遠この調子。
「……マジでどうしよう」
人からこんなに誘われた事がないから、どうしていいのかわからない、というのが正直なところ。
授業を終えて、さっさと自分の靴を履き替えて、カバンを持ち直した。
スマホ画面をいつまでも見つめていたら、溜息しか出ない。
困ったな、どうしようか、本当に。
「なあ」
身体が硬直するとはまさにこのこと。
校門を出てすぐに背後から声が聞こえて、反射的に振り返れば、そこにはカバンを背中に背負った他校の制服。
しかも伊達工。髪は栗色。背は壁のように高い。
「何で…」
何でここにいるんだ。
驚きすぎて最後まで声が続かなかった。
だけど、ずっと待っていたのだろうか、校門の壁に背中を預けていたその人(二口さんというらしい)は、少し恥ずかしそうに顔を逸らしたけど、トコトコと私に近寄ってくる。
何を言われるんだ、と身構えた私にぼそりと呟く小さな声。
「返事…返せよ」
ドキン。
あれ?
よく見ると顔はほんのり色づいていて。
恥ずかしそうに唇も若干尖っている。
きっとここにいる間も沢山の生徒が彼を見て、不思議に思っていた事だろう。
そんな恥ずかしい思いをして待っていた理由は、私の連絡待ちだった、ということ?
心臓に衝撃が走る。
あれ、やっぱりおかしい。
さっきから、なんか少しだけ、ときめいちゃってる気がしなくもない。
こんな経験ないから、わからないけど。
ただ、目の前のこの人のこと、もう少しだけ知れたらいいな、なんて何となく考えてしまうくらい、心境が変化したことは事実だった。
きっと最初から決まっていた。
彼女がその事に気づいたのは、彼に押し切られて付き合うようになってからだった。
あとがき
利央さま、リクエストありがとうございましたー!
もっと!!!! もっと書きたかった!!!!!!!
ねえええええ!!! これの二口視点書きたかった!!!!!!!!(迫真)
これ絶対続き書くううう。絶対書く…。(遺言)
ということで、続き、書くと思います。
こんなのでよければお収め下さいませ。
この度はありがとうございましたー!