14

 眠気を纏ったまま、瞼をあげた。訓練兵団には休息日が設けられている。言わずもがな、満足な時間を取れることは少なく、長期的な休暇は年に数回しかない。休日と言えど、訓練施設でやれる娯楽は乏しいので街に出ないと怠惰に休日を過ごす羽目になる。あたしには街に降りて遊ぶ体力も残っておらず、帰省できる実家もない。休日は前の晩からぐっすり眠って二度寝を楽しむか、実技で不安なところがあれば許可を取って自主練、座学なら書庫に行く。それぐらいしかした記憶がなかった。三度寝をして昼過ぎに起き、一日を半分無駄にしてから何かしようとするも結局はライナーたちと談笑するくらいで終わる。そんなことは日常茶飯事だ。最近、冷え込んできたのもあってベッドから出るのがもっと億劫になってきている。二度寝をしたら頬を叩いてくれ、とアニにお願いしていなかったら何度訓練に遅れていたことか。アニと同室にしてくれた名もなき職員に感謝だ。
 夢にうつらうつらと体を引っ張られつつも、寝てはいけないと頭の中で繰り返す。枕の埃臭い匂いを吸い込んで、自分の体を温めてくれていた毛布を一気に引き剥がした。毛布の中の熱が霧散して、突き刺すような肌寒さを覚えながら体を起こす。隣にいるアニに目を向けるも、整頓させた毛布があるだけだ。アニは休日になると度々、早朝から出かけている。夜間に外出していることに関係があるのだろうか。以前よりも適度に休んでくれるようになっていて、顔色もだいぶ良くなっているので、詮索するつもりはない。いつも通りの光景を見て、特に気にすることもなくベッドから這い出ると、部屋が何やら騒がしかった。同室の子が何人も窓の外を覗き込みながら、何やら話し込んでいる。状況を確認するため、毛布を一枚被りながら凍えるような寒さの廊下に寝起きの足取りで出た。目を擦って窓の外に見ると、普段の訓練所が真っ白な雪原に変わっていた。

 訓練施設がウォール・ローゼ南方の奥ばった高い位置にあるとはいえ、これほどの雪が降るのは珍しいようだ。広い範囲で膝の高さくらいある雪が地面を覆っていて、このままでは訓練に差し支えるらしく、あたしたち訓練兵は休日にも関わらず雪掻きに駆り出されてしまった。どうせ屋内でしか暇を潰せないとはいえ、とんだとばっちりだ。朝は宝石のように見えた雪も、これだけの重労働を強いられれば憎くなってくる。宿舎を担当に回されたあたしは梯子で慎重に屋根の上へ登って、生き埋めになっても気付くように複数人で作業を始めた。ずしり、と固まった雪と水の重さが手に伝わってくる。スコップをうまく使って屋根の端に詰めていく、落とす際は下にいるライナーへ注意喚起して、返事が聞こえたら体の底に力を込めると、全体重をかけて押し出す。これを何十回を繰り返す。足場は悪いし、雪は一向に止む気配が見えずに手が悴んできた。灰色の分厚い雲から落ちてくる無数の結晶が、手のひらで溶けるの神秘的な光景が唯一の息抜きだ。あたしはまだ開拓地で経験があるからいいものの、雪かきを始めてする訓練兵も多いようだった。スコップを雪に刺して休んでいる人の様子があちらこちらでよく見える。

「雪かきって、こんなに……疲れるんだな」

 手を止めて、額を拭いながら言ったのはマルコだ。彼はジナエ町出身のようなので、雪かき初体験組に分けられる。最初こそ気分が高揚したけれど、まさかこんな重労働を強いられるとは考えなかっだろう。あたしも開拓地で経験する前はその一人だった。

「ノエルは楽そうだね」
「開拓地でやらされて慣れてるだけで、そこまでじゃないよ」

 買い被り過ぎだと手を振ってみる。あたしはもう疲れてきているし、腕の筋肉もあまりない。何度かしていたので、見てくれがいいだけの凡人だ。

「ライナーとかベルトルトが率先してやってくれてたから、あたしもヘトヘト」

 開拓地に選ばれるのは、作物を育てるのに適していない荒地が多かった。やけに人里離れた山奥なんかもその一つで、そこは雪が高い壁のように積もる。物資の搬入にも、開拓にも、雪かきは必須だった。やらされるのは立場が弱い子供や老人で、怪我を負っているあたしの力では酷だろうと体力がある二人があたしの分までしてくれていたのだ。

「ねーアニ?」

 黙々と作業を続けているアニに同意を求める。今朝からどこかに行ってしまったかと思っていたアニだが、この雪では訓練所から出るのも叶わなかったらしい。運悪く教官に捕まって、今ここにいると言う訳だ。

「あんたと一緒にしないで」
「あたしの体力がないだけか……」

 疲労困憊寸前なのは、日頃の体力強化を怠ったかららしい。立体機動装置の扱いにばかり注目しがちなので、座学が疎かになったこともある。より気を引き締めなければ、振り落とされてしまうだろう。

「ライナー、雪落とすよー」
「おう、いいぜ」
「よろしくね」

 屋根の淵に溜まってきた雪をライナーに確認を取ってから、落としていく。屋根の上は考えていたより広く、滑りやすいのもあって足場が悪い。教官の話では、訓練所の建物が積もった雪によって歪む可能性があるらしいので、早急な除雪が望ましいとのことだった。これを全部下ろすまでには骨が折れそうだ。一区切りついて、ほっと白くなった息を吐く。

「ホットミルクとか飲みたいなぁ」

 冷え切った体に注ぐ熱々の飲み物。想像しただけで、今すぐスコップを放り投げて食堂に行きたくなる。脳裏で過ぎった欲望をそのまま声に出すと、そばにいたマルコが顎に手を当てて言った。

「ミルクか……教官に交渉したら手に入なくもないな」

 まさかの言葉に反応してマルコの顔を即座に見つめると、マルコはあたしの食いつきように笑っていた。スコップを腕に抱えて、少しの間目を伏せていたマルコが顔をあげ、こくりと頷く。

「うん、僕が話してみるよ」
「やっ、やっぱり、マルコって最高だよ!」

 間違っていなかった。マルコは最高だ。だって、雪かきのあとに飲むホットミルクは考えただけでも最高だから。自分ではどう教官を説得すればいいか分からずとも、マルコなら容易にこなすだろう。スコップを放り投げて、謙遜するマルコを褒めちぎった。

「ねっ、アニ」
「そうかもね」

 あたしをあしらったアニは足で器用に雪を落とした。教官に見つかって強制参加させられたせいで、アニの機嫌は悪そうだと思っていたけれど、そうでもないらしい。
 それからも、あたしは単純な除雪という作業を続けた。疲労は尋常ではないが、目を瞑れば蘇るホットミルクの香りに味。雪かきを終えた後のホットミルクは格別だろう。マルコの交渉を成功させるにしても、あたしたちが雪かきに尽力しなければ。外に出てきた教官をあまりの綺麗さに驚嘆させるくらいはないと。会話も謹んで、それぞれが雪かきを続ける。しんしんと降ってくる雪が肩にも積もってしまう。無心でスコップを動かしていたのをやめ、一息ついて肩の雪を払ってきると、何やら賑やかな集団が目に飛び込んできた。

「あれ……あっちはもう終わったのか」

 白銀の雪原で楽しげにはしゃいでいる集団は食堂を担当していた班だ。食堂の屋根はさっぱり綺麗になっていて、薄い雪が乗っているだけだった。真っ赤なマフラーが似合う人物を発見して、納得する。ミカサがいるなら、雪かきも早く終わるに違いない。ついでにジャンも一緒なようなので、いいところを見せようと張り切ったんだろうか。集団でぐったりとしている人がジャンだった。村育ちのコニーはともかく、山育ちのサシャもいるし、雪かきが早く終わったのも必然だろう。
 あたしも雪かきから解放されて、そちら側に行きたい。羨望の眼差しでミカサたちを見ていると、コニーとサシャがその場でしゃがんで白い塊を投げ出した。ジャンが集中砲火されて、遠くからでも分かるくらいブチギレている。二人の影が逃げ回って、ジャンが雪玉を投げながら怖い顔で後を追う。サシャ目掛けて放たれた玉が、ミカサの頭に当たった。ジャンが慌てて弁解しようと駆け寄ったが、雪玉の破片を乗せたままエレンを手伝いに歩いて行く。

「遊んでるな、あれは」
 
 あまりにも気の毒な展開に、くすりと笑っていたら同じようにその様子を眺めていたマルコがつぶやいた。あたしは近づいてきたコニーに向かって、手を振りながら問いかける。

「コニー、何してるのー?」
「見てわかんだろ!命を賭けた殺し合いだっ!」

 コニーが言った直後、真正面からサシャの雪玉がクリーンヒットした。衝撃でひっくり返ったコニーが腕で抱えるくらいの雪の塊を作って反撃に出る。攻撃力に全振りした雪玉はサシャの投擲によって破壊されてしまった。コニーは遮蔽物を作って安全地帯から攻撃することを選択、雪を山にして遮蔽物を作っている。

「雪合戦だね……」
「楽しそう」

 開拓地では労働ばかりで、遊ぶ暇などないに等しかった。邪魔なだけの雪で遊ぶ発想もなかったし、訓練兵団で雪遊びをする日が来るとは。緊張で震えていた入団前は考えられない光景だ。

「早く終わらせればノエルも参加できるんじゃないかな」
「マルコはいいの?」

 その策があったか、と作業の手を早めるあたしはマルコの言い方が引っかかって聞き返す。遮蔽物をうまく使ったサシャが優勢で、コニーが白くなっているのを一見してから、マルコは首を横に振った。

「僕は……みんなにホットミルクを用意して待ってるよ」

あたしたちばかりが遊んでしまって申し訳ないけれど、ここはマルコの言葉に甘えさせてもらおう。マルコの気配りに感謝の言葉を告げながら、黙々と雪かきをしているアニに向かって声を投げかける。

「アニは」
「私はいい」

 あたしが何を言うか先読みしていたようだ。言葉を最後まで言い切るよりも先に、アニはキッパリと言い切った。アニと一緒に雪遊びしたかったけれど、無理にやらせたって意味がない。残念だ、と肩を落としかけて、目の前に何かが横切った。鈍い音がしたかと思えば、粉雪が散る。アニの鼻筋を雪の塊が伝って落ちていった。あちゃあ、と考えているあたしの下からコニーとサシャの慌てふたむいた声が聞こえてくる。

「コニーです!コニーがやりました!!」
「わ、わざとじゃねえんだ!わざとじゃ!」

 アニが足元の雪を掻き集めて、小さな雪玉を作る。念入りに圧縮されていく雪玉は大きさの代わりに強度を増していく。手のひらで雪玉を転がしているアニに、コニーが目を見開いた。弁解の声は届かず、美しいフォームで投げられた雪玉がコニーの顔面にめり込んだ。

「ぶっ!!!」

 頭を正確に捉えた魔球でコニーの体が後ろに倒れる。サシャが駆け寄っているけれど、悶絶して起き上がれていないようだ。恐ろしい光景を目撃してしまったあたしとマルコは顔を見合わせる。パンパンと手をはらったアニは顔についた水滴を拭いながら言った。

「私は、いい」
「それが……いいかも」

 その後もあたしたちは懸命に雪かきを続けて、屋根の雪を下ろし終えた。教官に雪かきの完了を報告し、自由の身となったのだ。食堂に入っていくマルコへ手を振り、懲りずに雪合戦を続けているコニーたちと合流した。同じように雪かきを終わらせた同期たちと合流して、雪合戦はチーム戦となった。戦術や遮蔽物の設置場所などを凝り出したら止まらなくなり、ついでにエレンやアルミン、最強のカードとなるミカサが投入され、それはもう盛り上がった。全員が雪を被って乱戦状態で、訓練ばりの指示が飛び交う。雪玉作り担当が雪玉の作り方を工夫し始めたり、エレンに雪玉を当てた人物全員がミカサの報復を受けたりしていた。最終的には疲労の声がポツポツと上がり出し、屋内に帰り出す者とまだ体力が有り余っている者に分かれたのだ。ことの発端であるコニーとサシャは広場の真ん中でかまくら作りに没頭している。
 二人ほどの体力がないあたしは、建物を背にあたしの攻防を傍観していたアニのところへ来た。溶けて消えていく白い息を吐き出して、体をさすった。

「寒くない?」
「別に」
「あたしは手がしもやけになりそーだよ」

 アニの肌は元から青白いので、冬がよく似合っている。飄々としているアニが羨ましくなりながら、あたしは肺を膨らますように息を吸ってから手のひらを温めた。震えるほど体の芯から凍えているのではなく、何枚も重ね着をしてきたのが功を奏したらしい。こうでもしなかったら、雪合戦の前半であたしは退場していただろう。

「五人に当てたんだよ!見てた?」
「ミカサには当たってなかったね」
「あれは無理」

 あれは当てようと思って当てられるものじゃない。完全に当たったと脳が確信しても、次に目を開けたらミカサは消えている。顔に冷たい感覚と衝撃が伝わって、崩れ落ちるのはいつもあたしだった。

「アニは何してた?」
「何も」

 通常運転の答えを聞きつつ、アニの隣に行こうと足を伸ばす。動こうとしてアニの足元に視線が止まった。雪が積もらない屋根の下。土の色をした地面の上で丸い形をした雪だるまが一匹、佇んでいた。

「アニが作ったの?」
「違う。あたしがきた時にはもうあった」

 顔を逸らされてしまったので、表情を窺い知ることはできない。アニが雪だるまを作っている様子が脳裏に浮かんできて、口角を上げていたら鋭い目で睨まれてしまった。その視線から逃げるようにしゃがんで雪の塊を両手で寄せる。散々遊んだせいで真っ赤な指先を服の摩擦で指を温めながら、雪玉をつくっていく。少し遠出しては枝葉や石を拾ってきて、雪だるまの顔になる部分にくっつけた。一つができたら、その隣にもう二つ雪だるまを作る。自分の納得がいく形になってから、黙ってあたしを見守っていたアニにお披露目した。

「じゃん。ベルトルトとライナーで、これがアニ」

 右肩下がりに並んだ雪だるまを背の高い順に指差していく。ベルトルトは身長を、ライナーは特徴的な眉毛で表現してみた。アニの雪だるまには後ろから見るとお団子がついている。なかなかの自信作なので、胸を張って感想を聞いてみたが、アニの表情は優れなかった。

「似てない」
「手厳しいなぁ……」
「あんたが足りないでしょ」

 厳しいお言葉に何が足りないんだろうと考えかけて、アニは空いた空間を指さした。三人を作り終えて、すっかり満足していたので自分の存在を忘れていたのだ。アニがあたしを一員として認めてくれているみたいで、気分を高揚させて早速自分を作った。そこまで大きさはないけれど、雪だるまも四体並ぶと見応えがある。動き回って温まった体で、アニに今度こそ完成形を披露した。

「これでどう?」
「ま、いいんじゃない」
「やったー!」

 アニから太鼓判も貰えたことで、一仕事終えて壁に寄りかかる。雪が激しさを増して、あたしたちが頑張って雪かきした屋根を白く染めていっていた。これで明日も吹雪だったら、立体機動術はどうなるんだろう。雪の中で強行される訓練を思い浮かべて、顔を青くしているあたしにざくざくと二人分の足音が聞こえてくる。

「お前ら二人で何やってんだ」

 近寄ってきたのはライナーとベルトルトで、二人してあたしたちの足元にいる雪だるまたちを不思議そうに見ている。雪だるまとあたしたちを見比べてから、ライナーが口を開いた。

「これを……お前とアニが?」
「私は作ってない」

 アニが即答する隣で、あたしは製作者だとアピールするように手を挙げた。真っ赤になった指に気づいたライナーが一歩踏み込んで、手を握って熱を分けてくれる。

「指が真っ赤だ。あっためないとだめだろ」
「冷たくない?」
「ああ、冷え切ってるぞ。全く……」

 自分の手がライナーの節ばった大きな手に包まれている。世話を焼いてくれるライナーに申し訳なくなりつつ、二人に説明したい気持ちをグッと堪えていると、後ろにいたベルトルトが雪だるまを前にしてあっと声を上げる。

「この雪だるま……僕たちだ」
「ん?……よくわかったな。言われてみりゃそうだ」
「でしょ!」

 ライナーの腕をそのまま引いて、力作のポイントを説明した。二人とも真剣に聞いてくれるので、調子に乗って材料の調達場所なんかもついでに語ってしまう。

「アニ!二人ともわかってくれたよ」
「本人だからじゃないの」

 あたしが器用でもなく、材料もその辺の葉っぱや枝なのでその可能性は大いにある。それでも、全員に伝わったのが嬉しかった。屋根の下で雪だるまを前にして四人で並ぶ。雪はより激しく降っているはずなのに、この空間だけは寒さが伝わってこない。

「冬は寂しくて寒いものだったけど、楽しくて温かい冬もあるんだね」

 開拓地では冬の到来は死と隣り合わせだった。あたしには三人がいたからよかったけれど、満足な寝床も食料もない子供たちは死んでいく。四人固まって寝て、必死に我慢する時期。それが、あたしにとっての冬だった。今はまるで違う。みんなで遊んで、たくさん笑って、みんなの雪だるまも作れた。外は冷え切っていても関係ない。四人といたら、もっと暖かくて無敵になったようだ。ライナーの手を握り直して、みんなに笑いかける。

「……そうだな」
「おーい!みんな、ホットミルクが用意できたよ」

 食堂から大声が聞こえてきた。みんなを呼び集めようとしていたのはもちろんマルコで、その手に湯気を纏ったカップを持っている。マルコは教官を説得する任務を成し遂げてくれたらしい。

「マルコー!ありがとー!」

 あたしの欲張りに答えてくれたマルコに手を振って、グッドサインを送る。マルコはそれに答えてから、食堂に向かって来る人たちを先導して中に入れていた。あたしたちも飲もう、と提案したらアニも何気に乗り気だったので、四人で纏まって食堂へ足を動かす。後ろ髪を引かれる思いで振り向くと、愛着のある雪だるまたちが遠くなっていた。ベルトルトの雪だるまさえ小さい。

「そのうち、溶けちゃうのかなぁ」

 雪だるまなので、溶けることからは免れない。ライナーたちにも好評だった力作がなくなってしまうとは悲しくて、無念の一言を洩らしてしまう。

「記念に撮れりゃあ良かったのにな……」
「と……?雪だるまを取るの?」

 ライナーの言っている意味が分からず、尋ねるとはぐらかすようにライナーは笑っていた。それっきり、険しい顔で黙り込んでしまう。そうこうしている間に食堂の中へ入り、机に並べられたホットミルクに感嘆の声をあげる。持つだけで体が温まっているカップを二つ分手に取った。ライナーの分も渡そうとしたら、アニがすねに蹴りを入れているのを目撃してしまった。呻き声をあげて痛そうにしているライナーに声をかけようとしたらアニに背中を押されて、席についた。食堂の入り口付近ですねを押さえていたライナーは立ち上がって介抱していたベルトルトと二人で遅れて席につく。ライナーがアニに悪態をついたが、返事はない。何やらよくわからないことが起こったけれど、雪の日のホットミルクは格別だった。
 その日以来、暇があったら雪だるまたちの様子を見に行っていたのだけど、作った日のような大雪は降らず、数日もしたら四人とも影も形もなく溶け消えてしまっていた。