01. これからも


「名前さんのお腹の傷、治ってきましたね」


私の替えの服を持ってきてくれたなほちゃん、きよちゃん、すみちゃんがニコニコと私に言う。
ホントにそう思う。あの筋肉三馬鹿に比べると治りが遅くてベッドの上でどれだけ暇な時間を過ごしただろう。
暇なときは色んな人が見舞いに来てくれたけど、それぞれお仕事があるので無理しないで、と言ったら、炭治郎さんが禰豆子ちゃんの箱だけ横に置いていってくれた。
夕方以降になると禰豆子ちゃんが起きてくれるので、おかげで楽しく過ごすことが出来た。

昼間の暇な時間に作った禰豆子ちゃんのシュシュと渡すと、最初は何か分かってなかったみたいでぽかんとしていたけど、試しにサイドで髪を纏めて上げたら喜ばし気に目を細めていた。
喜んでくれたみたいで、良かった。
禰豆子ちゃんのシュシュは赤い市松模様のものにした。
帯の柄と同じ。禰豆子ちゃんにとても良く似合っている。

大切そうにシュシュを木箱の中へ仕舞ってくれて、私は大満足だった。

ちなみに善逸さんはそんな禰豆子ちゃんの姿を見て「可愛すぎる!!」と顔真っ赤にしていたので、後で締めた。
そりゃ可愛いけどね、可愛いけどさ。

そんな風に過ごしていたら、脇腹の傷が結構塞がってきた。
しのぶさんに縫ってもらったので、暫くしてから抜糸をしたんだけど、その時も「だいぶ良くなってますね」とのお言葉を頂いた。


「名前さん、こちらの洋服はどうされますか?」

なほちゃんが私のセーラー服を綺麗に畳みながら尋ねた。
ベッドメイキングしていた手を止めて、私はセーラー服を手に取る。

鬼と対峙した時にボロボロに破けた上、私の出血の跡がそのままである。
洗ったり、縫ったりしてどうにかなる代物でもない。
少しだけ「うーん」と考えてから私は「捨てよっかな」と答えた。

「え?捨てちゃうんですか!?」

三人が合わせて声を上げた。
そんなに驚かれる事だったんだろうか。
若干吃驚しつつ「うん」と頷いた。

「もう着れないし、それに持ってても仕方ないしね」
「そうですか…」

残念そうに三人は言った。
私も捨てたくは無いけど、持っててどうにかなるものでもないし。
現代に帰ることもない。
セーラー服は役目を終えたのだ。

「あと、年齢的にも着るのは辛いんだよね」

もう17歳になろうかという年頃。
いつまでも中学生の制服を着れる事の方が問題だ。
この時代ではあまり違和感がないかもしれないけど、私にとって悲しい現実である。
でも、少しは成長してるもん。

「それに実家からお着物も頂いてるんだ。すっごく可愛いの」
「今度着た時に是非、見せてくださいね」

実家というのは旦那様のお屋敷の事。
藤乃さんが私の朽ち果てた羽織を見て、卒倒してしまったらしい。
本当に申し訳ない。

そして、新しい羽織と共に適当な着物も送って下さったのだ。
セーラー服の方が動きやすかったけど、いつまでも着物に慣れないわけにはいかない。
着物を着た状態で走る練習もしないと。


「名前さんは、炭治郎さん達と一緒に任務に行かれるのですか?」


言い辛そうにきよちゃんが尋ねる。
ぱちぱちと瞼を数回閉じて「そのつもりだけど」と続けた。

「こちらに残られるというお話は、どうされたんですか?」
「えーっと、取りあえずは保留で。今は三人に付いていくつもり」

三人、と言いつつ付いていくのは一人に対してなんだけどね。
二人は二人で別の任務に就くこともあるだろうし。
迷惑だとは思うけど、諦めてもらうしかない。
私は残るつもりは毛頭ない。

「無理なさらないで下さいね」
「うん、大丈夫。きっと守ってくれるから」

三人ににこっと微笑んで私は窓の外を見た。
屋敷の塀の上を全力疾走している金髪に目をやると、それに気付いた金髪がこちらを見た。
そしてこちらに何か言おうとして、そのまま塀から落下した。
守ってくれるかな?大丈夫かな?

外の光景にため息を漏らして、私はベッドメイキングを終えたのだった。




―――――――――――――――


「週明けには立つんですか」


夕餉を頂いた後、善逸さん達の部屋でまったりと過ごしていた時だった。
炭治郎さんから諸事情により炎柱の煉獄さんに用事があるらしく、週明けには蝶屋敷を出るとお話があった。
思っていたよりも、早かったな。
いや、でも本来ならもっと早く出ていた筈だよね。
私がケガしたからここまで残ってくれていたんだし。

「ずっとここに居たいよ。別に外出る必要ないじゃん、はあ」

善逸さんが暗いため息を落とす。
炭治郎さんが「こら」と窘めた。

「私も準備しないとですね。週明けまで忙しいなぁ」
「準備って、名前、どこかへ行くのか?」

不思議そうに炭治郎さんが首を傾げた。

「あれ、言ってませんでしたっけ?私も付いていきますよ」
「えぇ!?大丈夫なのか、善逸!」
「ほらね、だから俺は言ったんだよ。炭治郎は引き留めるよって」

私の言葉に吃驚した炭治郎さんが善逸さんに慌てて確認した。
呆れかえった声で善逸さんがそれに答える。
そう言われても仕方ないじゃないか。

「ご迷惑にならないようにしますから」

お願いします、と可愛らしく両手を合わせて炭治郎さんにお願いしてみた。
凄く困った顔で炭治郎さんは「うーん」と言ったけど、伊之助さんが「いいんじゃねェか」と珍しく同意してくれた。

「伊之助さん、有難うございます。何かあったら守ってください」
「はぁ!?自分の身くらい自分で守れよザコがァ!」
「冗談ですって」

まあ、半分冗談。
きっとこの三人は優しいから何だかんだ守ってくれそうだ。
なるべく邪魔にならないようにしておこう。
戦闘は避けよう。うん。

「きっと善逸さんが守ってくれますから」

ね?と横にいる善逸さんに尋ねると、唇を尖らせて「はいはい」と軽く返ってきた。
少しだけ顔が赤いのは気のせいではないだろう。

これからも、よろしくお願いしますよ。



< >

<トップページへ>