1*世界が牙を剥いた日


「じゃあ、いず、かっちゃん、また明日ね!」

「うん!なまえちゃん、また明日!」

「なまえ、明日は寝坊すんなよ!」

きれいなオレンジ色の夕陽も傾いて、もうすぐ夜がやってくる。
一緒に遊んでいた友だちに別れを告げ、各々が自分の家へ帰って行った。

「ただいまぁ!わぁ…いい匂いがするー!」

「おかえり、なまえ。まず手、洗ってきなさい。」

ごくごく普通の、平凡な日常。

「おとーさんまだかなぁ?」

「もうじき帰ってくると思うよ。」

ありきたりな幸せな家庭。

「ただいまー」

「帰ってきたっ!」

楽しい食事に、暖かな家族団欒。

「お腹いっぱい!おいしかったぁ!」

「ふふ、良かった。」

温かいお風呂に、ふわふわのお布団。

「おとーさん、おかーさん、おやすみなさい。」

「あぁ、おやすみ。」

「おやすみ、なまえ。良い夢を。」

当たり前に、そこに在った。

「おとーさん…?」

「来、ちゃ駄目だ…なまえ!」

この先もずっと、在り続けると思っていた。

「おい、ガキも捕まえろ!」

「なまえ、逃げ、ろ…!!」

突然奪われる未来なんて、想像できなかった。

「おと、さん…お、かあ、さ、」

平凡な日常は消え去り、生活ががらりと変わった。


あの日、世界が急に牙を剥いた。






6年後、4月、雄英高校入学式

「全身ピンク!可愛いねー!私はみょうじなまえ!よろしくねっ!
あ!さっき校門で見かけたケロケロ女子!ね、ね、おはよー!」

「おはよう、とても元気ね。」

雄英高校1年A組に響き渡る元気な声の主はみょうじ なまえ。人当たりの良い笑顔で様々な人に声を掛けている。

「なぁ!俺、上鳴電気!よろしくー!とりあえず連絡先交換しね?」

「オレは峰田実!とりあえずスリーサイズ教えてくれ!」

なまえが女子と挨拶をしている間に割って入ってきたのは上鳴と峰田だった。なまえは二人に笑顔を向ける。二人はそれだけで顔を赤くした。

「上鳴くんに峰田くん!よろしくね!私は」

「チッ、朝からうっせーんだよ。」

ガタンッと机を蹴飛ばし、なまえの言葉を遮ったのは爆豪勝己。なまえら当人だけでなく、周囲の者たちが押し黙る。
爆豪はなまえと目が合うと、一度口を大きく開いてから、再び舌打ちをして椅子に座ると、片足を机にかけた。
そこへカクカクと手を振りながら駆け寄る男が一人。

「君!机を蹴飛ばしてはいけない!机に足をかけるな!
雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」

「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。」

二人が騒いでいる所に教室に入ってきたのは緑谷出久だった。なまえは緑谷を見た後、爆豪を見て、再び緑谷を見た。
突然大人しくなり、緑谷から顔を逸らし自席へ戻った。

少しして寝袋から出てきた無精髭の男、相澤消太は担任を名乗り体操服に着替えてグラウンドに出るよう指示した。

2023.4.20*ruka



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*confeito*