五条先生が私で、私が五条先生で
最初の違和感は、視界の高さだった。
倒れていた床から身体を起こして、周りを見回した時の視界の高さ。
あれ、こんなに私身長高かったっけ。
なんて思うくらい、違和感が凄まじい。
しかも何だかいつもより身体が軽い気がする。
どっこいしょ、と身体を起こしていたのに、すくっと起きた身体を見てやっぱりおかしいと思う。
そうして床に転がるもう一つの身体を見て、完全に絶句した。
「…っ、え?」
思わず出た声を聞いて、また血の気が引いていく。
恐る恐る倒れる身体を手で軽く押してみるも、人形とかマネキンとかそんなものではない。
ちゃんとした人間、そしてそれは私自身。
「お、男!?」
はっとなって反射的に自分の胸板に手を伸ばした。
いつもある感触が、悲しいかなただの板に。
……そりゃ、女の子の時でも大きかったかと言われれば、そうじゃないけど、それでもあったはずのものが完全にまな板になっていたのだ。
そして、混乱するまま股間に視線をやるが、流石に触れることは出来なかった。
私の想像が正しければ、これは…。
「…うっ…」
床に転がる私の身体がうめき声をあげる。
まるでおばけを目の前にしたような顔で私は、“私”が起き上がるのを黙って見ていた。
ブツブツと何かを口走りながら“私”は上半身を起こし、そして私と目が合った。
一瞬ポカンとした自分の顔を初めて見て、私ってこんなに間抜けな顔をしているんだと少しショックを受けた。
そして、“私”はじろじろと私を上から下まで眺めると、こくりと頷き。
黙って両手で“私”の胸を勢いよく揉み始めた。
「いやぁー!! やめてぇー!!」
いやぁー!と叫ぶ野太い声に怯むことなく、“私”は満足気に揉みしだいていく。
それを無理やり男の手で抑え込み、やっと動きを止めたところで”私”は「ちっ」と舌打ちを零した。
「折角女の子の身体になったんだよ? 醍醐味でしょ?」
「醍醐味とか知りません! 私の身体で遊ばないで、五条先生!」
五条先生、と呼ばれた”私”の身体はふう、と諦めたように溜息を吐いて、じろりと私を睨みつけた。
そう、私と五条先生はどうやら身体が入れ替わってしまったらしい。
二人で任務に出ていたのだけれど、原因は倒した呪霊の能力だろうと予想された。
五条先生が最後どころか一撃を加えた瞬間に全てが終わりを迎え、そして、いつの間にか二人揃って倒れていた。
五条先生曰く「そんなに心配しなくてもすぐに元に戻るでしょ。硝子に見て貰えば確実だと思うけど」と言うので、二人で伊地知さんの車へ戻った。
伊地知さんは帰りの車の中で必死に「早く元に戻ればいいですね」と言っていた。
「このままでは苗字さんが可哀想です」
「ありがとうございます、伊地知さん」
私の心情を察してくれる良い人だ、伊地知さん。
「結構締め付けられるね、ブラって」
ニコニコしながら車内で話す事じゃないんですが。
誰かこの変態の口を塞いでください。
◇◇◇
高専に戻ってすぐに家入さんのところを尋ねると、予想されたように「すぐ戻る」との事。
だから、医務室で二人並んで大人しくしとけ、ということだった。
(この状態じゃ任務に行けないし)
忙しい家入さんが出て行き、取り残された五条先生と私。
未だに私が目の前にいるという状況に慣れることはないけど、五条先生は楽しそうに私の手やらなにやらをぷにぷにと触り続けている。
見ているこっちはとても不快であることは間違いない。
「何してるんですか」
「女の子ってどこ触っても柔らかいねぇ〜。あ、僕の身体も好きに触ってくれていいよ」
「触りません!」
やめろと言っても「胸を触ってるわけじゃないでしょ」と言われて、とても腹立たしい。
そう言う問題じゃないんだ。
「それに、恋人の身体をどう触ろうと別に問題ないじゃない」
「……く、」
そう。
私と五条先生は恋人同士だ。
他人に触れられるよりはいいかもしれないけど、それでも嫌なものは嫌なのだ。
だから首をぶんぶん横に振って拒否した。
すると五条先生は「ふうん」と言って、私の隣の椅子に腰かけた。
「ちょっと名前、僕のこと抱きしめてくれる?」
「は?」
「…いや、このちっさい身体が新鮮で、抱きしめられるっていう感触を味わいたいなって」
「……あー…」
五条先生の言っている事は何となくわかる気がする。
確かにいつも五条さんにすっぽり抱きしめられるくらい私の身体はちいっさいから、そう言う意味では私も気になったりする。
案外、な顔をしている私を見て五条先生が手を広げる。
「ほら、僕を抱きしめてよ」
「……なんか、恥ずかしいです」
「僕から見たら、図体のでかい僕の身体がモジモジ恥ずかしがってて気持ち悪いね」
「そう言われると、私だって同じ気持ちですけど」
どうせ今だけだよ、とぽつり呟く五条先生。
私は恐る恐る五条先生の身体(私の)の背中に腕を回した。
想像以上に小さな身体を実感して、驚いてしまう。
「こ、こんなにちっさいんですか、私」
「そうだよ」
五条先生の景色。
絶対に見る事がない自分の身体の背中を見つつ、私は少しだけ力を込めて抱きしめる。
「あまり強くしないでね。痛いから」
「力加減が分かりません」
「でしょ。僕だっていつもそうだよ」
まるで潰れてしまいそうな。
私の手付きが慣れないばかりに、五条先生はくすくすと胸の中で笑う。
不思議な光景だ。
抱きしめているのは自分の身体なのに、それでも五条先生だと思ってしまう。
「ねえ、名前」
ふと自分の声で名前を呼ばれて。
胸の中にいる五条先生を見ると、すっと細い腕が伸びてきた。
そして首筋に回り、ぐいっと無理やり頭が下げられる。
ぶちゅ、と少し不細工な口づけが唇を掠め、すぐに離れた。
「あれ?」
何するんですか、と慌てて胸に収まる五条先生を跳ねのけようとした。
が、そこで気が付いた。
いつの間にか自分の視点が変わっている事に。
「…えー…もっと遊びたかったのに」
頭の上から聞こえる、いつもの五条先生の声。
身動きの取れない私の身体は、すっぽり五条先生の腕に中に納まっていた。
「戻り、ました?」
「だね」
「はー…良かったぁ」
「本気で言わないでくれる? ちょっと悲しいよ」
「だって、困ります」
「まあ、僕もね」
何がきっかけなのか分からないけど、私達は元の身体に戻っていた。
久しぶりの自分の身体にやっぱり安堵してしまう。
五条先生の身体は身長は高いし、力強いし、凄いけど。
でもやっぱり。
「五条先生の腕の中にいる方が安心する」
無意識にその胸板に頬を寄せると、言葉を失った五条先生がそこにいた。
「君は、突然可愛らしい事を言うから、男としてはとても不安だよ」
そう言いつつも、ぎゅっと抱きしめてくれるその腕に、瞼を閉じて抱きしめ返した。
あとがき
モモさま、リクエストありがとうございましたー!
素敵ご都合入れ替わり!!!
昔々読んだ「おれがあいつで、あいつが俺で」と「転校生(映画)」を思い出しました〜。
入れ替わってもイチャイチャするのも忘れません。
こんな感じでよければ、お収めくださいませー!
モモさま、この度はありがとうございました!