長文です
微裏
「はぁ〜…お風呂最高だね」
「ね〜。けど夜雨降るらしいから洗濯できないね」
「あぁ、雷伴う台風とか…止めてほしいなぁ」
「名前ちゃん、雷苦手なん?」
「うーん…大きい音とかびくってしない?」
「突然くるもんね」
なんてことない話をしながら、風呂上がりに麗日と共に部屋へ戻ろうとしていた名前。すると前方から手を振りながら来た三奈と響香に呼び止められた。
「8時から心霊番組やるんだって!今から耳郎と下で見るんだけど、ふたりもどう〜?」
「ほ、ホラーかぁ。私苦手だからちょっとパス…」
「そっか。名前はどうする?」
「んー、行こっかな。夏って感じだし。あっでも、猫いるから」
「なら猫ちゃんウチが預かっとくよ。久々に会いたいし」
「なら、お願いしようかな」
「よっしゃー決まり!」
その場で麗日と別れ、3人でロビーへと向かう。するとそこには既に先客がいた。
「おーっす。女子もホラー?」
そこにはテレビを囲むようにして座る男子が数名いた。といっても、上鳴・切島・瀬呂・爆豪のいつもの面々なのだが。
「爆豪意外だね」
「こいつホラー好きなんだよ」
「あぁ、でも血とか好きそう…」
「そんな話より!始まったよ!」
そんなこんなでテレビの画面は一気に暗くなる。おどろおどろしいテロップと共に、『これは私が実際に体験した話です』といかにもなナレーションが流れた。
視聴し始めてから30分もしないうちに事件は起こる。段々と怖さを増していく話に皆が席を立ち始めたのだ。まじか。
「ちょ、私これ以上は怖くてムリだわ…」
「へっ、ちょ、響香っ」
「やっべ、俺宿題してなかったわー。もー見れねーなー」
「何その棒読み!上鳴!」
そして誰もいなく…なってない。私の他に、一人だけ意外なやつが残ったのだ。
「爆豪は戻んないの?」
「全然怖くねェ。要は作りもんだろ」
これでビビるほうがだせぇんだよ
呆れるように呟いた言葉に何となく私も帰りにくくなる。なんか、ダサいって悔しい。
「てめェは良いのかよ」
「別に、平気かな」
ふーん、と興味なさげに反応する爆豪の横で冷汗が流れた。嘘だ。めちゃくちゃ怖い。白い女の人、出てこないでほしい。そんな弱音を飲み込んで、視聴を続けた。しかし、空元気なんてそう長く続くはずも無くて。
「ひっ、び、びっくりした」
「きゃ、」
「ちょ、絶対出てくる絶対ドアの向こうっ、やっぱいたぁっ」
「あ、やばいって、そっちいったら…っ、わぁ!」
「あー!うるせェ!!どこが平気なんだよ!」
横で情けないリアクションを繰り返す私に遂に爆豪がキレる。むしろ、今までスルーしてくれてたのが奇跡レベルだ。えへへなんて笑って見せれば、追い打ちをかけるように爆豪は声を上げた。
「見れねェなら部屋戻れや!」
「続きは気になるじゃん!絶対部屋戻れない。目瞑ったら出てきそう。無理」
「出ねェだろ」
「分かんないじゃん!」
「んな訳………おい、お前の足元」
「えっ、やだ、何?!」
「なんもねーよバァカ」
「ばっっかじゃないの!」
くだらない嘘でビビらせてくる爆豪は悪魔だ。簡単に引っかかる私も私だけど。みんなで見ているときよりもぎゃあぎゃあと叫びながら、2人きりの鑑賞会は続いた。
「はぁ〜、終わった……」
「最後まで騒ぎやがったな」
「ごめんごめん。けど、やっぱり普通に怖いや」
「最初っからそう言やぁいいんだよ。見栄張りやがって」
「ふふ、ごめんねっ…?!」
エレベーターの前で談笑していると、背後からゴロゴロと嫌な音が聞こえる。それは決して遠くない音で。
「あー、雷かよ」
「そ、だね」
「…おい、まさかお前…」
「ん?あ、ほら、エレベーターっ、?!」
文字にするなら、ガシャァン!と言ったところだろうか。盛大な雷鳴を響かせ、名前は身体が硬直するような心地がした。隠そうとしたが、もう遅く爆豪は名前は雷が苦手だという事実に気が付いた。
「ハッ、幽霊に続いて雷もダメなんか」
「ぅ、るさいっ」
「んな睨んだって…っ?!」
「ひっ!」
先程よりも大きな音が響き渡る。これには爆豪も少し身体を固くし、名前は思わず目の前の爆豪の背中に飛びついた。どくどくと脈打つ音が聞こえるようだった。
「な、んだよ」
「ちょ、ごめん……落ち着くまで…」
「クソびびりか」
「ごめんってば」
口先では偉そうに謝る彼女の様子に苛つきを覚える。その為鬱憤ばらしに爆豪は先ほどみたいにからかってやろうと口の端を上げた。
しかし、背中に当たる手が、体が、小さく震えているのが伝わってきた。その震えは外の雷鳴と同期していて。
まじで、怖いのかよ
普段は凛とした態度で皆と話す彼女の、弱いところを見ている。何だかそれは爆豪の庇護欲を少しばかり刺激していった。
「…部屋戻れんのかよ」
「………どうだろ」
「チッ、テメーのことだろーがよ」
「正直に言えば、むり…かな」
「つーかペットいんだろ?」
「お茶子に預けた…」
「タイミング悪すぎだろ」
仕方ねぇ
と、爆豪はエレベーターのボタンを押した。
「ほんとにいいの…?」
「雷止むまでな」
「み、見返りは金か?!」
「テメェ俺を何だと思ってんだよ」
「さっきまでは悪魔」
「……死ね!」
「わっ、なんで電気消すの!」
「寝んだよ!勝手に出てけや」
意外にも自室に名前を招いた爆豪。名前は言ってみるもんだなと思いながら、まだ鳴り止まない雷鳴にびくりと身体を固くしていた。ぽいっと投げて渡されたタオルケットを身体に巻きつける。ベッドを背に座り、頭からすっぽりと被ってしまえば、少しだが安心感を得られた。
しかし、如何せんタオルケット。段々と増していく音の大きさに立ち向かうには
「…っ、ばくご」
「……んだよ、」
「隣、きてよ」
ちょっとだけ
既に横たわった爆豪に向けて恐る恐る声をかける。爆豪は最初こそ何も言わないことで拒絶を表していたが、根負けしたのか5分な、とベッドから降りてきた。
「ホントに弱虫だな」
「面目無い……ごめんね、っ!?」
「うるせェ」
「ご、ごめん……ひっ、」
音と光の間隔が狭くなってきた。雷がすぐそばにいると思うと、今までよりも怖さが増してきた。加えて、あの出来の良い心霊番組である。何かが足元から来てしまいそうな、言い知れぬ不安でどうにかなりそうだった。自分はこんなに弱虫だったろうか。
一方爆豪はむずむずとした感情を抑えきれないでいた。自分の部屋に、名前がいる。怖さで震え、そっと伸ばされた指は爆豪の指を握っていた。先程も刺激された庇護欲がまたむくむくと膨れ上がっていくようだった。
ちらり、と名前を垣間見る。雷が部屋を一瞬だけ明るくする。そこにはタオルケットを頭から被り、うっすらと涙を浮かべて恐怖に耐える少女がいた。その口が、ばくごう、と動いた。
そこからは、簡単だった。
「っ、え?」
「怖ェんだろ」
「う、んっ」
「気ィ紛らわせてやるよ」
そんな大義名分を掲げて、爆豪はそっと名前を抱き締めた。あまりの予想付かない展開に名前はえ?え?と疑問符を浮かべるばかりだった。
「ばく、ご」
「…何だ」
「なんか、頭ついていけてなくて……」
「うるせェんだよ」
爆豪はそう言うと、ゆっくりと顔を上げる。暗闇で彼がどんな顔をしてるのか彼女には分からなかった。しかし、彼から伝わる熱と溢れる吐息に、彼女まで当てられてしまいそうだった。
首筋に、吐息がかかる。柔らかい何かが、押し当てられる。それが爆豪の唇であると分かるまでに脳の処理が追いついていかない。震える。あったかい。気持ちいい。
「っ、あ」
「……ん、」
「ばくご、くすぐった、い」
「黙ってろ」
それから、唇がそっと下がっていく。Tシャツから覗く鎖骨に口付けされてしまえば、自然と息が漏れた。なんだかやらしい気分になっていく。悪いことをしてるみたいだった。
不意に湿った温かいものが鎖骨を這った。その柔らかで淫猥な刺激に身を震わせる。それは首筋をなぞったり、悪戯をするように唇を撫でてきた。名前は子供みたいなキスをしてる、とうすぼんやり考えていた。。
「ん……ぁ、」
「…唇、冷てーな」
「ばくごうが、熱いんだよ」
ふふ、と名前が微笑みを浮かべると爆豪のなかに言い知れぬ征服欲が沸き立つ。全部、自分のものにすれば、コイツはどんな反応を見せるのだろう。そんな欲望がむくむくと膨らんでいく。
一方の名前も爆豪の普段の態度とは裏腹な優し気な口づけと動き、雰囲気にすっかりと飲まれてしまっていた。先ほどまでの震えは収まった。しかし、また違う何かが身体を染め上げていくみたいだった。
暗闇に目が慣れて、ようやく彼の顔が見える。爆豪の切羽詰まった顔が、近づいてくる。触れるところ全部が熱い。頬も、耳も。それはきっと私も同じだ。爆豪の手が脇腹や胸をそっと撫でる。いつもはあんなに乱暴なのに、手つきだけは本当に愛おしいものを触るみたいで恥ずかしかった。
ぷちん、とホックが外れる。解放感。爆豪が何かを尋ねた気がしたが、ぼぅっとして分からなかった。たぶん、「いいか?」って聞いたのかな。そんな気がしてこくんと頷けば、胸へと手が伸びる。ちゃんと柔らかいかな。
不意に漏れる声は自分の声とは全く違うみたいだった。少しだけ硬くなった芯を指で転がされたら、また違う人の声がする。
「ゃ、あ………っ、ん」
「熱ィ」
「さっきは、冷たいって言った、っん…くせに……確かめる、?」
「ハッ、上等」
重なった唇に身体を預けながら、いつのまにか遠ざかった雷鳴を聴いていた。雨音はまだ聞こえる。もう怖くなかった。
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