神様は笑っている


今日も何事もなく授業が終わろうとしていた。
煉獄先生の授業は楽しいけど、終わった後に何だか疲れるんだよね、精神的に。
それでなくとも憂鬱な気分ではあるのに。

ちらりと教室の入り口でたむろしている男女に目をやる。
我妻先輩は毎度の休憩時間の度に、うちのクラスの禰豆子ちゃんに会いに来る。
ある時は花をもって、またある時はスイーツと共に。
禰豆子ちゃんはそれを嫌がらずにいつも有難く受け取り、談笑している。
見つめる横顔はとても楽しそうで、二人の仲を邪魔するわけにはいかない気持ちになる。

誰にも言えないけど、ね。

さっさと帰る準備しちゃお。
目の前の光景をいつまでも見ていたら、私の気が沈んで行ってしまう。
今日は何の予定もないから、図書室でも寄ろう。
そう決めて、自分のカバンを引っ掴むと私は後ろのドアから教室を出た。




「…はぁ…」


今日は金曜日だ。
金曜の図書室はいつも人が少ない。
お蔭で私は一人本を眺める事が出来るんだけど、どうしてもさっきの光景が頭を離れない。
目ぼしい本を見つけようにも全然集中できないし。
深いため息が漏れ出てしまう始末だ。

「…あ、れ?」

本を探してウロウロしていたら、いつの間にか恋愛書籍の並ぶコーナーにいた。
いやいや、私は歴史書を見ていた筈だ。
ここまで心情に振り回されるなんて私は一体どうなっているんだ。

見ているだけで良かった。
友達として、一緒に居るだけで。
一生口にはできない思いを持っていても、一生の友達として付き合っていけるならそれでいいと思っていた。
だけど欲深い私はどんどん仲良くなる度に、もっともっとと欲求があふれ出してくる。
彼女は学園の中でも美人の部類で、狙っている男は我妻先輩だけではない。
まして女の私何てきっと眼中にないだろう。

「諦めた方が、無難かな…」

ポツリと呟いた言葉が重く圧し掛かる。
そんなの分かっている。
簡単に諦められるなら、ここまで悩んでいない。
棚に置かれた「次の恋の準備10項目」というタイトルの本を手に取った。
こんなものが参考になるかどうか分からないけど、今の私には必要かもしれない。

読み進める気はあんまりないけど、それを持って適当な机に座った。
興味無さげにペラペラとめくってみたけど、頭にどれも入ってこない。
これは先が長そうだ。





案外中身はさっぱりしていた。
やっぱり頭に入らなかったので、私は早々に諦めてぱたんと本を閉じた。
こんなものに縋りつくのが間違っているのだ。
覚悟を決めて諦める努力をしなければ。
はあ、と今日何度目かのため息を吐いて顔を上げたその時だった。

「…終わった?」

私の向かいに座っていたのは禰豆子ちゃんだった。
思いがけない人の登場に私は思わずフリーズしてしまう。
え、え、え?
なんで?


「前に座っても全然気づかないんだもん。名前ちゃんは本が好きなんだね」


天使のような笑みでそう言う禰豆子ちゃん。
本は好きだけど、この本は好きではない。
全く集中できなかったけど、前に禰豆子ちゃんが座った事すら気付かないなんて。
やっぱり私疲れてるんだな。


「禰豆子ちゃん、我妻先輩と帰ったんじゃ…?」


先程の光景が頭を過る。
いつもならば、我妻先輩とお兄ちゃんの炭治郎先輩、あと嘴平先輩と四人で帰ってるはず。
何で図書室にいるんだろう?



「今日は名前ちゃんと一緒に居たいって思って」



少し恥ずかしそうに目を伏せながらそう言われて、私は胸がドクンと跳ねた。
友達にそんな事言ってくれるのは嬉しいんだけど、私にはやめてほしいかな。
期待してしまうから。
胸の中広がる嬉しい気持ちと切ない気持ち。


「……禰豆子ちゃんは、さ。我妻先輩が好きなの?」


気が付いたらそんな事を口に出していた。
自分でもびっくりしている。
勿論、禰豆子ちゃんも。
暫く二人の間に何とも言えない時間が流れた。

禰豆子ちゃんはよくわからない顔で首を振った。


「違うよ。なんでそう思うの?」


とても優しい笑みだったけど、悲しそうに見えた。
窓から入る夕日が反射して余計にそういう風に見えるのかもしれない。
禰豆子ちゃんが否定してくれた事で私の胸は再度ときめいたけど、逆に聞き返されて困った。
何て言おう?


「…だ、だっていつも一緒だから…」
「名前ちゃんともいつも一緒にいるよ?」
「で、でも…なんか楽しそうだったし…」


苦し紛れに言葉を並べてみたけど、禰豆子ちゃんは首を傾げて言葉を紡いでいく。
嘘を言ってもどうしようもない事はわかってる。
でも私の想いを伝えるわけにはいかないから、どう説明していいかわからない。

私が困っているのがわかったのか、禰豆子ちゃんはゆっくりと手を伸ばしてきた。
そしてその手が私の頭を撫でる。


「名前ちゃん、私と一緒にいても楽しくない?」


苦しそうな笑みだった。
禰豆子ちゃんにそんな顔をさせるくらいなら、私は…


「そんな事ない。禰豆子ちゃんと一緒にいると胸がドキドキして、破裂しそうで…でも一緒に居たい、よ?」


頭にある手をぎゅっと掴んで祈るように声にした。
これで嫌われても軽蔑されてもいい。
だって、その方がすっきりするじゃない。
今までの悶々としていた私とはオサラバしたい。

禰豆子ちゃんが息を飲むのがわかった。
そして、目を見開いて私に問う。

「ほんとう?」

コクリと頷くしかできない私。
よくよく考えれば大胆発言だ。
次第に頬に熱を帯びていく。

禰豆子ちゃんの顔、見れないよ…。



「ねえ、名前ちゃん、こっちを見て」



禰豆子ちゃんにそう言われたら顔を上げるしかない。
おずおずと顔を上げると、そこには顔を赤らめて笑っている禰豆子ちゃんがいた。
思いがけない光景に私は思わず口を開けてしまう。



「私も、ドキドキするの。名前ちゃんといると。お揃いだね」



恥ずかしそうにそう言う禰豆子ちゃん。
私は握った手をさらに強く握りしめた。
これは、夢?神様は私に夢を見せているの?


「禰豆子ちゃんは私が好き?」


コクリと頷くその姿を見て、私はもう頭が干上がりそうになった。
神様、雨でも槍でも降らしてもいいから、どうかこの時は、この時だけは私と禰豆子ちゃんの邪魔をしないで。


居るか分からない神様に初めて祈った。













atogaki
あいさまリクエスト有難うございました!
禰豆子ちゃんお相手の
淡い片思いかと思ったら、実は両想いだった話でした。
勝手に女主にしてしまったのですが、良かったのでしょうか?💦
もし何かありましたらご連絡下さいませ!すぐに書き直しますね!!
女の子相手は初めてだったので、うまく出来るか心配だったんですが、
何とびっくりするほどするする書けてしまって、自分でも吃驚しています (笑)

- 1 -

*前次#


ページ: